第1走目
今思えば、ずっと寝たっきりで知らないうちに食われて死んでいた方がマシだったかもしれない。
そんなことを考えてしまうのは仕方がない、思い返せば・・・どれくらい寝たきりだったかが分からないからある日としておくよ。
ある日、俺は競馬のレースに出ていた。
普段地元で”世界一のテンサイジョッキー”だなんて呼ばれている俺ならこのレースも余裕で優勝だろと思っていた。
そのレースの最中、俺は落馬事故を起こしてしまった。
あの時はが、人生で2度目の落馬だった。
それに落ち方がまずかったのか、それからつい昨日まで病院で寝たきりだった。
誰も居ない病室で目が覚めた。
なんで俺はベッドに寝ている?
レースの続きは?
そう思って身体中に付いていた管無理矢理はがし、酸素吸入マスクを捨てて病室から出た。
電気はどこも切れていて、窓を隠すように打ち付けられた期の隙間から漏れた光を頼りに備え付けの公衆電話を探した。
病院の入院の棟は、こんなにも鉄くさいのか?そんな疑問を抱えながら何とか公衆電話を見つけた。
途中、エレベーターを見つけて使おうとしたが反応しなかった。
電話先は、レースをしていた会場の受付。
受話器を取り、何度も番号を押した。
一向に反応せず、怒りにまかせて電話機を殴って壊した。
「あぁ・・・、レースが、レースがぁ・・・!」
あのときに、油断さえしなければ・・・
そんなことを考えていた。
せめて、結果だけでも聞いておきたい。
俺が入院してたとなれば当然関係者も来ているはず、そう思って再び自分の病室へ戻った。
初めは焦っていて気がつかなかったが、ベット脇に一つの手紙が置いてあった。
何の飾りもない、真っ白な封筒の中に手紙が入っていた。
”僕は、貴方のファンです。お父さんやお母さんは、競馬でいつも確実に1位を取る貴方を少量ずつだが確実に稼げると言っていました。でも僕は、ジャッキーとして馬乗りとしての貴方が好きでした。ですが、初めて実際に見たあのレースの日落馬して、救急車で運ばれ後のニュースで意識不明の重体だと知りました。この手紙を貴方が読めているかは分かりません、読めていないかもしれません。ですが、僕はまた貴方のレースを見たいです。一緒に僕のお守りのペンダントを差し上げます。”
そう綴られていた。
自分は、本当にあのレースで意識不明にまでなってしまっていたのか、それにこの手紙に入っていたペンダント。
ネームタグだった、いつだろうか書籍の企画で抽選でたった一人にプレゼントした物。
ソレがこれだった。
「ははっ、俺にもこんなファンがいたんだな・・・。」
ペンダントを首から提げて、おそらくいつでも俺が起きて良いようにと部屋のハンガーに掛けられていた服のポケットを着た。
もちろん、手紙も持って。
他に何か無いかと部屋を見渡したが、もう特になかった。
そして病室を出て、不自然なほどに静かな廊下に出た。
服のポケットには、さっきの手紙が入っているが、ズボンのポケットに何か入っていることに気がついた。
堅い板のようななじみのある長方形。
取り出してみるとそれは携帯電話だった。
電源を付けてみると、充電はほんの数%しか残っていなかったそれに加え100件を超えた着信があった。
その着信のほとんどが、俺のジョッキー時代の友人からだった。




