上人様の紹介状
今日も、徒然つれづれなるままに、思い浮かぶたわいもない話を綴りました。
お楽しみください。
時代小説風の話になりますので、表現など十分に注意しておりますが、誤字・脱字・言い回しのおかしな箇所があれば、ご指摘お願いします。
また、面白いとお感じになれば感想や評価をいただけましたら励みにもなりますのでよろしくお願いします。
ふた月ぶりに願証寺の上人様に挨拶に伺った。
寺のお坊さんたちは殺生禁止から魚も食べられないはずだから、今回の手土産には干物は持って行けなかったので、我々が作っている釉を使った少し高価な壺に塩を入れたものをいくつか用意した。
今回は初めて一緒に藤林様にも同行してもらった。
藤林様を上人様に紹介したかったのがその理由だ。
観音寺での店の手配は藤林様にお願いするつもりなので、観音寺の寺への紹介状にも一筆入れてもらえたらというのが俺の考えの根底にある。
いつものように寺の山門を潜り、勝手知ったる何とやらではないが、いつもの寺男に取次ぎを頼んだ。
すぐに上人様のお部屋に案内されて、今に至っている。
「お久しぶりです、上人様」
「さほどではないが、ひと月ぶりかな。
確か前回あったのは梅雨の中休みの時だったと思ったが」
「はい、そうです。
水無月の半ばでした。
あ、これ今回のお土産ですので、ご笑納ください。
私たちの新たな商いのネタです」
「ほう~~、相変わらずの様で安心したわ。
商いの方も順調のようだな。
玄奘から聞いたが、既にいくつか新たな拠点を作ったそうだな。
ワシの考えたよりもはるかに早い段階で成長をしているようで、すごいものだな。
だが、空よ、あんまり生き急ぐでないぞ。
足元をすくわれては元も子もないからな」
「はい、ご忠告ありがとうございます。
足元をすくわれないように、色々と大人の方にも協力を頂いております。
玄奘様にも紹介して頂いた各地の寺のご住職の方にも援けて貰っております」
と言って、俺の少し後ろに控えていた藤林様を紹介するように前に出して、
「また、本日お邪魔したのも、伊賀村の方に三蔵村の活動を助けて貰っており、その代表の方をお連れしましたので、ご紹介させて頂きたく、一緒にお邪魔しました。
伊賀村の藤林様です」
「その御仁がその伊賀村の代表者か。
ワシはここ願証寺の坊の一つを任されておる霊仙じゃ、よろしくな。
子供の多い村を空に任せておるが、空の能力には全く心配はしておらんが、なにぶん形は子供じゃ。
色々と村の外で活動していく上で、問題が出始めるころじゃで、そういった意味では心配をしておったのじゃ。
藤林殿が空に力を貸して下さるとは、ありがたい事じゃ。
空には、ワシが面倒を見きれなんだ戦災孤児を頼んで居る。
ワシが十分に空を助けられれば良いのじゃが、あいにくそれも叶わんのじゃ。
ワシが面倒を見きれなんだ分、藤林殿にお頼み申す。
できる限り、空に協力して助けてはくれんかの」
「上人様、頭をお上げください。
恥ずかしながら、私も、この空殿には援けて貰った口なのです。
内輪の恥をさらす様で恥ずかしいのですが、伊賀村の内紛で、伊賀を離れなければならなくなった時に怪我を負った私を助けてくれたのが空殿でありました。
また、甲賀に身を寄せていた私の同志をまとめて三蔵村に呼んで下さったのも空殿なのです。
我々一同は既に空殿には返しきれないくらいの恩義を頂いております。
上人様のご懸念には及びません。
精一杯空殿に尽くします」
「ありがたい事じゃ。
何分、空はその外見が子供じゃ。
大人にすれば、子供に傅くのなんて不満も出よう。
それでもあえて、空を長として、仕えて下さるとは、本にありがたい」
「我々は誰一人、空殿を子供だとは思ってはおりません。
多分村人全員、空殿を子供だとは思ってはいないでしょう。
偉大な指導者とすら思えてしまいます」
何、これ、俺の事二人してやたらにほめているんですけど、これ、褒め殺しっていうやつじゃないですか。
何か陰謀にでも巻き込まれたか、恥ずかしくて悶え死にそうなんですけど、やめて~~~~。
「あ、それでですね。
今回は、藤林様の紹介とは別に、また、上人様にお願いがありまして、よろしいでしょうか」
