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一年の計は

 

 正直、この辺り、先ほど泣きながら頭に浮かんだことなのでとりとめもないが、これを他に人に分かりやすくどうやって説明していこう。


 少なくとも低次元の欲求しか持たない連中は合議にも入れないようにはしていくつもりだ。

 これだけは絶対だ。


 近衛関白など、政には入れてはいけない筆頭だ。

 当然、その取り巻きも含めて。

 これだけでも京からは半数以上の貴族は消える。

 まずはその辺りから手を付けていこう。


 主上との話し合いは、俺が泣き出したこともあり、あの後すぐに終えて、俺は太閤殿下と一緒に御所を後にした。

 あの、所々に穴の開いている廊下で何とか中納言とか言う近衛関白の取り巻きにあったが、皮肉を言われただけで、一切建設的なことを口にはしていない。

 どうも、俺と太閤殿下が一緒に御所に参内したという情報を聞きつけ慌ててやってきたようだ。

 俺達の会話を聞かれてはいないようで、正直助かった。

 主上が御認めになったことだが、それでもあの話は今俺が考えてもあまりに過激だ。


 良く、主上だけでなく太閤殿下も俺の話を認めてくれたとも思う。

 後から、考えれば考えるほど怖くなってきた。


 実際、今の日本には必要なことだとは思うが、それでも言葉にしてみるとこの時代では普通では受け入れられないくらい過激だと思う。


 だからこそ、今置かれている状況は抜き差しならぬところまで来ているとも言え、主上もそこをご理解して下さっていたのだろう。


 太閤殿下とは殿下のお屋敷で別れた後、歩いて俺の屋敷に戻る。


 戻ると屋敷はわりと大変なことになっていた。

 京での関係者が俺のところまで新年の挨拶に来ている。


 俺の部下までは分かる、いやそれも分からないが、それでも俺の部下だけでなく、俺の作った京の座の年寄連中が挨拶に来たのがきっかけとなり、太閤殿下に近い貴族連中、その中に山科卿までもいると聞いたので、急ぎ山科卿には別室に入ってもらい、直ぐに会談に入る。

 その際、山科卿に近い貴族も同行してた。

 とにかく、まず集まった連中を捌くことから始めた。


 集まった人たちから共通して言われたのは、正月くらい京にいろと云うのだ。

 仕方が無いだろう、俺も京屋敷で嫁たちとゆっくりしたかったけど許されなかったのだから。

 山科卿とはゆっくりと相談もしたかったこともあり、新年の挨拶を交わした後、後日にお礼の宴を計画し招待することにした。

 俺の京での政の仕事始めだ。


 座の人たちとは、挨拶を交わして、今年の計画を話し、この間開通した大和地方への水運についても説明して後日運用などを話し合うことでこの場を収めた。


 後は、貴族連中だが、その辺りについてはほとんどが太閤殿下ゆかりの人たちということもあり、太閤殿下に丸投げする方向で、とにかく挨拶だけを受け帰ってもらった。


 しかし、何なんだよ、今年は。

 例年正月は忙しい思いしかしていないように感じていたが、今年は異常だ。

 座の連中と云うよりも、商人はそもそもが金の集まる所に群がるものだから分からないでも無いと理性では納得できるが、しかし感情では本当にめんどくさい。

 金の匂いのするところを探すのが仕事のようなものだから俺のところに集まってくる気持はわかる。

 少しでも早く、他よりも早く儲けにつながる情報を得るために俺のところに来たのだろうし、俺もそんな商人の一人だし、そのような商人たちを俺も利用もしている。

 『三方良し』の精神だけは忘れずに、今まで必ず双方に利が出る方向で話を持っていったので、知らないうちに相当な信用を持っていたようだ。

 しかし、だからと言って、双方に利が出る方向で話を持っていくが出る利の配分までは同等でない。

 俺の方が少なくなることもあるにはあるが、ほとんどの場合で俺の方がより大きな利を出している。

 一つのプロジェクトで出る利だけなら、大きな差が出ることは少ないが、そのプロジェクトが持つ影響力まで考えると、俺の方に大きな利が出ることの方がほとんどだ。

 まあ、これはリスクの大きさが違うのだから、当然と云えば当然だともいえるが、実際に出ている利幅を知れば神経穏やかでない商人がほとんどだろうな。

 一々バカ正直に情報を公開する訳では無いが、この時代の基準では俺の出す情報はかなりオープンのようだ。

 それだけに、俺が持っていく話には多くの商人からの賛同を得るまでになってきている。

 京の座の冥加金についても相当な金額になってきているが、それのほとんどが治安維持に使われていることを、委細金額を示して情報を公開しているので、座に所属する商人たちは冥加金をごまかすものは少ない。

