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第七十一話  国会は踊る

 「ーで、あるから、民国を屈服させるためには南京を占領し、我が国への暴虐に対する償いを課す必要があるのです!」


 先ほどから野党議員が喚き散らしている。遠い記憶で似たような話を聞いたことがある。そう、あれは前世での事、当時もこんな威勢が良い意見が叫ばれていたなぁ

 正直、マトモにその話を聞いてなどいない。足を組み腕組みして相手を睨みたいが、参謀長という立場ではそうした行為も出来ない。


「統合参謀長」


 議長が俺を呼ぶ。俺は挙手して答弁席へと向かう。


「南京を占領せよと仰る。すでに上海を一時的に制圧し、南京政府を瓦解に追い込んでいるこの状況でいったい何がそんなに不満なのでしょうか?」

「南京政府が瓦解したにもかかわらず、民国は我が国との和睦に動こうとしておらない。これが彼の国応えであり、南京を占領しても状況が変わる事は無いというのが参謀部の出した結論であります」


 前世の日中戦争もそうであったように、現状は明らかに誘い込みを受けていると判断してよい状況にある。米国は共産党の誘いに乗り、北京を占領し、ズルズルと西進している。モンゴルにおいても状況は同じだ。

 もし、ここで日本が上海から南京や武漢へ侵攻しても前世の二の舞になるだけだ。連中はどこまでも逃げるだろう。それどころか、国共合作の口実を与えるだけに終わる事は火を見るよりも明らかだ。中国共産党がソ連の指示の下で動いているように、今の中華民国はドイツの指示を受けている。


「参謀長の言は詭弁ですな。ただ爆弾を落とし、軍閥の首領を屠ったに過ぎない状況を政府の瓦解とは。そのような弱腰だから敵に舐められるのです。ここで一気に南京へ攻め込めば、蒋介石も日本の威容に恐れをなして降ること間違いないのです!!」


 本当にうるさい、この議員、そういえば、同じ名前の議員が前世にも居たな。のちに総理になり、その孫も総理になっている、孫の醜態は俺もよく知っている。宇宙人だとか鳥類だとか言われていたな、あの鶏頭なボンボンは。そういえば、その祖父って、統帥権干犯を嗾けた一人ではなかったろうか・・・


「如何ですか?参謀長!!」


 うるさい・・・・


「統合参謀長」


 議長に呼ばれたので答弁席へと向かう。散々に罵倒してやりたい。が、そうもいかない。


「議員は南京を占領しさえすればよいと仰る。しかし、現在の状況は、その民国政府が南京から武漢への遷都を宣言し、蒋介石自らが国の指揮を振るっている状況です。今、南京を占領しても何の効果ももたらさないでしょう。そこにあるのは議員、あなたの自己満足だけではございませんか?」


 顔を真っ赤にしている。鶏で赤いのは鶏冠だけだったような気がする。おっと、鶏でゃなくて鳩だったか?どっちでも良い。


「参謀長!それは私への侮辱ですかな?軍人であるあなたが政治家を蔑ろにするとは何という事ですか!!」


 鶏が鳴き出した。そろそろ朝だろうか?確か一時間前に昼食をとったような気がするが気のせいだろうか。とにかくポッポポッポとうるさい。おっと、それは鳩だった。


「私が行っているのはそのような話ではございません。ガツンと一発、誅罰を加えれば相手は恐れをなすと言っているのです!!」


 いや~、本当に、前世、こんな話をよく聞いた。さもそれが正義のように語る者が複数いたような気がする。それがその後どうなったのか。事故った俺が知る由もないが、今の状況でこの鶏が鳴く通りに行動すれば前世の焼き直しまっすぐらだ。


「統合参謀長」


 淡々と指名してくる議長。こんな仕事って楽しいのかな?楽しいわけではないと思うが、ご苦労な事だ・・・・


「誅罰ですか。それならば、南京の政府庁舎へ、そして上海に対して行いました。その結果が今現在の状況でございます。わが軍は完全に海を抑えており、民国が我が国に対して攻撃できる状況にはございません。我が国としては、かの国をこのまま放置したところで何の損害も受けることは無いでしょう。それに、現在のわが陸軍十六個師団のうち、六個師団をロシアへ送り、ソ連への備えとしております。ソ連の動きへ備えた状況で南京を攻めるとなれば、上海同様、一個師団程度の兵力による襲撃か、多くても三個師団程度での侵攻でしょう。それでは上海と同じ事しかできません。一時的に占領して退く。同じ作戦を行って状況が変わるとお考えなのでしょうか?」


 前世、イラク戦争がそうだったと言われる。少数の機甲師団が一気に街を駆け抜けたからと言って、住民は敗北感や「敵」による制圧を意識しなかったという、それは心理的にも「敵」を恐れることなく不満があれば攻撃するという行動を止める事が無かったそうだ。米軍の占領政策のまずさも多く指摘されているが、例えば日本統治のようにその威容を見せつけていればもう少し騒乱を緩和できたともいわれている。

 

 それは今の日本の状況にも当てはまる、少数の精鋭部隊が敵軍を撃破して見せたとしても、それは心理的な威圧をあまり与えず、占領政策ではかえって苦労しかねない。かといって、今の日本軍はイラク戦争の米軍同様、大軍を擁している訳ではない。占領は可能だろうが長期間占領を行えば必ず疲弊し、消耗していくことになる。



「私はそんな話をしておりません!!わが日本の威容を蒋介石に見せつければ相手は平伏すと申しておるのです!!」


 もう、何言ってるのかわからん、この鶏・・・・


「統合参謀長」


 議長も淡々とした口調で本当に疲れないのかと心配になる。


「議員、先ほど申したように、少数の部隊で占領したところで威容を示すことは出来ません。かといって、長期間占領を続ければ徒に消耗を強いられてしまうだけです。そのような無駄な犠牲を我々は許容できかねるのです」


 鶏は納得どころか、真逆の顔をしている。いったいどんな思考回路なのだろうか?さすがに信じられなかった。  

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