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アヴェリアム・コード ~消えゆく世界と世界を渡る符術使い~  作者: ボジョジョジョ
第六章 鋼糸が紡ぐ先には人形と少女がいる
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四十一 決定

「私に『貴族区』へ向かうメンバーを選出させていただけませんか?」


「それを僕達が許可すると思うの?」


「それを言うのならば、あなたが独断で『貴族区』に向かうメンバーを選定するのも非常に独裁的な話ではありませんか?」


「僕の意見が最終決定になるわけじゃない。最終的には皆で決めることだ」


「ならば、私の意見もあくまで一つの意見と捉えることは可能なはずです」


「まあまあ、落ち着け二人とも」


 より瞳に冷たさを宿していくナチと常に冷淡な瞳を浮かべ続けるミアの間に入ったのはクレイだ。クレイは二人の肩を叩き、壁にもたれかかった。


「まずはこちらのお嬢さんの話を聞かないことには否定も肯定もできない。違うか? ナチ」


「そう……ですけど」


 そんなことはナチにだって分かっている。だが、ミアが選んだメンバー次第では事態は最悪に陥りかねない。彼女はこの場では戦闘を行わないと発言しただけで、戦闘しないとは一言も口にしていない。彼女が世界を終焉に導くために送られた使者であることに変わりはないのだから。


「じゃあ、ミアって言ったか。話してみてくれ」


 ミアは小さく頷き、口を開いた。


「『貴族区』に向かうメンバーはナチとマナさん、そして……私の三人で向かうのが最も効率的かつ成功率が高いと思われます」


 ナチは一瞬だけ目を見開き、すぐに元の大きさに戻した。


 『貴族区』に向かうメンバーをナチが選出するのならば、ナチとイズ、そしてマナ。この三人で向かうのが最も効率的だと思っていた。


 ナチとマナにはもしもの時、視認不可能な速さで移動することのできる高速移動手段がある。イズには広範囲の音を拾うことのできる優秀な聴力があり、もし『貴族区』の人間に見つかったとしても、迷い込んだ野良兎として通すことができる。


 それゆえにミアの意見にナチは素直に意表を突かれていた。この人形が自らを作戦に含み、そこにナチを含めたことが。殺すべき敵と同行し、同じ作戦を実行するなど普通ならば有り得ないから。そんなことを言えば、ナチ達がどう感じるのかくらい、容易に理解ができるはずなのに。


「どうして、そのメンバーなんだ?」


「ナチとマナさんには視認不可能なほどの高速移動を可能とする手段がある。この能力は逃亡にも暗殺にも有効な能力です。当然、私にもその能力が備わっており、私には広範囲の音を聞き取ることを可能とする機能もあります。それに私の力は基本的に潜入や特殊工作向きですから、今回の作戦には最適かと思います」


「なるほど。確かに話を聞く限りではお前たち三人で向かわせるのが最適だが……どうだ、ナチ。何か意見はあるか?」


 ナチが下唇を噛み、発言をしあぐねているとミアがマオに一瞬だけ視線を向けながら、言った。


「あなたは自分が『貴族区』に潜入している間に、私が『世界を救う四つの可能性』を殺害するかもしれないと危惧していたのでしょう? だから、幼稚な子供の様に私の意見を押しつぶそうとした。違いますか?」


