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第七十八話  第二次ソ・フィン戦争

 昭和二十四(1945)年一月、フィンランド湾に潜水艦の姿があった。


 ヤンマーエンジンを潜水艦に搭載する実験が行われたのが十四年前の昭和十(1931)年年だった。そこからこの短期間に潜水艦は著しい発展を遂げる。

 ロシアと日本が共同で開発した最初の実用型潜水艦は沿岸用の小型潜水艦で、排水量千トン、全長50mというものだった。それでも前世の第二次大戦頃の物とは違い、水中速力は16ノットに達している。

 対潜装備の実用化が遅れている世界においてこれは脅威以外の何もでもない。


 そんな潜水艦を日本は惜しげもなくフィンランドに供与していたのだった。


「アホか・・・」


「何でしょうか、教官」


 艦内で日本人教官が発した言葉にフィンランド人乗組員が応じた。彼の姓はアホネンという。


「すまない、何でもないんだ」


 潜水艦が供与されたとき、指導のために送られた要員が居る。はじめはまず日本で乗組員教育行い、フィンランドへと帰って行ったのだが、いきなりフィンランド人だけという訳にも行かず、日本から指導役を派遣することになっていた。彼はその中の一人だった。


彼は受け取った指令書を読んで、日本語でつぶやいただけだった。


「アホネン少佐、わが艦はこのままの航路でアハベナンマーへ向かう。以後の指揮は任せる」


「了解しました」


 第二次大戦頃の潜水艦と言えば水上航行が標準であり、敵を見つけた時のみ潜水する、いわゆる可潜艦が主流だったのだが、この世界ではまったく事情が違う。


 潜水艦自体は19世紀末には実用的な物が登場しているが、その時点では内燃機関が存在せず、電動のみで行動するものだった。

 欧州大戦頃にはガソリンエンジンを積むものも出現しているが、ガソリンを潜水艦に積むことは非常に危険で、広範に普及するには至らなかった。


 その代わりに電動機の開発が進み、電池の有効範囲内という限られたものではあったが、航続力100海里から200海里程度の沿岸型潜水艦として普及することとなった。そして、電動であるため水中での行動が重視されたことで、可潜艦を経ることなく、潜水艦としての開発や運用が行われるようになっていった。


 そして、昭和十(1931)年にヤンマーエンジンが搭載されるわけだが、この時点ですでに発電がメインとして位置づけられていたのだった。

 内燃機関の登場が遅れたことで潜水艦の開発に関しては可潜艦の時代を飛び越えてしまっていたと言える。


 もちろん、それは完全にそうなったわけではなく、昭和二十四(1945)年時点では、水上速力を重視した型というものもやはり存在しているのは確かだった。

 しかし、もともと沿岸型とされていた小型潜水艦の場合は、当初のコンセプトを継承し、水中航行を重視したものとなっている。

 フィンランドに供与されたものは伊型と呼ばれ、千トンの排水量を持つ小型潜水艦だった。


「少佐は敵さんが諸島に来ると思うか?」


「一部にはリトアニアへ向かうという意見もありますが、戦争が始まったこの段階でソ連が動くとすれば、アハベナンマーしかないと思われます」


「なぜ?」


「それは、結氷が理由です、アハベナンマーには現在、大型船が荷下ろしするような港はありません。そのため、敵が諸島を奪うなら、結氷によってどこでも港に利用できる今しかないからです。これからの結氷した時季ならば、重砲の陸揚げも容易になります。わざわざタリンへ寄港したというのも、我が国へ船団がリトアニアへ向かうと見せかけるためでしょう」


「なるほどな」


 アハベナンマー、日本ではオーランド諸島として知られる島々はクリミア戦争ののち、非武装地帯とされ、以後、恒久的な軍事施設は設けられていない。とは言え、フィンランドとスウェーデンの中間に位置し、バルト海を制する重要拠点だけに、帝政ロシアの時代、クリミア戦争前には海軍の泊地として整備する計画が進行していた。

 第一次ソ・フィン戦争においても、諸島警備のために戦時中は海軍が常駐していた。今回は結氷後に開戦とあってフィンランド軍は展開できていない。ソ連はその隙をついて占領を目指しているらしい。


「前方に船団らしきもの確認しました」


 水測員からの報告が上がる。


「この時間に周辺を航行する商船の申告はありません」


「船団に接近して確認する」


 少佐は増速と潜望鏡深度への浮上を指示した。教官はその姿を持ってみている。


 暫くすると潜望鏡で確認可能な距離まで近づくことが出来た。


「あれは・・・・クシロ型砕氷船ですね」


 少佐がそう言って教官を促す。


「間違いない」


 教官も確認して頷いた。


 釧路型砕氷船は日本が欧州大戦前に開発した蒸気タービン発電機によって発電し、船底に全周旋回式のスクリューを備えた砕氷船だった。

 元々は樺太やオホーツク海での使用を前提に作られたものだが、帝政ロシアもその使い勝手の良さから技術導入してオホーツク海だけでなく、当時領土だったフィンランドやバルト諸国、ムルマンスクなどにも多く存在していた。

 その砕氷船を先頭にした船団。それがフィンランドの物でないのは確かだった。


「報告の編成と同じです。これより対水上戦闘を行う」


 少佐はそう宣言すると乗組員たちが動き出した。


「水雷室、準備よし」


 そう報告が入ると射撃盤へソナーからの情報が入力されていく。伊型では潜望鏡を頼らずともソナーの情報をだけで攻撃が可能なシステムが備えられていた。

 少佐は射撃盤に従って操縦員に指示を出す。


「ヨーソロー、魚雷、全門発射」


 その命令と共に6本の魚雷が艦を離れて船団へと向かう。


「艦の右方向でも魚雷発射音がしています」


 水測員からそう報告があった。


「あっちも始めたらしい。次弾装填急げ。遅れたら連中に獲物を取られるぞ」


 少佐はそう檄を飛ばすが、そもそも水平移動だけで装填が可能な伊型の魚雷装填ラックは10~15分もあれば再装填が可能だった。その構造は前世UXXI型を模範して作られている。ただ、小型潜水艦なので重量とスペース的な面から自動ではなく手動が採用されている。魚雷自体も53cm魚雷ではなく45cm魚雷を採用することで発射管の数と魚雷搭載本数を稼いでいるのが現状だった。


「命中、2本。続けて3本です」


「という事は、あっちが三本か、負けておれん」


 こうして2隻の潜水艦によって6隻の輸送船が撃沈され、急報を受けて駆け付けた水上部隊によって残りもすべて撃沈されることとなった。


 この後、各地に機雷原が敷設されることとなった。







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