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第六十四話  大誤算と大艦巨砲主義

 先日の結婚騒動には本当に頭を抱えた。


 ちなみに、長女の華怜なんだが、奥手だと思っていたら、どうもそうでもないとアナスタシアに言われた。

 なんでも、衛兵の一人に非常にドジなのが居るそうだが、その兵士の面倒を見ているとかなんとか。

 もちろん、「二人の邪魔をしたらどうなるかわかってるでしょうね?」という凄いプレッシャー感じたので何もしていない。まだまだ俺にはやるべきことがあるんだよ、うん。ちなみに三女と四女、杏奈と恵梨華は12歳の双子。


 まだこんなことが続くのかと思うと気が重い。



 そして、もう一つ気が重いのは、あり得ない時期に起きてしまった日米戦争の影響だろう。


 そもそもまだ戦争なんか起きないと思って最先端技術をふんだんに投入していた。

 その結果、早期の戦争という事で、レーダーの有効性を各国に知らせる結果となってしまった。


 本来ならまだ数年は各国は試行錯誤をし、その有効性を疑問に思った状態で過ごしていたはずだった、特に海軍に至っては、電波をまき散らすことに忌避感があるのでその傾向はなお一層強いままであって欲しかった。


 だが、ことここに至ってはそうはいかない。

 その誤算の結果が目の前に資料としてまとめられている。


 先の日米戦争においてレーダーが効果的に敵編隊を捕捉し、迎撃を優位に行った事は隠しようがない事実だった。レーダーの使用を隠せば、戦果にも疑問符がつく。レーダーの効果を自ら表明して、その性能などが流布するのを防ぐことに努めた。もちろん、哨戒機の事は機密事項として。


 もう一方の海戦についてはどうかというと、こちらはある程度隠すことは出来るのだが、さすがにすべての兵員の口に戸を立てることは出来ない。子細な運用法や精度などの情報が漏れない分には諦めるしかなかった。

 噂のようなあやふやな物であっても、見る人が見れば、聞く人が聞けばその効果というのは分かってしまうもので、これまで共同開発を行ってきた英露でもさらに積極的な動きがみられ、米国もそこに関与してきた。部外者の仏独伊などもそれぞれに動きがみられる。


 しかも、間が悪いというか、技術を進めすぎたのが原因というか、ドイツが未だに戦争を始めていないせいか、レーダーは氷山警戒装置として北大西洋を横断する客船への装備が行われている。客船の安全を考えれば装備は必然の事なので止めようがない。

 そして、その装置がいくら民需品であっても、それ相応の性能、精度は有しているので各国に無償で技術資料を渡す行為に等しかった。


 もう一つそこに追い打ちをかけたのがターボプロップエンジンの一般公開と販売だった。


 量産性や多国籍共同開発を行う以上、これも避けては通れない。ターボプロップはそろそろ普及が始まっている旅客機のエンジンにも適している。逆に、その特性を把握せずに戦闘機に装備することが失敗に繋がっていたのだから、何をかいわんや。


 市販化の顧客には当然ドイツ企業も名を連ねている。拒否する訳にもいかないが、ドイツがさっそく攻撃機や爆撃機に採用することは必然と思っていた。


 この二つ。実はこれまでにも協議されたことはある。

 そして、ある一つの結論に達している。


 ヒトラーが未来知識持ちであることはこれまでの動向からほぼ間違いないと推定されている。

 それはつまり、内燃機関やレーダーの知識を曲がりなりにも有している事を前提に対処する必要がある事、技術的にコントロール可能ならばこちらが主導的に介入した方が良い事が話し合われた。


 レーダーにしろターボプロップにしろ、その手段と言えた。

 俺の居た前世の知識があるならば、周りの技術者たちをヒトラーではなくこちらの思想に引き込む、未来持ちとしてこちらの世界の未来を知るならば、ヒトラー自身の混乱を誘うために技術を相応に開示して判断を狂わせる。そのように決められた。


 もちろんリスクはある。いずれにしてもドイツの技術をある程度進めてしまうことには変わりがなかったのだから。


 そして、それは誤算を産んだ。


 俺としてはレーダーと航空機の優位があれば前世の米軍よろしく完勝できる。そんな甘い考えがあった。なにより、戦艦などもう不要になるのだから列国の大口径競争に参加しないで良いという考えだった。


 しかし、今手元にある資料は衝撃的だ。


 現在の水準の技術をドイツやソ連が得た場合の想定が書かれているのだが。ソ連は陸戦が主だからそもそも状況は大きく変わらない。


 しかし、ドイツは着々と海軍力を整備している。何より脅威なのは前世では完成しなかった空母も順調に建造している事だ。

 戦争がないので今年と来年、まずは二隻が完成する見込みだという。戦艦の方も12吋のシャルンホルスト級二隻ののち、英国が15吋砲艦を建造するのを見て今、15吋砲戦艦を建造している。それも空母と同時期に完成する。さらなる追加建造も継続中で、そちらは16吋、もしくは42糎だという情報まである。このまま昭和二十五(1946)年まで戦争がなければ、ドイツは北海において対英六割という海軍条約を上回る艦艇を建造できると試算されている。


 英国でも負けじと16.5吋砲の試作に入っている。早ければ昭和二十四(1945)年にはその砲を搭載した戦艦が就役するそうだ。


 話はそのような戦艦の砲口径競争に留まらない。


 何より深刻なのは、昭和二十五(1946)年時点でドイツは六隻から十隻の空母を保有すると見込まれ、当然、搭載機にはターボプロップが採用されるものとみられる。

 それは我が国空母の装備と大差のないと見られており、仮に空母戦となった際には双方の航空機がほぼ同等に損害を出す事態も考えられている。


 それはつまり、反復攻撃による戦果の拡大が望めず水上打撃部隊による砲戦を想定しないといけない事態が待っているという予測である。

 その時に機動部隊に随伴するのが12吋砲の金剛型では日本が不利である。未だにミサイルなどという好都合なものは完成していない。

 そうなると、ドイツ戦艦と同等に殴り合える高速戦艦が必須となる。出雲型を改修してすら不利なことに変わりはなく、元々15吋砲も考慮されている尾張型を改装するのが手っ取り早く、すでに設計も終わり、英国から砲身が届き次第改装作業に入ることになった。


 これで尾張型は14吋三連装12門から15吋連装8門、機関も強化して30ノットに生まれ変わる。


 ただ、それでも数は足りない。

 金剛型は艦隊戦には不向きで、水雷部隊に振り向けることになるが、その不足を補う戦艦が必要であった。


「大和か・・・」


 俺の手元には二つの計画案がある。双方とも排水量7万トン、全長275mサイズは同じで、ガスタービン24万馬力で33ノットという怪物だった。A-160案は英国の16.5吋砲を三連装4基12門、A-180案は18吋砲を三連装3基9門という仕様だった。もし蒸気タービンなら排水量8万トン、全長290mだったというからこれでもかなり小型化されている。


 これではA-180を承認するしかない。


 そう言うと、尾張型建造の時点から16吋砲以上を念頭に様々な試験や設計を繰り返しており、二年もあれば建造に取り掛かれると言われた。完全溶接のブロック工法によって戦艦のくせにわずか三年で建造できると豪語している。ホンマかいな・・・


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