これ以上、俺の精神の値がガリガリ削られHPが0になる前に俺は、慌てて本来の趣旨を半ば強引に割り込んだ。
「なんだ、今回もお願いがあって来たのか。
忙しいのは分かっておるが、願い事が無くともちょくちょく顔を出せ。
最近では、あの張や珊、それに葵や幸も門前にも来とらんで、お前たちの様子が分かりづらい。
新たな子供たちを頼んでもよいかどうか来とる奴らじゃ分からんだろ。
まだまだこの世の地獄は続いておるから、その犠牲者も後を絶たん。
せっかく空に頼んで行き場のない子供らも救えたのじゃが、次から次にと行き場のない者たちが湧いてきておる。
彼らを空に頼んでもよいかどうか分からんかったのじゃ。
忙しいのは分かっておるが、定期的には顔を出せよ。
良いか、空よ」
「上人様、分かりました。
確かに私がお邪魔するときは、必ずお願い事と一緒でした。
多分、お願い事もまだまだしなければなりませんが、今回のようにひと月に一度くらいは顔を出します。
それで、勘弁してください」
「うむ、それで勘弁しよう。
その時には葵たちも一緒じゃぞ。
して、空の願いとは何じゃ」
「はい、先ほど上人様がおっしゃっておられた我々の新たな拠点ですが、八風峠に茶店を作りました。
ここは開店からかなり順調にいって居りますが、そうなると、商いの新たな拠点として考えております観音寺のご城下に店を持ちたく、観音寺にも拠点を作ろうとなりまして、そのために、地元観音寺のご城下での有力者の紹介状が必要になりました。
以前に玄奘様に連れて行ってもらい、今も時々お世話になっております、観音寺城下の寺のご住職への紹介状を頂きたいのですが、よろしいでしょうか」
「なに、八風峠にも拠点を作ったか、それは凄い。
さすがに、すごい勢いで勢力を蓄えてきておるな。
紹介状の件は分かった、すぐに用意しよう」
と言って、上人様はすぐさま文机に向かって筆を執り、紹介状を書いて頂いた。
「観音寺と言ったら、六角氏が居城だな、別に一向宗徒とは対立はして居らんから、添え状もワシの名で出しておこう。
孤児たちの自立のための商いの場所作りとして店を持ちたいと書いておこう」
「ありがとうございます」
「して、先ほどの件じゃが、空の村にはまだ余裕はあるか」
「へ??、何の事でしょうか、上人様」
急に振られたので、俺は、かなり間抜けな声を出してしまった。
「ほれ、さっきも言ったじゃろ。
戦災に会われ逃げ惑う人たちの事じゃ。
その受け皿に空の村は成れるかということじゃ」
「その件ならば、以前よりお願いしておりますが、熱心な信者の方以外ならば、こちらからお願いしたいくらいです。
とにかく三蔵村はやることが多くて、人が足りません。
玄奘様にもお願いをして居りますが、子供達だけではなく家族単位でも問題はありません。
子供達だけでもいくらでも受け入れます。
受け入れた人たちにはしっかり働いてもらいますが、それでよければいくらでも寄こしてください」
「なれば、数刻待っておれ、連れて行ってもらいたい者たちに準備させるでな。
お~~~い、彼奴らに移動の準備をさせてくれ。
三蔵村に移動して貰うでな」
と上人様は外にいる寺男に指示を出していた。
「そろそろあの寺、三蔵寺と言っておったな、そこに玄奘を落ち着かせるかな。
まだまだ受け入れられるならば、玄奘にその用意をさせよう。
なれば、多くの者たちを救える事に成る。
空よ、近いうちに玄奘を副住職として寺に寄こすことにする。
ワシの住職就任にはもう少し時間がかかるが、ワシ以外にはいかせんでな。
それで良いな」
「その件も以前にお願いしております通りに、お願いします」
今回の訪問で、最初に計画していた紹介状を持って、それ以外にまた、新たな村の住人を連れて、拠点にしている三蔵寺に戻っていった。
本当に村の住人も活動する拠点もすごい勢いで大きくなっている。
俺が流れ着いた時には考えられなかったことだが、人の縁の組み合わせがハマると勢いがつくものだとつくづく感じていた。
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