 ごまかす商人が全く居ない訳では無いが、そういう連中は自然と他の商人たちによって淘汰されていく。

 バカな連中だと座の多くの商人たちは思っているようだ。

 俺に黙って付いて行くだけでも、河川交通が使える一つとっても相当大きな利が出るというのに。 

 しかも、その河川交通網も年々広がりを見せ、その出せる利もそれにつれてどんどん大きくなっている。

 僅かばかりの銭をケチって、そんな利の出る河川交通の利用権利を自ら捨てていると云うのが彼らの考えだ。 


 まあ、商人同士の牽制が組織、この場合座の運営において一定の自浄作用を果たしていることで、そこまで意識して居た訳では無いが、俺にとって良いことずくめだ。


 まあ、ここで監視の目を緩めると簡単に組織というのは腐るらしいと云うので、監察機能は忍者の人たちにお願いしている。


 まあ、その忍者の人たちから上がって来る報告でも、自分たちは今のところすることが無いとまで言っているので、当分は京の座については任せきりで大丈夫のようだ。


 正月のドタバタも落ち着いたら、山科卿との約束もあり、俺の屋敷で簡単な宴を開いた。


 問題は宴の名目だが、今年の鴨川水運の安全祈願で、極々親しい方たちだけを招待しての内輪の宴とした。


 当然、太閤殿下も非公式でご招待してある。


 その宴の席で、正月に主上の前で話した覚悟を、具体的な行動に落とし込む。


「本日は、内輪だけとはいえ、我らの宴にご参加して下さり大変感謝いたします」

 こんな感じの俺の挨拶で、割と静かに宴は始まる。


 少し酒も出してはいるが、この席に参加してくださっている公家の皆さんは、近衛関白に与するような亡国の徒ではない。

 憂国の志とでも表現すればいいのか、今の主上の置かれている現状を快く思っていない人たちばかりだ。


 だからと言って、どこまで集まった人を信じて良いか分からないので、この席ではあまり大それたことは言えないが、それでも関白に三蔵の衆から御所の修繕費としての献上金の話はしておいた。


 金額も報告しているが、それがどれくらいか分からない人もいる様なので、この屋敷に費やされた金額までも参考に話してある。


 その話が伝わると、皆一様に驚いていたようだ。


 そりゃあそうだ。

 この屋敷から献上金の使用目的を伝えているだけでは横領と言いにくいらしいのだ。


 朝廷の運営はあくまで朝廷で行われる。

 御所の修繕に使って欲しいと献上金を出したところで、その銭を御所の修繕に使わなければならないとはいかないらしい。


 優先順位は朝廷が、この場合近衛関白が決めている。


 しかし、自分らの権威の源泉である主上の住まう御所の修繕以上に優先順位の有るものがあるとは俺には思えない。


 ここに集まった公家たちもその考えは同じようで、この話が伝わるとかなりご立腹のようだ。


 中には、俺に御所の修繕をしては如何かと云うのまで現るが、流石にその意見は山科卿によって抑えられた。


「御所の修繕は、朝廷の責任で行われる。

 そもそも、御所内にて朝議が行われるので、関白殿下の命無くして勝手に修繕できなかろう」


 流石現役の大納言だ。

 令和日本の感覚でいつならば閣僚に当たる人が、閣議が開かれる官邸の修繕は官邸を管理している人の責任で行わなければならないと言っているようなものらしい。


 尤も、令和日本では一々総理大臣が官邸の修繕まで考えているとは思わないが。


 ただ、この日の宴では集まった人たち全員の意見が、今の御所や主上の現状をどうにかしないといけないということで一致を見た。


 今回は、これだけの成果で十分だ。

 この後は、どのように現状変更を近衛関白の横槍から守りながらしていくかだが、アイデアが無い訳では無い。


 しかし、このアイデアも正直かなりの無理筋を通すので、しばらくは太閤殿下や山科卿と相談しながら進めることになるだろう。


 でも、正月、いや、暮れから続いたドタバタ劇は今日の宴を持って終えることができる。


 明日からは、日常が戻るが、それでも波乱だけは避けられそうにないな。


 一年の計は元旦にありとは良く言ったもので、今年もとんでもないことになりそうな予感がする。


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