ふた組の婚約
今日も、徒然つれづれなるままに、思い浮かぶたわいもない話を綴りました。
お楽しみください。
時代小説風の話になりますので、表現など十分に注意しておりますが、誤字・脱字・言い回しのおかしな箇所があれば、ご指摘お願いします。
また、面白いとお感じになれば感想や評価をいただけましたら励みにもなりますのでよろしくお願いします
拠点としている寺に帰って、俺は早速干物作りに挑戦するぞっと気合を入れていたのだが、とても出来そうにない。
材料の魚が取れない??~そんなのは近くの市に行けばいくらでも買える。
じゃ~なんでっとなるが、ここ日本ではそろそろ雨季に入る。
そう梅雨入りだ。
観音寺から桑名まで帰る時には、天候にも恵まれていて、すこぶる順調に帰って来れたが、翌日から、空には分厚い雲がかかり、朝からしとしとと雨が降っていた。
魚を干してもとても干しきれない。
それどころかジメジメとする陽気のために簡単に食べ物が痛みそうだ。
生の魚を無理をして干そうものならば、毒物の出来上がり。
食べたら危険、簡単に腹を壊す毒物が出来そうだ。
梅雨明けまで、干物は無理だ。
干物だけじゃなく、塩作りも難しそうで、唯一できそうなのが炭作りだが、それも、雨の中で作業するには事故でも起こしそうなので、俺たちは話し合いの結果、やめておくことにした。
なので、やることがない。
今まで、生きることに必死で、がむしゃらに働いてきたので、良い機会と捉え、一度自分たちのことを見直す時間をとった。
昼間から、子供たちは、読み書きと計算の自習をさせ、本堂に大人と、13~4歳くらいのもうすぐ大人になる人たちを集め、自分たちが今まで生活をしてきての問題点などを出してもらった。
これは、結果から言うと、あまり役には立たなかった。
俺からの指示に従って、一生懸命作業をしてもらっていたが、自分たちの仕事に関して疑問など持たなかったのだ。
少し考えれば当たり前で、そういった訓練が今までされたことはなく、親や近くの大人に教わったことを次世代に伝えて長い間生きてきたので、改善だとか改良といった考えが全くなかったのだ。
漠然と聞いた俺が悪いのだが、俺の欲しかった改良点や新たな商材の発見には至らなかった。
しかし、雑談を通して、出身の違いによる違和感がどんどん無くなってきていた。
そろそろ、取りまとめの組み分けを考えても良さそうであった。
今までの作業を通して、浜で作業をする組と林や川原で作業する組に分かれつつあった。
それに、浜には家を3件建て終わり、林の中にも1件建てた。
林の中の家を浜と同じようにもう数件建てるが、出来た家に夫婦を入れたいのだ。
そこで、ここに集まった人たちに、俺から、夫婦を作り、順次家に入って貰うことを伝えた。
その上で、今この段階で、お付き合いしている夫婦になりたい人がいるかどうかを訊ねたが、予想通り、返事はなかった。
俺は、この梅雨の間に夫婦を最低1組は作りたい。
一旦集まりを解散させ、以前に相談をした、与作さん、茂助さん、それに張さん、珊さんにもう一度集まってもらい相談を持ちかけた。
「張さん、帰って早々申し訳ないのだけれど、以前に相談した善吉さんと幸代さんの結婚について、そろそろ結婚をさせたいのだけれど、どうだろうか。」
「空さん、大丈夫よ。
あの二人ならあす結婚しても問題はないわね。
仕事もしっかり覚えてもいるし、二人だけで商いをさせても安心して任せられるわ。」
「それじゃ~、準備を始めようか。
しかし、その前に、もうひと組の結婚を決めてから一緒にさせたいのだけれど、与作さん、相談に乗ってください。」
「俺か、構わないが、もうひと組と言って、誰のことか全く心当たりがないが、誰を結婚させたいのだ、頭は。」
「俺としては、与作さんと、お菊さんのお二人をこの村の最初の夫婦にしたい。
与作さんとお菊さんは幼馴染と聞いたんだけれど、結婚を考えてくれないかな。」
「え、え、え、お、俺~~。
お菊と結婚。
俺、結婚するの?」
「落ち着いてください。
与作さんさえ承諾してもらえれば、この場でお菊さんを呼んで決めたいのだけれど。
どうだろうか。」
「頭、お、俺は是非お菊と結婚させてくれ。
俺も、お菊も既に歳をとりすぎたと思っていた。
結婚なんか考えてもみなかったので、結婚させてもらえるのならこれほど嬉しいことはない。
ありがとう。」
「与作さんが良ければ、直ぐに話を進めたいので、申し訳ありませんがお菊さんをここへ呼んできてもらえませんか。」
「判った、すぐに呼んでくる。」
