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アヴェリアム・コード ~消えゆく世界と世界を渡る符術使い~  作者: ボジョジョジョ
第六章 鋼糸が紡ぐ先には人形と少女がいる
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二十 邂逅

 [人形師]カザキ・シラハシによって造られた百八体の殺戮特化型自立可動式殺人人形が人類を死滅させた世界。ラナル・カナンド。


 カザキ・シラハシ本人も彼が作り出した最初の人形[Code01:Mia]によって命を落とし、百七体の人形達は創作者カザキが発した最期の命令[Code01:Mia]の破壊を忠実に実行していた。


 そして破壊対象として逃避行生活を余儀なくされたミアは、かつての同胞が二度と起き上がらぬ様に百八体全ての人形に搭載されている自己発電式エネルギー供給機関『Caspa』を確実に破壊していった。


 十体、二十体、三十体、四十体、五十体、を破壊し終えた時には人類以外の残存生命も絶滅の危機に瀕していた。その直接的な理由は彼女達一人一人に搭載された固有の装備。その桁違いの威力によって生命は息絶え、自然は荒廃し、栄華を極めた人類の文明は跡形もなく消滅してしまった。


 そして、ミアが彼女と出会ったのはあらゆる生命が、自然が崩壊した後の事だ。


 彼女とは荒廃し、広漠に広がる土色の大地を歩いている時に出会った。意図的にも偶然にも捉える事が出来る胡乱なタイミングで彼女は現れた。


 殺戮特化型自立可動式殺人人形、特異可動個体[Code109:Ruki]を自称する人形に私はその時、初めて出会ったのだ。


 少なくとも特異固体などという存在をミアは聞いたことがない。カザキが秘密裏に製造していたのか、それとも別の人間が製造したのか。どちらにしても、ルキの容姿はミアも含めたカザキが製造した人形達の容姿とは大きく異なる見た目をしていた。


 カザキ製の人形は全て人間年齢で言えば十六歳から十八歳程度の容姿をしている。そして、感情を備え付けられていない為に性格という概念が存在しない。個性がない、文字通りの殺人人形。人の形を真似ただけの紛い物。それがミア達のはずだ。


 だが、ルキは人間年齢と照合すると八、九歳程度の容姿をしており、完成された顔の造形をしているミアから見ても目を惹き付けるほどの美しい容姿を彼女は有していた。


 金色の長い髪が乾いた風に煽られて優雅に舞い、勝ち気で力強さを感じさせる青の瞳に、小生意気にも見える口角が上がった薄い唇。


 そして、殲滅対象であるミアに対して、無言で破壊活動に移行するカザキ製人形とは違い、ルキは初対面のミアに対し、右手の人差し指を突き刺し、左手を細い腰に当てると大きな声でミアに宣戦布告した。


「私があんたを倒す殺戮特化型自立可動式殺人人形、特異可動個体[Code109:Ruki]覚えておきなさい! 覚えた? なら一緒に言うわよ! せーの」


「…………」


「殺戮特化型自立可動式殺人人形、特異可動個……あんたも言いなさいよ! 私一人で恥ずかしいじゃない!」


「敵なら破壊します。あなたはカザキが創りし人形ですか? それとも別の敵対勢力ですか?」


 ミアは億を超える『天縛』を射出し、鞭の様に高速でルキに向かって振るった。ルキが立っている場所の両側が激しく破砕し、地形が変形する程に地面が抉れていく。大地を轟かす破砕音が両者の空間を埋め、それが鳴り止むころに舞っていた砂煙は晴れていった。


 鮮明に映る景色の中に存在したのは、地面に尻餅を着き、酷く竦然としているルキの姿だった。全身が遠目から見ても分かるほどに激しく震え、表情は今にも泣き出しそうに見えるほどに歪んでいる。


