この小屋はやっぱりぼろかった
今日も、徒然つれづれなるままに、思い浮かぶたわいもない話を綴りました。
お楽しみください。
時代小説風の話になりますので、表現など十分に注意しておりますが、誤字・脱字・言い回しのおかしな箇所があれば、ご指摘お願いします。
また、面白いとお感じになれば感想や評価をいただけましたら励みにもなりますのでよろしくお願いします
俺らは翌朝に上人様より朝食まで頂いた後、小屋に帰ることにした。
途中の桑名には先日のごたごたもあり避けて通り、小屋の前まで来た。
改めて小屋を見る。
ほんとにボロイ。今までよくここに寝泊まりしていたな。
けど、またしばらくはここでの生活だ。
今までと違うのは3人だった仲間が2人増え5人になったことだ。
けれど、この小屋ちょっとばかし小さくね~?。
5人も寝泊まりできるのかよ。
当面の課題として、衣食住の食だけでなく、住も早急になんとかしなくてはならないな。
俺はふと連れてきた葵と幸を見たら、なんと二人とも小屋を見て引いている。
俺が見てもボロイのだ。
引く気持ちはわかる。
けれど今はここしかないのだから、我慢してもらうしかない。
「今までどんな生活をしていたかはわからないし、昨日までいた願証寺なんかとは絶対に比べたらだめだ。
俺達には、今はここしかないのだから。
ここは、どこにも行き場のなかった俺たちに玄奘様が宛がってくれた場所だ。
我慢してくれ」
「空様、私たちは大丈夫です。
どこにでもついていきますので、気にしないでください」
「でも、ここを見たときに引いていたよね」
2人は気まずくなったのか目をそらした。
幸なんか急に下を向いたりしだしたのだ。
「これだけは覚えておいてくれ。
俺たち5人は一蓮托生だ。
誰かだけが我慢するのではない。
苦労するときには全員が苦労する。
上人様の言葉じゃないが、俺たちは絶対に生き抜いていくんだ。
あがいて、あがきぬいていくんだ。
そのために協力してほしい。
一人でできることなんか限られている。
一人より3人、3人より5人のほうができることが断然に多い」
「私も幸もわかっています。
私たちにできることは大してありませんが、どんどん用を言いつけてください。
私も幸も精一杯やらせていただきます」
「はい、私にもどんどん用を言いつけてください。
葵さんよりはできないかもしれませんが、すぐにできるようになります。
私、頑張ります」
健気に幸も決意表明のようなことを言い出した。
ン、健気??、幸も俺と年は変わらない設定だが、まあいいか、気にしないでおこう。
「寺で話したので、おおよその見当はついているかもしれないが、ここで炭を焼いて、それを売ってお金に変えていく。
そのために1日中林の中で、作業をしていくことになる。
葵と幸は、俺について炭焼きを手伝ってくれ。
張さんと珊さんは今まで通り食料の調達をお願いしてもいいですか」
「それはいいけど、炭焼きを手伝わなくてもいいの」
「当分は俺らだけでも大丈夫です。
焼けた炭が溜まったら、売りに行くときに協力をお願いします」
「わかったわ。でも本当に協力が欲しい時には言ってね。
私たちは一蓮托生なんでしょ」
葵と幸は、張さんの言葉を聞いても意味が理解できないような顔をしていた。
俺のさっき言っていた『一蓮托生』の意味が理解できていないようだった。
そういえば、この時代には教育の概念は全くなかったのだ。
寺子屋が盛んだったのは世の中が平和になった江戸時代の話だし、ほとんどの人が今日を生きるので精一杯で、孤児に教育なんかするわけないわな。
「わかりました、張さん。
その時には遠慮なくお願いします。
俺らの中では大人は張さんと珊さんのお二人ですので、頼りにしています。
ところで葵さん幸さん、あなたたちに質問です。
お二人は読み書きはできるのですか」
すると二人とも恥ずかしそうに、
「寺でお世話にはなっておりましたが、二人ともできません」
と、今にも消えそうなくらいな声で恥ずかしそうに葵が答えてくれた。
「別に責めているわけではないさ。
でもこれからは商いで生活をしていこうとしているので、手伝ってもらう二人にはどうしても覚えてほしいかな。
時間を作って教えるから、二人は頑張って読み書きと計算を覚えてほしい」
すると、張さんが、
「え、空さんは読み書きと計算を教えることができるのですか。
私は国の言葉なら読み書きはできますけれど、計算は苦手なのよね。
私も一緒に習ってもいいですか」
「えー、構いませんヨ。
一緒にやりましょう。
葵さんも、幸さんもそれでいいよね」
「「教えてくれるのなら是非にお願いします」」
「ね~、ね~、珊、あなたも一緒に覚えましょうよ。
あなたは計算は得意よね。
それを私たちに教えて」
「お、俺、お、お嬢の頼み、分かった。
俺、やる。」
「炭焼きしながら、どこかで時間を作らないとね。
まずは、炭焼きを軌道に乗せなくちゃね」
とりあえず仲間と目標の確認を終わらせ、早速作業に取り掛かった。