と言って、走って本堂を出て行った。
「で、茂助さん、申し訳ありませんが、茂助さんの結婚は次回ということで。」
「俺か、俺は別にかまわない。
でも、この村からふた組の夫婦の誕生か、すごいな。」
「茂助さんにお聞きしたいのですが、茂助さんに好いた女子はいないのでしょうか。
今まで見ていた限りでは判らなかったもんで、教えてもらえると助かります。」
「お、お、俺か。
そんなの、い、いないぞ。
だ、第一今まで生きることでいっぱいだったので、そんなの考えることもできなかった。」
「そうですか、それじゃ~、茂助さん以外で、大人の中から、ほかの好き合っている人たちは判りますか。」
「俺が、一緒に仕事をしている仲間のうちにはいないな。
ほかの組みにはいるのかもしれないがわからん。」
「そうですか、大人の男集が腹を割って話す場がここにはありませんからね。
酒を飲み交わすような場面がまだここにはありませんし、そういった話題はシラフでは出にくいことでしょうから、見ている範囲以外には判りませんか。」
「そうですね、今までお酒を飲み交わすことなど一度もありませんでしたね。」
「今年は無理でも、来年には祭りや、祝い事で酒を飲めるようにしていきたいね。
村を大きくできれば飲み屋も作れますし、頑張りましょう。
……
そうそう、ふた組みの結婚式は玄奘様か、上人様にお願いをし、祝ってもらいましょう。
その時にはお酒も用意しましょう。
この村での初めての祝い事になります。」
そんな話をしていると、与作さんは無理やり引っ張ってくるようにお菊さんを連れてきた。
「長がお呼びだとかで参りましたが、なんの御用でしょうか。
与作は訳の解らない事ばかり言うので、本当にさっぱり解りません。
で、何の話でしょうか。」
「お菊さん、そこに与作さんと一緒に座って話を聞いてください。
子供の俺が話しても、どうかと思ったのですが、一応ここの長をしているので俺から話します。
お菊さんは、そこの与作さんと夫婦になってください。
………
おふたりは幼馴染だと聞いております。
なので、それぞれ互いのことは十分に理解していると思っております。
俺としてはあまり無理強いはしたくはありませんが、どうしても嫌でなければ結婚をしてください。
村を挙げてお祝いしますから。」
と、そこまで俺が言うと、お菊さんは目に涙を浮かべ、体を小刻みに震わせたかと思ったら、急に泣き始めた。
その場にいた男は全員どうして良いかわからず、唯唯オロオロするばかりだった。
流石は張さん、お菊さんの横に移り、優しく肩を抱えて、声をかけた。
「大丈夫よ。
まだ、完全にここが安全だというわけではないけれど、今までのように生きるだけで他に何もできない訳じゃないわ。
おふたりが結婚をしても大丈夫よ。
村の子供たちも今では全員で守れるわ。
それに商いも順調に行っているから、食べ物も買えるのよ。今のところ飢える事はないわ。
安心して結婚していいのよ。
後のことは空さんに任せればいいのよ。
ね、幸せになりましょうね。」
「はい、張様、ありがとうございます。
長、是非、与作さんと結婚させてください。
お願いします。」
「空さん、お聞きのとおりよ。
で、どうします。
もうひと組もこのまま結婚させますか。」
「そうだな、そうしよう。
すみませんが、茂助さん、善吉さんと幸代さんを呼んできてもらえますか。」
「判った、直ぐに呼んでこよう。」
と言って、早足で本堂を出て行った。
ここには、お菊さんを宥めている与作さんまでが泣き出していて、俺には『リア充死ね、もげろ』といった気持ちが本当に久しぶりに擡げてきたが、幸せで流す涙っていいものだなとも思った。
なにせ、前世の経験も含めても20数年しか生きていなかったもので、大人になりきれていない部分と、ちょっぴり大人の気持ちがわかってきた部分が同居しているようだ。
善吉さん幸代さんも直ぐに本堂まで来て、異様な空気が漂っているので、訝しがったが、お二人の結婚についても話したら、前のふたりと同様の結果となり、なんだか独り身の俺のライフがガシガシ削られていく。
俺の成長を待ってからの方が良かったかと少し後悔をしたが、村が幸せに包まれるのならば我慢しよう。
明日にでも願証寺に行って上人様に相談しよう。
できればここで、この寺でふた組みの結婚を祝いたい。
どちらにしても梅雨のこの時期には仕事にならない。
ちょうど良かったのかもしれない。
とりあえず、頑張ろう。
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