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第五十三話  電波哨戒機

大フライングですが、この話は架空戦記創作大会秋、参加作品です。

 昭和十八(1939)年、千島列島のとある湾から一機の飛行艇が飛び立っていった。


「高度三千、電探電源入れ」


 暫くしてその号令とともに二人の操作員が目の前の機器の電源を入れる。目の前にあるのはブラウン管、手元にはレバーやスイッチが並ぶ。


「右電探、起動、正常に作動中」


「左電探、起動、正常に作動中」


 操作員は起動を確認し、一通りの点検を行いそう返答を返す。


 千島を飛び立ち、北太平洋航路に沿って飛ぶこの機体は昨年制式化された最新の飛行艇、38式である。機体規模は前世の九七式飛行艇に近い。主翼もパラソル型で見るからに九七式を彷彿とさせるのだが、エンジン音の違いに気が付くものが居れば、首を傾げたかもしれない。


 この機体は戦闘機や中型機用に開発されていたターボプロップとは別に、双発以上の大型機を対象に開発されたエンジンを搭載している。

 最大の違いは双発以上を前提としたため、許容重量やサイズの制限が緩和され、タービン軸を駆動した後の排気ガスを推進力として利用しているのが特徴である。


 戦闘機用エンジンが1000馬力程度なのに対して、38式のエンジンは1500馬力の出力を持ち、さらに排ガスによる推進力まで得ることが出来る。そのため、前世の九七式が時速400㎞に届かなかったのに対し、38式は時速450㎞を可能としている。エンジン自体はまだまだ発展途上であり、数年内に2000馬力を超える型が生産されると言われている。


 そのようなエンジンを四発搭載するため、機体には余裕があった。そこで、折から開発が行われていた機上レーダーの搭載機として白羽の矢が立ったのは自然な成り行きだった。

 既に地上用や艦載型は一定の成果を出しているが、飛行機に載せるための小型化に酷く苦労していた。


 ごく短距離の索敵で良ければ軽量なものが作れるのだが、必要なものは地上や艦隊からさらに前進して監視に当たる機体であって、当然ながら探知距離も地上や艦載型と変わらない性能が要求されていた。

 様々な試行錯誤の末、機材一式で100㎏までに収めることに成功したものの、この装置で監視可能なのは一方向、せいぜい前方90度程度の範囲でしかなかった。しかし、求められたのは全周囲の索敵能力。

 そうすると4セット積むのかという話になるが、アンテナさえ増設すれば一基の装置で探知は可能という事で、アンテナを四方に増設することとなった。確かに探知可能なのだが、それは各々アンテナへの発信を切り替えながらの成果であり、一度の操作で索敵できるのはやはり一方向のみでしかなかった。こんな装置で全周索敵となるとさすがに難しいことに気づくまで時間はかからなかった。

 この時期、すでに英国も加わった研究でその解決方法も編み出されてはいたのだが、機上装置とするにはまだ超えるべき壁が存在していた。ならば、今できる方法は?


 そこで考えられたのが、四基ではなく、二基の装置で各々二方向を交互に索敵することだった。四基積めば確かに効率も良いのだろうが、そこには供給可能な電力という問題が立ちはだかる。

 後の時代ほど電力供給に重点を置いた機体は存在せず、38式飛行艇が唯一、二基搭載できるだけの余剰電力設備が備わっていたことが、決定打となった。


 そうと決まれば試作は迅速に行われ、昭和十八(1939)年一月には試験機が完成して試験が開始されていた。

 試験は順調に進み、六月には粗方の不具合も解決することが出来たことから、九月からさらに機数を増やして実証試験を行うことが決定された。


「まさか、実戦で試験することになるなんてな」


 機銃手兼見張りを行う搭乗員がブラウン管前の操作員に声をかけた。


「仕方ないさ、始まっちまった以上、俺たちも役に立たなきゃ、せっかくの苦労が水の泡だ」


 操作員はブラウン管の波形を手元のレバーやスイッチで調整しながら返事をする。


 この時機体に積まれていたレーダーの表示方式はいわゆるAスコープ式、21世紀のレーダーみたいに360度、一目でどこに船があるいは飛行機が居るかわかるようなシロモノではない。実験機械のようにブラウン管に映る波形からそれがどのくらいの距離に居る何なのかを読み取る必要がある。当然、方位も操作員が自ら確認して、波形と機体の方位から、相手の位置を割り出すという、一種の職人芸を要求された。


 二時間は飛んだだろうか


「右電探に感アリ・・・、距離60マイル、速度速い、航空機の模様」


 波形からわかるのはこの程度の情報でしかない。機数だとか高度なんかがわかる訳ではない。


 その後、機体の向きを調整しながらさらに詳細に計測して情報を確定させる。


「方位96度、距離は57マイルに航空機」


 波形と方位からようやく確定情報が伝達される。


 更にしばらく飛ぶと新たな反応が出た。


「先ほどの航空機の反応消失、かわって艦船群らしき反応アリ」


 機長はすぐさま基地への打電を号令した。


「電信員は基地へ打電、『ワレ、敵ヲ発見セリ』だ」


 グアムに現れると思われていた米艦隊を北方で捕捉した瞬間だった。




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