みんなで珊さんの運んできた抱介さんの大工道具の確認のため、箱を開けた。
「葵さんはこの中身を見たことがあるの。」
「空さん、その『さん』付けは止めてもらえますか。
なんだか居心地が悪くて。お願いします。
で、中身ですが、そもそも私はその箱を見たのが初めてです。
おじさんが生きていたころに道具の手入れをしていたことは見たことがありますが、何をやっていたのかさっぱりで、中身についてはわかりません」
「それもそうか。では早速中身の確認といこう」
箱を開けて一つづつ出していった。
「え~と、のみが3種類に手斧に槍鉋、へ~、カンナまであるのか。でも今は要らないものばかりだな。
いずれ使うだろうから売らないけれど、大槌に小槌に…。あったあった。のこぎり、両引きののこぎりまであった。
これならどうにかなるかな。
でも斧はなかったな。
ぜいたくを言ったら始まらないか。
のこぎりを持って材料揃えから始めるか。
今日は中途半端だから、作業は明日から始めよう。
で、今日は付近の案内からするから、疲れていなかったらついてきてくれ」
葵も幸も二人ともうなずいて俺についてきた。
まず、河原に作った炭焼き窯まで案内した。
「ここで炭焼きをすることになる。
ここに林から持ってくる木材で炭を作るので、協力してくれ。」
その後二人を海岸まで連れていき、そこで夕方を迎えたので今日は小屋に戻り休むことにした。
張さんが用意してくれた質素な食事をとり、今日はお休みだ。
この小さな小屋に、大人2人に子供3人はさすがにきつい。
正直、早々に別のねぐらを見つけなくてはならないと思いながら、葵たちにくっついて眠った。
こればかりは役得とばかりにうれしかったかもしれない。
広めな寝ぐらをすぐに見つけなくてもいいかなと思ったことは内緒である。
早速翌朝から、俺と葵、幸の3人での炭作りだ。
のこぎりを持って林に入り、直径がだいたい20cm未満の枯れかけた木を見つけてはのこぎりで切り倒し、長さを1mくらいにそろえて、窯のそばまで運んだ。
1日中同じ作業をし、余った枝なども窯まで運び明日から火を入れ炭を焼けそうだ。
この調子なら2~3日とはいかなくとも1週間以内には、門前の市に売りに行けそうだった。
その時には、何か食料を買って来よう。
そうすれば、張さんや珊さんの手が空き、何か別のことができる。
また、寝ぐらについても玄奘さんに相談できる。
次に門前の市に行けるのが楽しみになってきた。
次の日も炭焼きの作業だが、葵と幸を交代で窯の前に残し、火の番をしてもらうことにした。
桑名での出来の良くない兵士の件もあり、また落武者や野盗が出ないとも限らないので、女の子を人気のない場所に一人残すのは危険だ。
珊さんに無理を言って、窯のそばで魚取りをしてもらうようにお願いをした。
珊さんは、ちょくちょくこのあたりで魚を取っていたので、気持ちよく了解してくれた。
俺は最初に葵を残し、幸を連れて林の中に入っていった。
最初のころは窯のそばでも簡単に手頃な木が見つかったが、幸が葵と交代するころには付近にはなかなか手頃な木が見つからず、徐々に林の奥に入っていった。
次に葵が幸と交代するころには、かなり奥まで入っていくことになってきた。
この辺りは海岸から近いこともあり一様に平たんな地形とばかり思っていたが、あちこちに起伏があって、かなり複雑な地形のようだ。
林に生えている木のために全体が見えにくくなっているので、気が付かなかっただけだった。
それでも奥へ入っていくと、小高い丘のようなものが見えてきた。
「ちょっと、この丘を登ってみよう。
近くに手頃な木も無くなってきたし、丘の上から探してみようか」
「はい、分かりました。
私が先に上がって探してみます」
と幸は言うと、一目散に丘を駆け上がっていった。
「慌てて登ると転んで怪我をするぞ。
気をつけろ~」
「空さん。大丈夫で~す」
と返事をし、人の話を聞かずに駆け足で登って行った。
しばらくすると、
「あ~~~~~、空さ~~~ん」
とかなり驚いたような幸の叫び声が聞こえてきた。
「どうした、ころんだか。大丈夫か」
俺は急いで幸の後を追って丘を登って行った。
すると幸は丘の先を指さしながら、
「空さん、この先に何かありますよ」
と大声で言ってきた。
幸の指の先に、蔦やら何やらの植物で壁のように覆われた、建物の屋根のように見えるものがあった。
その屋根のようなものの上には、見覚えのある何かが乗っかていた。
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なお、もしよろしければ、私の別の作品「ブラック職場のヘタレがひとり美女に囲まれなぜか戦場に」https://ncode.syosetu.com/n4711ec/ も連載中です。
おかげさまで、この作品は、ネット小説大賞の1次審査に通過しましたので、さほど苦もなく楽しめるかと思います。
こちらも、よろしければお楽しみください。