真実-告白・忌-
俺は、今日がアイツの二回忌であることを思い出した。
そう、あの嘘告白をして、その後飛び降り自殺をした咲野春の事だ。
「アイツって誰のことなん?」
俺は夏江にそう問われたので、
「高校の時に、俺に告白をしてきた咲野春って奴の事だよ」と言い、それに続けて全てを説明した。
そいつと俺が付き合っていた事、実際その告白は嘘だったという事、そして春が飛び降り自殺を行った事。
それを話し終えると、夏江は、「その子なら知っとるよ。私」と言った。
?
言っている意味が分からない。だって夏江は、俺が高校生の時にはまだ入院していたはず。
「元君、私ね、君らの高校の通信制に通ってたんよ。病院を抜け出しながらね。あ、そうだ、元君は知らんやろうけど、その咲野って子は私たちと同じ中学にいたんよ。元君らとは三年間違うクラスやったから、
知らんのは仕方がないと思うけど」
春が俺たちと同じ中学だって?
というか、何故不登校だった夏江がそんなことまで知っているのやら。
一応質問した。
「あー、私ね。実は、保健室登校だったのよ。元君がいたおかげで、教室に行けたって言うだけで、登校はしてたんよ」
待て、落ち着け。
新情報が多すぎる。
まず、夏江は、俺の高校の通信制に通っていた。
病院を抜け出していたのは少し感心しないが。
そして、あの咲野春は俺たちと同じ中学だった。
なんというか、巡り合わせというか。
それで、夏江は実は不登校ではなく、保健室登校だったと。
まぁ、俺が知らないことが多いな。
でも、当然か。
昔の俺は(今もそうだが)他人の事や他の事には興味を示さなかったからな。
「俺の知らないところでいろいろあったんだな」
とりあえず、そんなことを言っておいた。
歩いて、まずどこに向かったかと言えば、そう、花屋だ。
今年もあの柵のところに添える為に。
少し高めの花を10束購入して、今度はあそこに向かった。
そう、我が母校だ。
夏江にとってはあっちの小さな校舎の方が母校なのだろうか。
高校生の頃、小さな校舎があるのは知っていたが、生徒がいるとは思っていなかった。
うちの高校の通信制は他と比べ、簡単に卒業ができる、3年間だけだし。
歩いて、しばらくすると、母校に着いた。
「うわー、久しぶりやなぁ」
夏江はそんな歓喜の声を漏らした。
「夏江の母校はあっちかい?」
俺は本校から見て右側を指さして質問する。
「そうそう、あそこだよ」
夏江は少し笑っていた。
というか、今になって疑問に思ったのだが夏江ってたまに関西弁使ってないか?
何故だろう。
一応質問した。
夏江は、「あぁ、これね。私ね、元大阪民だったから。小学校の頃はずっと大阪に住んでたんよ。
なんで京都も色々混ざってるのかというとね、京都弁に憧れてたからなんよ」
そんなことを言った。
どうやら、小学校を卒業してすぐにこっちに来たらしい。
成程、やっと腑に落ちた。
「やっぱ、いろいろあったんやなぁ」
俺は、そうとしか言えなかった。
無関心というわけではないが、驚きのせいである。
「さて、とりあえず行こうか」
俺は夏江に声をかけて、歩を進めた。
今年もまた、この階段を上るのか。
去年上った時は、罪悪感と、恐怖感で吐き気を催してしまった。
それは、今になってもちっとも変わらない。
一段、一段を夏江と共に、噛みしめながら上る。
去年は辛かったが、今は夏江がいる。
いないと思っていた人が隣に居てくれている。
これ程までに心強いものはなかった。
「元君、もしかして怖いの?」
夏江が不意にそんなことを聞いてくる。
「う、うん」
俺は小さく返事をする。
そうすると、「大丈夫、大丈夫」と夏江は俺の背中に手を添えながらそう言い聞かせてくれた。
流石だな、夏江。
そして、ありがとう。
そうしているうちに、屋上への扉の前まで来ていた。
「・・・大丈夫だよ。きっと、恐れることは何もないよ」
「うん・・・!」
二人で、その扉を開く。
目の前に広がったのは一年前と変わらない景色。
しかし、変わったのは一つ。
あの柵の前に、一凛の花があった。
しかし、その花はもう枯れかけていた。
儚い、花。
俺は、その花を見つつ、柵の前まで行く。
ゆっくり、ゆっくり。
一歩、一歩、慎重に。
そして、そこに着く。
「今年も、来たぞ・・・。春」
俺がそう呟くと、「私も来たよ」と、夏江も呟いた。
購入した花をそっと、柵の前に置き、二人で手を合わせる。
その間、やけに風の音が大きく聞こえたような気がした。
俺たちが来たことを喜んでいるのか、嫌がっているのか。
そんな風に感じ取れる風だった。
「さて、この場で、まだ話せてないことを話そう」
合唱を終えると、急に夏江はそんなことを言い出した。
「話せてないこと?」
「そう、実を言ってしまうと、私と、咲野さんは一度、面識がある。
さっきも言った通り、私は中学生当時、保健室登校だった。
そんなある日、咲野さんが保健室にやってきた。あの時、彼女の体には少し傷があったような。
まぁ、あまり詮索はしなかったけれどね。もちろん、一言も話してはいない。
面識があるというだけよ」
二人が一度、会っていただって?
なんてこった。
「ま、まさか、そんな『軌跡』があるなんて」
ふふっと夏江は笑った。
本当に俺は周りに目を向けてなかったなぁ。
俺の知らない場所で、たくさんの事があったらしいし。
もっと、周りを見るべきか。
俺はそう決意し、夏江とこの場を後にした。
春が今、いないからこそ、話せる事だったと思う。
だから俺は、「ありがとうな、夏江。色々、話してくれて」と夏江に感謝を述べた。
「いえいえ」
夏江はそう言って、満面の笑みを浮かべていた。




