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巨大プロジェクト

 俺が最後まで気にしていた田城城の破棄について、驚くほど簡単に九鬼様が理解を示してくれたのでかえって俺のほうが戸惑ったくらいだ。

 でも、先週あたりの戦前から、この田城城の廃棄を決めていた。

 廃棄を決めたというよりも、実際にはこれから大型の船を作っていく上で、浜では問題が有り過ぎだ。

 既に仮想敵国の北畠家や神戸家に簡単に見つかり易いし、それに、あそこでは今まで作っていた船以上の大きさの船は作れない。

 大きめのキャラベル船の修理ですら苦労をしたのだ。

 なので、俺は、それら仮想敵国から見つからない場所で、かつ入江などが複雑に入り込んでいて、安全に船を停泊でき、かつ、沖に出すのも苦労をしないような、今考えてもかなり都合の良い場所を考えていたのだ。

 え、都合が良すぎて、チートな場所なんかそう簡単に見つかるはずはない…それがあるんだ。

 ここをどこだと思っている。

 紀伊半島の付け根に当たる場所だ。

 理系の俺ですら分かるのだから地理の得意な人ならばすぐにピンとくるはずだ。

 ここは日本だぞ、入り組んだ入江など掃いて捨てるほどある。

 そんな入江なんぞ志摩の国にはそれこそたくさんあるのだ。

 田城城周辺の今まで九鬼水軍が基地を置いていた場所もそんな場所なのだが、それよりももっと良い場所を俺は知っている。


 そもそもなぜ、この場所ではいけないかだって、それは簡単な理由だ。

 ここは既に敵の北畠に一度落とされている

 ここは、敵にとっては簡単に落とすことのできる城なのだ。

 俺らが今ある火器を持って立てこもれば、以前に落とされた時に比べてもう少し持ちこたえることもできるだろうが、それも時間の問題だ。

 ここは包囲されれば逃げられない。


 そこで俺はすぐに北畠との戦が避けられない状況で無い知恵を絞り考えた。

 包囲されない場所で、敵からも攻めにくい場所は無いかと、それも最初に挙げた今後の志摩の発展のためには大型船を作れ、安全に停泊できる場所をと考えたのだ。


 すぐに思いついたさ、俺は志摩の出身でもなければ志摩の地には縁もなかったのだが、ここには有名な場所があった事を思い出したのさ。

 一番最近に日本でサミットが開かれた場所があっただろう。

 え、洞爺湖だって、北海道じゃないよ、その後のサミットだよ。

 そう、賢島がここから南に少し行った場所にある。

 賢島はこの時代には人は住んでいないそうだ。

 しかし人が住めないわけじゃない。

 その証拠に縄文時代の住居跡があったそうだ。

 (え、何でわかるかというとだな、著者がウィキペ?アで調べてくれた。)

 どうでもいいが、今の我々には、もってこいの場所なのだ。


 ここを発展させるには近い将来橋で本土と結ばなければならないが、どうにかなると考えている、最悪浮き橋の手もあるし、すぐそこに迫った戦の脅威に対しても、島の中にいれば我々の仲間までは被害が及ばない。

 それでいて自分たちは今回の城攻めのように夜陰に紛れて上陸し背後から攻撃もできる。


 今の我々の国力から言えば、北畠家は十分に大国なのだ。

 少しでも夏の戦で戦力を削りたい思惑もある。


 なので、夏までには移動は完了させたい。

 今月いっぱいは志摩の全力を以って城を解体し賢島に移設させる。


 4月以降については賢島内に畑を作り、芋の生産を始めるつもりだ。

 住民を飢えさせないのは為政者の責任だ。

 すぐに大量の食料を痩せた土地??で作るのには芋やそばが最適なのだが、飢饉対策作物としてのサツマイモには実績がある。(ただし江戸時代以降)

 なので、今年はサツマイモの生産に全力を挙げて取り組む。

 昨年寺の畑で張さんの持ち込んだ種芋を増やすのに成功している。

 なので、種芋はある、大丈夫だ。

 それでも、もし、食料が足りなくなった場合には堺を通して食料を買い付ければ良い。

 それくらいは冬までにはどうにかなるし、どうにかしてみせる。

 不安はあるが、ここまでやってしまった以上やるしかない。

 

