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アヴェリアム・コード ~消えゆく世界と世界を渡る符術使い~  作者: ボジョジョジョ
第六章 鋼糸が紡ぐ先には人形と少女がいる
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五十七 切れた精神同調

「あの二人が死んだっていう証拠は?」


 マギリの声が鋭さを増す中、マオの心中は激しく撹拌していた。


『……本当に死んだの? 誰が? お兄さんが? 絶対違う。嘘だ嘘に決まってる。お兄さんは死んでないに決まってる。この男が嘘をついている。そうだ。そうに決まってる。だって、お兄さんはあんなに強くて』


『落ち着きなさい! まだ死体が見つかったわけじゃない』


 後悔が胸中を奔る中、マギリはマオに叱責した。


 安易に慰めるんじゃなかった。安易に希望を与えるべきではなかった。


「あの二人なら今頃、この下に埋まってるんじゃないかなー?」


 コトが地面を指さしながらそう言った。


 全員が真下を見る。あるのは雪が積もりつつある濡れた地面だけ。だが、コトが何を言っているのかわからないほどマギリ達は馬鹿ではない。


「埋めた……ってことでいいのね?」


 マナが眉間に皺を寄せながら言った。


「そうだよー」


 マギリの中で二人の生存率があやふやになっていく。鍵を使用すれば、間違いなく助かるとは思う。だが、ナチを救うために使用するだろうか、ミアが。


 今回は利害の一致で一時的に協力関係を築いているが、彼女は元々ナチ達を殺害するのが目的。これを好機と捉え、鍵を自らにしか使用しない可能性は十二分にある。


 そもそも『貴族区』に向かう編成を決定した際にマオが抱いた不安と怒りは主にそれだ。


 ミアが裏切り、ナチを殺害するのではないか、という不安。


 それがマオから平静を奪ったというのに。今になって後悔しても遅いと理解しているのに、溢れる後悔から目を背けることができない。


『生きてるよね……? お兄さん、生きてるよね?』


 マギリは何も言えなかった。否定も肯定もしない。分からないから。マギリにだって確かなことは判然としていないから。マギリは何も言えなかった。


『ねえ、マギリ! 何とか言ってよ! さっきまで生きてるって! 安心しろって言ってたでしょ!』


 マギリは下唇を噛み、視線を下げた。


『分からない。多分ナチだけならもう……でも鍵があればもしかしたら……』


『そんなのほとんど死んでるって言ってるようなものじゃん!』


 泣き叫ぶような悲痛な声でマオは言った。


 彼女の中の懐疑心が悲鳴を上げている。心の器が不安で壊されていく。乱された心はそのまま懐疑と怒りを生み続け、それを一点に向け始める。


『嘘だ……嘘に決まってるよ……お兄さんが死んだなんて……嘘に決まってるよ!』


 瞳が紫色から紅色に変化する。精神の同調が切れた証拠。激しく揺れ動くマオの心が精神の同調を拒んでいる。いや、高まり続けているマギリへの懐疑心が無意識に精神の同調を拒否しているのかもしれない。


「やるわよ、あんたら」


 嘘だ嘘だ、と啜り泣きながら唱えているマオの声から目を背けるように、マギリは眼前の敵に再び視線を向けた。


「勝てるのか、私達だけで?」


「勝つのよ。勝てなきゃ、あの二人は孤児院の誰かを殺す。いいや、全員殺すつもりなのかもしれない。殺すしかないのよ、私たちだけで」


 あの二人はいない。生死不明の人間に縋るほど、マギリも愚かではない。ここでこの二人を倒すしかないのだ。ここにいる三人と一匹で。


「仮にも娘の友人のようですから、手加減はしてあげますよ」


「えー、手加減苦手なんだけどー」


 コトの能力は既に知っている。相手の能力を奪う砂を操る、倫理のない子供。


 そして、オズは力の出力を零に戻す力『虚構遡行』。


 コトの砂はマギリとリーヴェの能力で対抗できる。問題はオズだ。オズを倒すには能力を使う暇を与えず、反応できないほどの高速攻撃。さらには一撃で倒しきるほどの破壊力を持つ技が必要になる。


 《雪の流刑地》も《絶硬零度》は既に破られている。もし《雪の流刑地》が完全ならば、などとは今は考えない。考えてはいけない。希望的観測は今の状況では敗北に直結しかねない。


 しかも、マオとの精神の同調が切れた今、《絶硬零度》は使えない。


 今のマギリではオズに対抗できないのは火を見るよりも明らか。が、ここにはマナとリーヴェがいる。


 マナの能力は高速移動を可能とする『加速』。リーヴェの能力は天候、天災を操る『天を統べる覇皇』。そして、マギリの《絶対零度》。


 上手く共闘すれば、勝てない相手ではない。その上手く共闘する方法が分からない、というのが最大の難点だが、即興で合わせるしかない。


「コト。離れていなさい。私一人で問題ありませんから。ですが、分かってますね?」


「もっちろーん」


「行くわよ!」

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