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十 面白い

 面白い。


 この目の前で寝ている男。


 ボクを見て、面白いと思った。可哀想だと思った。村人達がボクに向けていた怒りとは別種の怒りをボクに向けた。


 こんなことはおばあちゃんが居なくなってから初めてだ。


 ボクにとっての世界は全てがおばあちゃんで出来ていた。おばあちゃんが全てで、それ以外は有象無象。


 お母さんもお父さんもボクを捨てた。だから、どうでもいい存在。


 だから、おばあちゃんが死んじゃった時、ボクはどうすればいいのか分からなかった。死に方が分からない。生き方も分からない。


 本当に真っ暗だった。今までボクの道を照らしてくれていたおばあちゃんというランプは消えてしまったから、ボクの世界は本当に真っ暗だった。


 今までも、何とか生きてきた。何で生きているのか分からないまま。なぜ死なないのか、漠然と夢想しながら。


 死についてずっと考えていた。死んだら、ボクはどこにいくのか。


 おばあちゃんは言っていた。善い事をした人間は楽園に連れて行ってもらえるって。


 だから、こんなボクに優しくしてくれたおばあちゃんは、きっと楽園に連れて行ってもらえたんだと思う。


 だけど、ボクは違う。


 お前を生んだせいで、私達の人生はめちゃくちゃだ。


 それはボクが物心ついた時に言われた最初の言葉。両親からの最初の贈り物。


 最初何を言われているのか分からなかった。おばあちゃんのところに連れて来られるまでずっと分からなかった。


 おばあちゃんに言葉を教えてもらって、初めて気づいた。


 ボクは両親を不幸にしたんだ。悪い事をしたのだと。


 そんな悪いボクはどこに行くのだろう、とずっと考えてきた。おばあちゃんと同じ場所に行けないボクは死んだ後にどこに連れて行かれるのだろう、と。


 分からない。ただ空を見上げて、考えてきた。


 おばあちゃんが言っていたから。私は空に向かうのよ、と。だから、おばあちゃんは空にいる。


 だから、ボクはずっと空を見上げている。おばあちゃんとの思い出が空に映り、ボクはまた考える事ができるから。


 ボクが生きている意味を。ボクが死なない理由を。


 そんな時に、あいつは来た。


 瞳に『黒』を宿す者が。


 ボクはすぐに気付いた。こいつは危険だって。


 けど、何故かその一部始終を見ていた。


 何も感じなかった。死に逝く村人が次々と瞳に『紺』を宿していく事に対して、何の感情も掘り起こされる事は無かった。


 積み上げられていく大量の『透明』。それを見ても、ボクの心は揺り動かされることは無かった。


 ボクを衝き動かす何かが心の底から溢れてくることは無かった。


 けど、その後に起こった戦闘を見て、ボクは信じられない現象をいくつも見た。


 風を起こす紙、増える光。空飛ぶ氷の鳥はどうでもいい。


 ボクが驚いたのは、様々な感情の爆発。

 

 今まで見てきた『赤』よりも遥かに濃い『赤』。ボクを見つめた三人が浮かべる『青』は『紫』が混じらない、透き通る様な『青』だった。


 綺麗だと思った。様々な色が瞳に映り、その色合いはボクの世界に久し振りに色を与えてくれた気がした。


 あの三人の戦いを見続けたいとさえ思った。あの瞬間のボクの世界は本当に楽園の様に美しくて、おばあちゃんと過ごしていたあの日々の様な輝きを放っていたから。


 だけど、全てを壊した。『黒』を宿す者が。


 ボクは知っている。あれは壊れている。もう修復はできない程に。


 首が痛い。そう思って顎を下げ、おじちゃんの方を見ると、おじちゃんがボクをうっすらと瞼を上げて、見ていた。


 視線が重なると、おじちゃんはすぐに目を閉じた。けど、僅かに開いた瞼の奥で灯った色は、確かに見えた。


 その色は『橙』だった。


 優しいおじちゃんだ。


 そんな事を思いつつ、ボクはまた空を見上げる。口角を本当に僅かに上げながら。

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