 俺は自分に喝を入れ覚悟を決めた。

 「殿、話は終わりました。

 皆のところに合流致しましょう。」

 「そうですね。

 かなり時間が経ってしまいましたので、皆さんの分が残っているのか心配ですね。」

 と言いながら部屋を揃って出た。


 宴会が派手に繰り広げられている中庭につくと、そこには用意していた酒の入った樽数樽が空になり転がされていた。

 周りを見ても肴にと用意した干物も見当たらない。

 「既に遅かったか。」

 と悔しそうに九鬼様が呟くのが聞こえた。


 すると宴会の世話をしていてくれた張さんがいい具合に焼けた干物を膳に載せ、葵たちに手伝わせて運んできた。

 「きちんと別に用意してありますよ。

 もう飲んでも大丈夫ですよね。」

 「今日の分の話し合いは終わりました。

 すみませんが皆さんの分を頼めますか。」

 「ハイ、そのつもりで既に用意してありますよ。

 すぐに順に運んできます。」

 と言って張さんは運んできた膳を俺の前に置くと、ほかの方の分も順次運んできた。

 酒も程よい具合に温めた物を運んできたようだ。

 俺は飲まないから、燗の具合は分からないが。


 我々が上座について飲み始めると、宴会はさらに盛り上がった。

 その日の晩は大いに騒いで終えた。


 翌日、宴会を開いた場所に全員を集め、雑賀党の働きを称え、来る夏の防衛戦も一緒になって戦うことを伝えた。

 そのあとで、この攻め落とした田城城の廃棄を伝え、解体して賢島に運ぶことも同時に伝え、早速全員で作業に当たらせた。


 合流を図ってこちらについた人たちには先の話し合いの結果を伝え、部落の移動も了承させた。

 また、降伏の使者を送ってきた部落については、伊賀衆と九鬼様の一党を付け、先の話し合いの結論を伝えに各々の部落に向かわせた。

 そこで歯向かうようならば躊躇なく攻め落とすつもりだが、素直に従うのならば、決めたように順次村に吸収していくつもりだ。

 当分は賢島移動のための人足として働いてもらう。

 そう、志摩に居る人たちのほぼ全員で引越しのプロジェクトをしているようなものだ。


 昼前には城はどんどん解体され始めた。


 で、俺は、先の話し合いのメンバーと張さん、珊さん、それに葵と幸を連れて、3番艦に乗って賢島にやってきた。

 俺は実際には賢島を見るのが初めてなのだ。

 考え様によっては酷い話だ、考えなくともいい加減な話だ。

 物件を見ないで契約をしたようなものなのだから、正直この目で確かめるまでは、心配もしていたのだが、ここは素直に著者を信じよう。


 船を島に近づかせると、

 「ほ~~、本当にここは良いところですね。

 父や兄などは知っていたかもしれませんが私はあまり国のことは知りませんでしたので、ここに来たのも初めてなのです。」

 と九鬼様がこぼしていたのを聞いた。

 尤も、年配の方たちにはここの場所を知っている者も多く、俺が引越しの話をした時にも、あそこならばと納得していたような顔をしていた。


 船を上陸するにふさわしい場所まで近づけて俺らは上陸してみた。

 そんなに大きな島じゃないが道などはないので、歩き回るのに苦労を要した。

 俺は、皆と急いで町割りなどの検討に入った。

 幸いベテランさんの中には実際にこの島に上陸の経験のあるものがいて、水の手などの生活に必要となる場所を知っていたので、非常に助かった。

 その日は船で一泊をして、翌日は島の中を見て回り、程よい丘の上に城を移築することを決めた。

 そこで、俺らは船に戻り一旦三蔵の村に戻ることにした。


 浜に戻り、出来るだけ人を集めて、島の道などの整備に当たるようにした。

 与作さんには自分のところの人を連れてきてもらい、九鬼様に預けて島の整備に行ってもらった。

 三蔵の衆と志摩の住民全員で賢島移動プロジェクトをやっているような感じになってきた。

 とりあえず俺は、プロジェクトのリーダーを九鬼様にお願いして、サポート役に藤林様のところの目端の利くいわゆる出来る人を宛がってもらった。

 ということで、一旦はこのプロジェクトはお任せということで、やっと自分の時間を持てた。


 俺は、玄奘様に今までの経緯などの報告をしようと、寺に戻った。

 寺はいつもと変わらずと言いたいのだが、なんだかしばらく見ないうちに学僧やら修行僧やらの人数が増えていた。


 なので、山門で俺のことを知らない僧に止められた。

 なんだかここもめんどくさくなってきたぞって思ったが、また揉めるのも嫌なので、玄奘様を呼び出してもらった。


 すると先の僧は、「今願証寺の上人様が玄奘様をお尋ねになっておりますので、今はお会いできません」と言ってきた。

 流石に、どうしようかとその場にて思案していたら、俺のことを知る僧が慌ててこちらに来て詫びた。

 その上で、すぐに本堂の方に通された。


 ほんのちょっと留守にしていただけなのに…そういえば今年の初めから浜にこもりきりだったな。

 俺は少し反省をしたのだが、上人様までいらっしゃるのは都合が良かった。

 一緒に報告と今後についての相談をしよう。


 俺は勝手知ったるなんとやらじゃないが、先ほどの僧にことわりを入れ、一人で本堂に向かった。


 ここまでお読みいただきありがとうございます。

 感想、評価、ブックマークを頂けたら幸いです。

 また、誤字脱字、不適切表現などありましたらご指摘ください。

 作文する上で、参考になりますし、何より励みになります。


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