 違わない。全くもってその通りだ。


 ナチは眉間に皺を寄せながら、ミアから視線を逸らした。


「あなたは信用していないのですね、『世界を救う四つの可能性』を」


 視線をそらした先にいたマオが悲痛な面持ちでナチを見つめていた。


 敵に指摘されたナチとマオの関係性。図星だ。


 どの世界においても、絶対や完全は存在しない。どれだけ最強と謳われた戦士も敗北しないわけではない。圧倒的な優位性を維持したまま勝利するとは限らない。


 また、マオとマギリの実力を過小評価しているわけではない。それでも、絶対に安全と言えない状況なのだから、常に最悪を想定して行動を選択しなければならない。


「……勝手に決めないで」


「……マオ?」


 ナチから視線を外したマオは悲痛な感情を消し去り、意を決したかのような強い瞳でミアを睨んだ。


「お兄さんの気持ちをあんたが勝手に決めないで」


 ナチはほぼ無意識にベッドのシーツを握り、意識的に強く握りしめた。


「別に私はあなた方の信頼関係の真偽はどちらでも構いません。それで、『貴族区』に向かうメンバーは」


「それは」


 クレイの言葉を遮るようにナチは口を開いた。


「僕はミアが提案したメンバーで構わない」


「お兄さん? 何を考えて」


「よろしいのですか?」


 私があなたの敵だということを忘れたのですか? とそんな声が容易に聞こえてきそうな問いにナチは笑顔で回答。


「別に構わない。君は払うべき礼節は払うんでしょ?」


「……ええ、まあ」


勝利することは叶わなくとも、自分の身を守る自信は当然ある。無ければ、こんな穏和な会話を繰り広げたりはしない。ならば、この殺人人形と同行することに何も問題はない。


 それにこの人形も『貴族区』に向かうというのならば、マオがこの殺人人形から命を狙われるリスクは少ないといえる。問題はない。


「なら、構わない。ああでも、変な真似をすれば容赦はしない」


 ナチとナチの言葉を意に介していないミアだけが気づいていない。


 二人以外の人間がナチが浮かべた冷笑と言葉に思わず息を呑み、鳥肌を立て、ナチに対する印象を急速に変換したことを。


 ナチの左足に麻痺が残っていることなど、この時誰もが忘れてしまうほどにナチからは残忍で冷酷な雰囲気が漂い、ハンデを背負っているはずの彼を倒し、殺す場面を想像することが到底不可能なほどにナチからは隙を見出すことができなかった。


 どれだけ強大な力をぶつけても、防御不可の絶対的な力を放ったとしても、彼は容易に対処し、それ以上の手段で反撃してくるのではないか、と思わせるほどには彼の雰囲気は強者染みていた。


「お手柔らかにお願いします」


「あの……私の意見は?」


 ナチとミアがほぼ同時に控えめに挙手をしたマナへと視線を送り、再び視線を戻した。自然と見つめあう形になったナチとミアは無言で睨み合い、数秒後にマナへと視線を戻し、口を開いた。


「ああ、ごめんねマナ。マナもこの行動と主張が一貫してない不愛想な人形の意見に異論はある?」


「申し訳ありません、マナさん。この男が幼稚な主張をしたばかりに話が拗れてしまいました。マナさんも意見があるのならば、どうぞ発言してくれて構いません。さあ、どうぞ」


 笑顔のナチと無表情のミアの無言の圧力に気圧されたマナは、一歩後ずさると、引き攣った笑みを浮かべ、胸の前で大げさに手を振った。だが、気圧されたマナ以外の人間は二人のやり取りを怪訝に見つめていた。


「……いや、特にないです。異論なんて何もないです」


「なら、『貴族区』に向かうメンバーはこれで決定だな。出発時刻は日没と同時に潜入し、日の出までに成果があろうがなかろうが、一度戻ってくること。潜入してからはお前たちに全て任せることになるが、それでいいな?」


「うん、大丈夫だよ。マナは本当に大丈夫? 勝手に決めちゃったけど」


「大丈夫よ。あなた達は『貴族区』に立ち入ったことがないでしょう? だから、案内役も必要になると思うし」


「そっか。ならよかった」


「私も問題はありません」


「話がまとまったようですので、私は一度協会に戻ります。あなたはどうしますか、クレア?」


 クレアは両手をへそ辺りで組み、綺麗にお辞儀をした。


「私は少しリーヴェと話さなくてはならない用事がありますので、ここに残ります」


「そうですか。では、私は協会でお待ちしておりますので、日没前にお立ち寄りください」


 そう言って、全員に頭を下げ部屋を出て行った司教の足音が離れていく。司教に続いて、クレイも後を追うように部屋を出ていった。


 足音が徐々に遠くなり、完全に聞こえなくなったのを確認したクレアは先程までの冷たい印象を抱かせる怜悧で硬い表情を一瞬で崩した。


「あんたがお兄さんかあ。見た目はなんか普通だねえ」

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