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二十一 符術・第十三曲葬《極白の夜》

「符術・第十三曲葬《(きょく)(びゃく)の夜》」


 符から放出される莫大な量の白縹の光が突如として、黒と白の光に変化。増殖を続けているその二色の光はナチが放出し続ける霊力を喰らって、さらに増大。レヴァルを覆い尽くすほどに膨れ上がった二つの光はナチの最後の霊力を喰らった瞬間に自立を開始する。


 黒光はユライトスとレッドドラゴンの足下へ。白光は天に向かって伸びていき、夜空を白で埋め尽くす。天と地を覆う黒と白。その黒と白に挟まれたユライトスと赤い竜はその場から離れようと行動を開始しようとする。鍵を取り出し、翼をはためかせ、そこから逃れようとする。


 だが、もう遅い。そして、それは不可能だ。どこへ逃げようと広漠に広がる黒の大地と白の天空からは逃れることは出来ない。


 黒の大地がもたらすのは絶氷の寒冷。生み出される全ての冷気は術者が定めた対象へ向かい、急激に下がった温度は吐息すら氷結し、細胞の一片すら凍らせる。命の光が差し込まない終焉の氷河。報仇雪恥ほうきゅうせっちの寒冷大地は二つの生命に死をもたらそうと躍起になる。


 レッドドラゴンの体が黒い氷に包まれていき、その黒氷は《シェルグランデ》も高熱を宿す魔力弾すらもそのまま凍らせる。マオが生成する透明の氷とは対極。天眼ですら見通せない程の闇を内包した黒氷は一切の光明を閉ざす。


 肉体が黒い氷に覆われていくレッドドラゴンの横で、鍵を用いて全てを相殺しているユライトスは喜色満面でナチを見つめていた。ナチに対して何かを口にしているが、それらは無視。ナチは必死に意識が途切れないように歯を食いしばる。意識の限界はそう遠くはない。あとどれだけ意識を保っていられるかすらもナチには分からない。


 太陽の様な輝きを放っていたレッドドラゴンの鱗は黒い氷に包まれたと同時に光を失い、黒一色に塗り潰された。身動きを取る事すら許さず、発光する事も許さない。


 黒き大地による目標の完全封殺が成された後に燦然と輝くは天を統べる白き蒼穹。


 全てが黒に包まれた大地に降り注がれる白光の篠突く雨。その無数の天涙に宿るのは天地万物すべてを破壊する物質破壊エネルギー。その一つ一つに必殺と呼んで差し支えない程の高エネルギーが備わっている。


 黒い氷に覆われたレッドドラゴンの右腕に白光が激突した瞬間に右腕は吹き飛び、両翼は飛散し、尻尾は完全に破砕した。頭上に展開された《シェルグランデ》は膨大な量の白雨を受けきれず、完全に大破。次々に肉体を削いでいく。

 

 胴体も両足も左腕も荘厳な顔面も、鬼雨きうの様に猛然と降り注ぐ白き光を受けて粉々に砕け散っていく。


 だが、まだ倒せていない敵がいる。倒さなければならない敵がいる。命を賭してでも倒す必要がある敵がまだ笑顔でそこに立っている。《極白の夜》が生み出す寒冷も破壊も、鍵が生み出す黒い渦で相殺しているユライトスは軽薄な笑みを浮かべている。余裕の笑みを見せている。


 だが、まだ終わりはしない。白の雨が降り止んだ後に発生するのは極光。宝石の様に煌めく薄い緑のオーロラ。薄緑の極光は白の光と混ざり合い、更に輝きを増していく。極光と白光が持っている性質は同等。共に物質を破壊する超高エネルギー。


 その二つが混ざり合う事で生み出されるは、比類なき破壊力を持つ極白の光。


 黒の大地は対象をユライトスに限定する事によって、氷結速度を格段に上げる。だが、それは完全に相殺され続ける。霜すらもつかせない「最強の盾」が絶氷の大地を拒み続ける。


 そこに神の威光の様に降り注ぐ極白の柱。夜を裂く様に放出された破壊光は黒い渦に防がれ、動きを止めた。極白と黒渦が拮抗し、その衝撃で地面が割れていく。レヴァルに存在していた全ての物質が跡形もなく消滅していく。


 ナチとイズはそれをじっとその場で見つめた。


 師匠にしか発動できないと言われている符術の秘奧中の秘奧。神に支配された世界を救った救世の大符術。莫大な霊力。高度な霊力操作。莫大な霊力と複雑な術式を同時に制御する技術を必要とする、符術使いが目指す最高峰の符術。


 それを受け止め、相殺する鍵はやはり最強。最強の名を冠するだけはある。ナチもかつては鍵を振るっていたのだから、その能力の高さは十分に理解している。


 だが、ユライトスの表情からは笑みが消えていた。極白の光。黒の大地がもたらす絶氷を相殺してはいるが余裕はない。無表情で黒い渦を展開し続けている。


 ナチの目からはユライトスが徐々に押されているように見えた。黒光、白光、極光に押し潰されそうになっている様に見えた。


「こんな隠し玉を持っていたなんてねえ! 驚きですよ、全くぅ!」


 ユライトスが何かを叫んでいる。だが、それをナチは聞き取る事は出来なかった。ナチの膝が地面に着く。瞼が下り始める。意識が遠くなっていく。


 霊力が枯渇すれば訪れる強制睡眠。それを意思の力だけで延期させたナチ。よく持ち堪えた方だと思う。だが、それももう限界に達していた。思考は止まり、体は動かない。もう眠る以外の選択肢を取らせてもらえない。


 屍山血河しざんけつがの終幕を見届けることは叶わず、ナチは地面に顔を打ち付ける直前で意識を失った。

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