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アヴェリアム・コード ~消えゆく世界と世界を渡る符術使い~  作者: ボジョジョジョ
第六章 鋼糸が紡ぐ先には人形と少女がいる
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二十九 嫁

「多分説明しても分からないと思うよ?」


「それでも構わん。言え」


 ナチは少し間をおいてから、脳内で言葉を噛み砕き、誰にでも分かるような説明と言葉を組み立てていく。


「《神威》と《神器》。それが僕とナナが生まれた時から持っていた能力。僕は《神威》を、ナナは《神器》を操ることが出来た。その《神器》の中に連絡を取る手段がある。簡単に言えば、そんな感じかな」


「《神威》とは?」


 少し苛立ったようにイズは言った。彼女の怒りは理解できる。《神威》についての説明を著しく省こうとしたナチに対する怒りなのだから、分からないわけがない。


「《神威》はいわば天災を超える神災、究極の森羅万象。世界を器とする膨大な霊力の塊。それが《神威》」


「全く分からぬ。もっと分かりやすく言え」


「符術よりも遥かに強く、膨大で、世界一つを埋め尽くすほどの霊力の塊って感じ」


「そんな途方もない力をお前は扱えるというのか?」


 ナチは首を横に振った。


「今は使えない。いや、少し違うかな。使えるけど、使った瞬間にこの世界ごと吹っ飛ぶ可能性があるって言ったほうが正しいかな」


「先天的な能力なのだろう? 何故そんな状況に陥っている?」


 本当に察しが良いねイズは、と内心で思いながらナチは苦笑を浮かべ、胸に手を当てた。


「そうすることでしか守れない者がいた。手放してでも守りたい人が僕にはいた。だから、僕は……まあ、そんな状況に陥っちゃう時もあるんだよ、長く生きてれば」


「まあ……確かにな」


 イズは自身の小さな体を漫然と眺めながら言った。


「もう《神威》の話はいい、興味が失せた。お前の嫁の話をしろ」


「そうだな。分かりやすく言うと世界で一番可愛くて、綺麗」


「お前が言うと気味悪く聞こえてしまうから、言葉に気をつけろ」


「はいはい、気を付けますよ」


 それからナチはイズに長々とナナの話を続けた。イズがナチに嫌悪感を多分に含めた視線を飛ばし、声色が低くなりきるまでナナの自慢話を続けた。


 そうして、説明を終えるとナチは瞑目し、彼女の返答を息を大きく吸いながら待った。けれど、数十秒間イズは口を開く事は無く、ナチの大きな呼吸音だけが部屋に木霊していた。


 ナチは目を開き、体を起こす。そして、睨む様な目つきでナチを見上げているイズへと視線を合わせた。イズはナチと目が合うと開口一番にナチに呆れた様な調子が落ちた声を上げた。


「……お前の嫁への愛は置いておいて、お前は次から次へと秘密を持ち込みすぎだ。いい加減にしろ、全く」


「ご、ごめん」


「お前は伏せている秘密が多すぎるのだ。二種類の符術も出し惜しみしておったし、嫁を貰っている事も伏せておった。そういえば『神威』とやらも隠しておったな」


「言わなきゃいけない状況が生まれないとなかなか……」


「確かにそうだが、それにしてもお前が伏せていた秘密は我等にとっては重要な事が多い。お前が二種類の符術を使えると知っておれば、戦術も変わっていたであろうし、嫁を貰っていると知っておれば、マオもお前に恋心を抱いたりなどせんかったかもしれぬ」


「そう……だね。そうかも」


「かもではない。そうなのだ。言えない事に関しては言わなくてもいいが、言えることに関しては仄めかすなり少しは匂わせるなりしろ。聞かれなかったから言わなかった、などというクソみたいな考えはさっさと捨てろ」


「そんな無茶苦茶な」


「実践する前から無茶も苦茶も無い。この前も無駄に妙な話を匂わせておったではないか。何も問題はない」


「僕の性格的に難しいと思うよ?」


「お前の性格など知らん。努力しろ」


「努力はするけどさあ」


 ナチが引き攣った笑みを浮かべていると、突然ドアが二回ノックされた。川のせせらぎの様に穏やかな音が部屋に響き、ナチとイズは口を噤んだ。二人は顔を見合わせ、次にドアへと視線を同時に向けると、互いに首を傾げた。


 イズが首を傾げているという事はマオやマナではないだろう。彼女の足音はすぐに分かると、イズは口にしていた。リーヴェとクレイのどちらかが忘れ物をして戻ってきた可能性が無い訳ではないが、決して高くはないだろう。


 となると、リリア教団の誰か、もしくは客人という事になるが、客人がわざわざ客間の扉にノックするだろうか。客人は基本的に招かれる立場だ。ならば、ノックする状況は生まれにくい。


「教団の誰か、かな?」


「だろうな。さっさと声を掛けろ、クズ」


 やや威圧的な口調で言ったイズはベッドから床に下りると、かぶりを振り、ナチをドアに誘導した。気のせいか、視線も鋭い。その姿は敵に遭遇し、威嚇中の野生動物の様でもあった。


「なんか、僕に対する当たり強くなってない?」


「気のせいだ。我は誰に対しても優しい。例え、嫁がおるというのに違う娘に心揺れ動かされていた最低なカスでもだ」


「ぐうの音も出ないから、悔しいよね」


 ナチは笑顔を浮かべる事も、笑声を上げる事もなく、そう口にした。その姿を見たイズは、大袈裟に舌打ちを一回鳴らす。苛立ちを分かり易く表現しているかの様に二回目の舌打ちを彼女は均した。


「さっさと声を掛けろ。甲斐性無し」


「呼び方……」


 イズの口調がさらに鋭さを増していくのを尻目に、ナチは扉へと近付いていく。そして、ナチが扉の前に立ち、ドアノブに手を掛けた所で、ナチは口を開いた。

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