「ああああんた! 少しは手加減しなさいよ! 死ぬかと思ったじゃない!」


 ミアを指差し、右手をぶんぶんと振り回す彼女は震え声で言った。


「完全に破壊するつもりで放ちましたから」


「淡々と言うな! しかも私まだあんたの質問に答えてなかったのに!」


「では、もう一度聞きます! あなたはカザキが創りし人形ですか? それとも別の敵対勢力ですか?」


「私はカザキが百九番目に製造した殺人人形。つまり、あんたの妹なのよ。だから、大事にしなさいよ!」


「私達に血縁はありません。人間ではないのですから。よって、あなたはただの殺人人形。ただの殲滅対象です」


「ちょっ! おおーい!」


 顎が外れそうな程に大きく口を開いたルキは立ち上がろうとして失敗。尻餅を着き、間抜けな声が綺麗な口から漏れる。おそらく腰が抜けているのか、地面に座ったままミアを指差した。


「私を殺したら後悔するわよ。私はいわばあんた達全人形の妹。私を殺したら百七体の人形があんたを殺しに来るわ」


「今まさにその状況ですので、あなたを破壊しても現状は変化しませんし、打破する兆しにすら成り得ません。あなたの未来は死あるのみ」


「あんたちょっと、この状況を楽しみ出してるでしょ? 知ってるんだからね。あんたが感情を手に入れたって事は」


「それはあなたの希望的観測による妄言です。あなたの言動、行動は破壊を阻止する為の時間稼ぎ、と捉えてもよろしいですか? そろそろこの場を離れなければ、私はあなたの言う所の妹たちに襲撃されてしまうのですが」


「まあ待ちなさい。分かったわ。あんたを破壊するのは後にしてあげる」


「ここで破壊すれば不穏分子が一つ減ります」


「だ、だから、ちょっと待ちなさいって。私は全人形の妹だって言ったでしょ?だから、私を側に置いておけば、狙われなくなるはずよ」


「その根拠は? あなたに特別な機能が搭載されている様には思えませんが。それに見たところあなたも感情を獲得している様に見えます。あなたこそ破壊対象として選定されているのでは?」


「私を側に置けば分かるわよ。さあ、行くわよ、ミア。私のことはルキでいいわ」


「まだあなたを同行させるとは明言していません」


「あなたじゃないわ、ル・キ。そんな堅物みたいなこと言ってないで、さっさと行くわよ」


「ですが、あなたの潔白はまだ証明されていませ」


 ルキは、言い淀み、一向に足を動かそうとしないミアに駆け寄り、手を力強く握るとミアを引っ張った。二人は緑が失われた大地を歩いて行く。


「だから、細かいことは私を側に置けば分かるって。ほら、自分の足で歩きなさいよ。あんたはもう人形じゃないんだから」


「私は殺戮特化型自立可動式殺人人形。ですので、私は稼働し続ける限り人形という名目に分類されます」


「結構めんどくさいわね、あんた。そんな人類が定めた細かすぎるカテゴリーなんて、さっさと忘れなさいよ。もう必要ないんだし。……なんだっていいのよ、名称なんて」


 やや頤を下げ、寂寥感を覗かせたルキの横顔を横目で見つつ、ミアは引っ張られ続けている手を弱い力で一瞬だけ押し戻し、ルキを立ち止まらせると、ミアは自身の足で大地を歩き始めた。


「私の名称は[Code01:Mia]01でもミアでもどちらでも構いません。お好きに呼称してください」


 輝かしい笑顔を浮かべ、ミアを見上げるルキは再び力強くルキの右手を握り締めた。そして、暗澹たる不穏な未来が差し迫るミアを好機に先導する様に、ルキはミアの手を引き、荒廃した大地を二人は駆けて行った。


 この時、何となく嬉々としていたのを私は覚えている。糸を切られた人形に新たな糸を繋いでもらった様な、孤独と不安、同胞を破壊し続ける精神的悲痛によって攪拌していた精神がゆっくりと元の感覚を取り戻していく様な、濁っていた景色に突如として明確な色彩が描き出され、鮮明に映し出されていた頃の視覚を取り戻したかの様な衝撃だった事を私は今でも明確に覚えている。それ程までに彼女の存在はミアにとって特異的だった。


 そしてこの時、彼女の存在が僅かばかりでも救いになっていた事に、感情を獲得したばかりの私が気付く術などありはしなかったのだ。

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