第五十六話 戦艦対海空連合
北方航空戦が行われて数日、海空軍は周辺の捜索を行うが逃走した機動部隊以外の艦影を捕捉することは出来なかった。
戦艦部隊はフィリピンへ向かったという意見やハワイへ入港したのではないかという意見が優勢だった。
そんな楽観論が広がる中でもたらされたのが米艦隊発見の報だった。
機動部隊追跡に出撃させようというゴタゴタがようやく収まった段階での報で出撃は後手に回った。
出撃で大わらわになった横須賀では悲劇とも喜劇ともとれる阿鼻叫喚が渦巻いたが、何とか艦隊を出撃させることは出来た。
米国側としては機動部隊にある程度の艦隊を食らいつかせ、戦艦部隊が東京湾を奇襲攻撃するか、機動部隊に食いついた日本艦隊を背撃する算段だったのだが、日本側の不手際が重なったことで思惑が外されていた。
米戦艦艦隊は機動部隊からの通信が入らないことで作戦の選択に迷っていた。機動部隊を追いかけるのか、それとも東京奇襲か。
暫くして受信した機動部隊からの通信は彼らの前途を暗くした。
機動部隊は予定地点に到達する以前に高速偵察機に発見され、予備プランであった津軽周辺の爆撃を敢行したが半数近くの艦載機を失い、現在作戦可能なのは三割程度との事だった。それでは囮として日本近海で姿を晒す訳にはいかない。かといって戦艦部隊と合流したところで戦力とはならない。無駄に犠牲を増やすようでは合流の意味をなさない。
機動部隊では撤退を決断し、ハワイへと退避しているとのことだった。
戦艦部隊の司令官は悩んだ。確かに日本側は戦艦を六隻しか出撃できないことは分かっている。しかし、剣龍、迅龍という空母があり、このまま進んでも日本側に有利な砲戦が展開される悪夢しか見えなかった。
かといって退くに退けない。フィリピンや大連はサボタージュをしており、ハワイも怪しい。どこかに寄港した時点で再出撃が叶うかどうかは怪しかった。とにかく進む以外の道が彼には残されていなかった。
その結果、彼は当初の作戦通りに東京強襲を決断した。
日本側のゴタゴタがあり、うまくいけば至近まで迫れたかもしれなかったが、残念ながら彼らは小笠原沖で日本艦隊に捕捉されてしまう。
この時の米戦艦戦力は八隻、内訳は土級(12吋8門)艦四隻、超土級(12吋10門)二隻、新世代(15吋8門)二隻だった。
対する日本は出雲型(13.5吋12門)四隻、河内型(14吋12門)二隻だった。隻数では日本側が不利だが、砲門数と口径では日本側が有利だった。
日本側は空母艦載機による索敵でいち早く米艦隊を捕捉し、まず、随伴した空母戦力を叩く事から始めた。
日本側は艦爆隊による水平爆撃によって米艦隊の隊列を乱し、戦闘機が米艦載機を叩き落してしまう。
上空の警戒が居なくなった米艦隊は航空攻撃を警戒して転針に次ぐ転針を行い進路が定まらない状態であった。確かにそれならば戦艦の砲撃も命中しにくい。そして、自らの砲撃も難しい。
不利な中でまず接触してきたのは水雷部隊だった。艦隊の駆逐艦や巡洋艦がその撃退へと向かう。
戦艦の守りが薄くなったところにまたもや艦爆が飛来して爆弾を落としていく。ほとんど命中しないが命中すれば無視できない被害が出る。米側は高速航行する艦隊への航空雷撃などおとぎ話という、この当時の言説に確信を深めていくのだが、それは単に俺が雷撃を禁止したから実施されなかったに過ぎない。 実施していれば少なからず被害を与えたことは確かだが、この時点で他国に航空攻撃の威力を教える義理を感じなかった。
米艦隊は着弾観測機を飛ばす事さえできない。日本側の艦隊がどこに居るかも正確に把握できていなかった。
戦艦部隊が水平線に現れたのは夕暮れ時だった。ユトランド沖海戦の先例に倣えば、米艦隊の方が射撃位置としては有利に見えた。
なにせ、米艦隊が日が暮れた暗い空を背にし、日本艦隊は夕日にそのシルエットが照らし出されていたのだから。
しかし、米艦隊には着弾観測機が居ない。方や日本側は制空権を握り艦載機が飛び回っていた。
そうした中で始まった砲戦は日本側有利に推移した。
米側は射撃修正が思うに任せない。事あるごとに日本側戦闘機や艦爆が測的の邪魔をする。日本側は十分すぎる着弾観測を基に修正射撃が行えた。
13.5吋と14吋による砲撃で米艦隊は徐々に破壊されていく、たいして日本側も無傷ではなかった。運悪く15吋砲弾を受けた出雲の三番砲塔が大破してしまう。河内の二番砲塔は駐退器の故障で二門が一時使用不能に陥った。播磨は煙突が破損して測的に支障が出ていた。
夜になると日本側は米艦隊上空に照明弾を落としてさらに有利な砲戦を展開することになる。水雷戦隊と米駆逐艦、巡洋艦との戦いも数と航空機で圧倒して有利に戦闘を進めていた。夜になると日本側の優秀なレーダによって一方的な攻撃が行われ、米駆逐艦、巡洋艦の多くが損傷していった。
戦闘は断続的に続いたが夜明け直前には実質的に戦闘は終了し、米艦隊は日本に降伏することになった。
さすがにここからハワイまで撤退するには遠すぎた。
たった一日で米側は有効な攻撃手段を喪失し、戦争継続の意味を失うことになるがルーズベルトは頑なだった。




