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アヴェリアム・コード ~消えゆく世界と世界を渡る符術使い~  作者: ボジョジョジョ
第六章 鋼糸が紡ぐ先には人形と少女がいる
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四十九 捜索

 窓を閉め終え、鍵をかけたナチが淡々と言うと、ミアを先頭に家具も道具もなにもない閑寂な部屋に落ちる砂を避けながら、三人は部屋から素早く出た。床に敷かれた高級絨毯を踏み、人がいない部屋を次々と開けていく。が、都合よく手掛かりが見つかるはずもなく、一階の空き部屋を全て見終わった段階で手掛かりは零。


 残すところは人がいることが分かっている二部屋を探すのか、二階へ進むか、という二択だ。ナチ達は一度、空き部屋に入り、透明化を解除した。


 久しぶりに肉眼で捉えるミアとマナ。ミアは相変わらずの無表情だが、マナは緊張しているのか表情が強張っていた。


「一つ一つ部屋を見て回るというのは確実な手法ではありますが、非効率ですね」


「そうだね。別に行方不明者全員を見つけなくてもいいんだしね」


 行方不明者の手がかりは一つあればいい。それは行方不明者の持ち物でも、本人でもいい。


 もっと言えば生きていようが、すでに命を落としていようがどちらでもいい。


 手掛かりは死体でも構わないのだ。ここに行方不明者が運び込まれたという事実があれば、『貴族区』の人間もこの区を捜査せざるを得ない。もちろん、それだけでは犯人の特定をすることは出来ないが、どちらにせよ現行犯を押さえない限りは今のナチ達に犯人を特定することはできないので問題はない。


「でも、一つ一つ部屋を開けて見ていくしかないわ」


「人がいない部屋に関しては一つ一つ見て回るしかないですが、人がいる部屋に関してはここでも見ることは可能です」


「どうやって?」


「一度、あなた達と私の視界を繋げます。あなたは透明化を施してください」


 言われた通りにナチは自身とマナに透明化を施し、ミアは再び視界を繋げた。暗闇だった眼前がすぐに色彩を宿していく。肉眼で視認するよりも鮮明に映るミアの視界の中で、普段なら捉えることは不可能だろう、と思えるほどの無数のか細い糸がドアの隙間から部屋の外へと放出されていく。


 そして、サーモグラフィへと視界は切り替わり、視界は激変する。僅かに熱を持つ糸は蛇のように床を這っていき、部屋に侵入。そこにいた人影に向かって糸は緩やかに伸びていく。そして、糸と人が繋がった瞬間に視界が変わり、ナチとマナは思わず声を上げそうになる。


 映っている景色は先程までナチ達が居た薄暗い部屋の景色ではない。蝋燭の火が部屋を照らし、煌々とは呼べないまでも仄明るい部屋の景色がナチとマナの眼前に広がっていく。


「そこにいる人間の視神経と私の糸を繋げました。瞳が拾っている光を私の糸に流し、こちらにも映像を送っています」


「こっわ。失明したりしないの?」


「そこにいる人間が私の糸を無理に引き抜いたりしなければ、失明の心配はありません」


 そして、無数に放たれた糸は二階、三階、四階へと移動し、ミアが熱源探知した全ての人間と糸を接続した。二十七分割に表示される映像を見て、マナだけが小さく悲鳴を上げたがミアは淡々と見る価値がないと判断した映像を排除していき、ナチは無言で映像を眺めていた。


 どの部屋にも行方不明者と思しき、人間はいない。血痕や衣服の破片が床に落ちているということもない。部屋はいたって正常。どこにも不審な状況はない。


 それがナチとミアの状況判断。これ以上の接続は無意味だろう、とナチとミアは判断し、接続を一つずつ解除していく。そして、二十七分割だった映像が十二分割にまで減っていった時にナチとミアは同時に十二番目の映像。三階に位置する部屋の映像に同時に意識を集中させた。


「今、何か動かなかった?」


「ええ。今何か……」


 十二番目の映像の人間は休憩しているのか、視界自体に大きな動きはない。だが、不自然に何かが動いた。が、その瞬間をナチもミアも見逃してしまっていた。


 動いたと思われるその『何か』は天井付近。そこに何か変化が起きた。高速で何かが動いたのか、そこに存在した何かが消失したのか。それともただ単に鼠か虫が動いただけなのか。


「拡大とかできないの?」


「出来ません」


 と言いつつも、ミアは十二番目の映像のみを残し、他の映像を完全に排除。それだけを表示することで結果的に映像は拡大された。


「気のせい……か?」


 そんなことがあるのか? ナチが見逃すならともかく、ナチよりも優れた機械の目を持つミアが見逃し、特定できないという事態がこの世界に存在するのか?


 虫や鼠が移動した程度の速度をミアが捉えられないということがあるのか?


 そんな疑問がナチの脳内を撹拌し、ナチは思わず首を傾げてしまう。ナチが表示された部屋、天井付近を凝視し続けていると変化は唐突に起きた。


『こんにちは、泥棒さん?』

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