表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/111

第五話   忘れていた事件

 日露戦争までは何をするでもない、そう考えて一年を過ごした。


 この世界と前世の歴史の流れは基本的に同じに見える。工業技術の遅れがあるが、日本にとっては悪いことばかりではない。遅いぶん、前世よりも追い付ける見込みが増える。その点は既に父に伝えてあるし、既に動き出しているらしい。


 そんな時である。ふと目に留まった資料に義和団の文字が目にはいる。


「これ、忘れてた」


 特に問題はないのだが、より信じてもらえる話が出来ると思った。正確な日時までは覚えていないが、一応の説明は出来る。

そして、父にその旨をつたえたのだが、詳しくは後日となった。


 当日、何故か家族で使う区画から公務を行う殿へと呼び出されている。

そこには日本史の教科書でよく見ていた顔が並んでいた。


「おや、殿下」


 誰からともなく場違いな登場に声が聞こえた。


「今日は明宮から話がある」


 父はそう告げた。


「それでは、以前の地震を的中させたという・・・」


 皆が俺を見る。


「すまんな、まだ早いとは思うたが、事件が起こるというなら今が良い機会だろう」


 そう言って俺を促す。



 心の整理に時間が掛かった。


「今日は事件の話だけで良い。流石になにも知らずにあれを聞かされても気が触れたか子供の世迷言にしかならん」


 そう言う父に頷き、事件についてはなした。


「それを信じるのは難しいですな。たかが賊の反乱に清国が乗っかり宣戦布告など、あり得ませぬ」


 元老の一人が俺を諭すようにそう言う。他の参加者も似たり寄ったりなのは見ていてわかる。


「はい、あまりに突飛で策として何の勝算もありません。現に皇太后は皇帝を連れて逃げ出します」


 俺が「殿下」でなければ怒号が飛んできそうな雰囲気だ。


「さて、今日はここまで、次にこの議題に当たるのは宣戦布告が為された時ぞ」


 父はそう言って散会を告げた。

皆はやれやれといった体で場を後にする。


「亨仁、確信はあるのだな」


 父が聞いてくる。


「義和団が北京を目指しているという以上は確実です」


 俺は自信を持ってそう答えた。





 それからが長かった。正確な日時を知らないのだから仕方がない。

 義和団が北京に入城したのは六月に入ってからだった。北京では公使館など外交官や民間人、果ては同胞であるはずの中国人キリスト教徒までもが襲われ、被害が出ていた。日本の外交官も殺害された。

北京での事態への対処に追われる六月末にとうとう宣戦布告が為された。


 そして、再び集まることとなった前回メンバー。

 俺が現れると前回とは全く違った。


「殿下は一体・・・」


 今回は誰からともなくそんな声が聞こえた。


 俺は以前、父に話したことと同じ話をした。


「重ねて言いますが、これは私の前世の記憶です。私にとってこの世界は十年遅れています。その為、どこかで齟齬が出てくるはずです。下手をしたら日露戦争の内容や結果が変わることもあり得ます」


 幾つか挙がる疑問の声。


「その、飛行機というのは何でしょうか?」


 一番多いのはこれだろう。なんせ、まだライト兄弟すら飛んでいない。


「飛行機というのは、ガソリンエンジンや後にはジェット、あ~。タービンエンジンで空を飛ぶ機械です」


「鉄の箱が空を飛ぶのか?俄には信じられん」


 そう言って首を捻る人ばかりだ。


「鉄パイプで骨組みをつくり布を張った例はあるでしょうけど、主流はアルミ合金です。軽量化の為にエンジンもアルミ部品が多く使われてます」


 アルミという単語に幾人かが反応した。軽金属の知識があるんだろう。この時代(しかも十年程度遅れた世界)では、ようやく製法が確立されたかどうかのはずで、まだ普及していない。


「ところで、ガソリンエンジンやらタービンエンジンとはどんなものかな?」


 あれ?ガソリンエンジンなら既に日本にも伝わってそうだけど?


「バイクとか無いですか?十年程度遅れているとしてもそろそろドイツ・・、プロシア?で自動車が出来ているはずですが・・・」


 なんだか反応がおかしい。


「誰か、内燃機関をご存じの方は?」


「ないねん機関とは?」


 そう聞いてきたのは父だった。


 そして、俺は基本的な四サイクル、二サイクルエンジンとタービンエンジンの仕組みについて解説した。

 正直、反応がおかしい。軍人居るんだから世界の最先端技術について聞いたことくらいはあるはずなんだが・・・


「未来ではこんな機関で動かすのか、缶が不要ならそれだけ利点も増えそうだ」


 そう納得する海軍の人・・・


「先程の単一砲艦共々、持ち帰ってよろしいかな?」


 そう言うので喜んで渡した。ただ、今の日本には独自に建造できる技術が無いことを伝えると、笑って技術修得に励んでいくと言われた。


 確認ついでに陸軍の人にも無煙火薬の有無を訪ねたら、既にあるとのこと。まだ早いが日露戦争が有利になればと塹壕戦と迫撃砲について伝えた。


 しかし、まだ日本にガソリンエンジンが伝わっていないとは驚きである。技術が二十年近く遅れている分野もありそうだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