第八十二話 独ソ開戦
昭和二十四(1945)年六月、とうとう来るものが来た。
「独ソが交戦状態に入った模様です!」
十二月の大地震で延期になっていた海南島攻略の動きが活発になっている日本にとっては事態の急変を告げるニュースでもあった。
何よりここで注目されたのが民国の動きだった。これまではドイツからの支援に加え、共産党を介してソ連からの支援が入っていた国民党だが、支援国同士が戦争を始めてしまったのでは、今までのようにはいかない。
七月に入るとそれは明確になってきた。
中国、モンゴルでの共産党の動きが活発になるに従い、国民党はドイツ派、ソ連派に分裂した。そして、そこに米国派勢力が盛り返しを図る状況にあった。
こうなると海南島占領をどう扱うかが日本国内でも微妙になってきた。
まず考えられるのが、主流派であるドイツ派を潰すために日本が占領し統治するという案、しかし、現在の状況でドイツ派を潰すのは得策ではない、しかし、ドイツ派よりも米国派に肩入れした方が日本の利益は大きくなる。ここが判断の分かれ目だった。
結局、統合参謀部は海南島攻略を中止する決定を行った。今、ドイツを刺激してフィンランド支援が滞るのは得策ではないと判断したからだった。
ただ、それでも懸念材料がないわけではない。バルト海の情勢次第では、今のフィンランド支援ルートは危なくなってしまう。
安全を確保するならノルウェーとスウェーデンに支援ルートの了解を貰わないといけない。
スウェーデンは既にこちら側なのだが、ソ連と直接国境を接するノルウェーは首を縦に振らなかった。
何より問題なのがソ連北海艦隊の存在だった。
ノルウェー程度の国では戦艦まで保有する北海艦隊を相手には出来ない。一つ間違えばソ連に極北を奪われてしまうかもしれないという恐怖が何より大きかったようだ。
そこで、日本は英国と共にノルウェー周辺に艦隊を派遣することを提案したのだが、にべもなく拒否されてしまった。
そうこうしていると、なんと、ドイツが先にナルビクを電撃占領してしまった。
ノルウェーにはドイツ軍に対抗する戦力もなければ、そもそも、オスロ周辺はドイツ経済圏に組み込まれている状況では拒否すらできなかった。
なぜ、ドイツが占領したかは明白だった。ナルビクがスウェーデンのキルナ鉱山の鉄鉱石を運び出す港だから。
ソ連は既にナルビク封鎖に動こうとしていたのだが、ドイツが機先を制して電撃占領する形になった。
こうなると、日本は動けない。ドイツにフィンランド支援ルートを握られてしまった事で、民国への手出しすら大々的には出来なくなってしまうという事態が発生してしまった。
この状態では選択肢は二つ、このままドイツに従うか、それとも、自らフィンランド支援ルートを確保してフィンランド支援を行うか。
とはいっても、極北からの支援ルートは構築しにくい。
港自体の確保が難しく、さらには鉄道をかなりの距離敷設するか、道路整備を行う必要がある。それではあまりにも非現実的な対応になってしまう。
「現時点ではスウェーデンが我が国の自動装填機構とガスタービンを採用した土級戦艦の建造を行い、我が国寄りの姿勢を見せている事で妥協するしかないでしょう」
やはりその辺りが結論になるのだろうな。流石にドイツと共同戦線という訳にもいかない。そんなことをすれば極東にまで戦火が広がってしまいかねない。ロシア公国自体が早期の開戦を望んでいない以上、日本が勝手なことも出来ないというのが悩ましいところだった。
さて、現在フィンランドでは、陸軍は国内製造されているSタンクが主力となっている。そして、教導隊や抜刀隊という変人集団の教育を受けた超人や鉄人が前線で戦っている。雪が解けてもその戦力的異常性に変化は見られない。
走っているのに誰にも見付けられない兵士やら、どんなに目を凝らしても見破れない擬装をしたスナイパー、千メートル離れた目標を確実に撃破する戦車兵。
確かに、日本にも近衛師団になら存在している類の連中があの国には溢れかえっている。そんな集団がモッティ戦法という包囲殲滅戦を展開しているんだから、ソ連軍も堪ったものじゃないだろう。
ソ連軍の士気は低下が著しいらしく、今や主攻は一番柔らかい戦線とされるルーマニア戦線らしい。
記憶持ちであるらしいヒトラーは防勢を主体にしてあまり攻勢をかけていないらしい。しかし、開戦二か月でエストニアの島々を占領してタリンににらみを利かせているのだから、軍の勢力が弱体という訳ではないらしい。




