第五十話 戦車の開発
しまった。完全に74式戦車H型を引きずっている・・・
戦車。
戦車といえばだれもが思い浮かべるのは、いわゆる主力戦車だろう。じゃあ、T34とかⅥ号戦車とかはなんだって?
まあ、そこに至る話は長くなる。
まず、戦車というものの歴史は第一次世界大戦で塹壕を超えて敵を蹂躙するために作られたマーク1と、騎兵の代わりに戦線の後方まで進出して荒らしまわるホイペットまでさかのぼる。
戦車の元祖といえば何と言っても菱型戦車なわけだが、実際にはすぐ後にホイペットが作られている。
これはそれぞれの役割があっての事。菱型戦車は歩兵の突撃路を作る歩兵直協戦車であり、ホイペットは速度を生かして貫突する騎兵の役割を担う騎兵戦車だった。
第一次大戦後、戦車とはこの二つのルートで作られることになる。片方は重装甲で低速、もう片方は軽快な高速を重視して軽装甲。そのうちさらに細分化して偵察や騎兵用の軽戦車、軽戦車より装甲のある中戦車、装甲と火力を重視した重戦車と分岐していく。
後の主力戦車を知る目から見ると、正直、「どうせ、第二次大戦で一番活躍していた『主力』である中戦車だけでも良いんじゃね?」という意見も出るかもしれない。
ただ、そうはいかなかった理由がある。何と言っても火砲、防御力、走行性能をいかにバランスさせるか、あるいは何を妥協するかが問題となった。
戦後、主力戦車というカテゴリーが出来上がったのは、強力な火砲の反動を十分に制御可能な駐退機の発達や、砲弾の開発によるところが大きい。そして、避弾経始の発展による防御力、そして、エンジンの出力強化や変速機の高性能化、足回り機構の発達といった要素が一定の水準でバランス出来たことが大きい。
それまでは、火砲の威力のためにはとにかく大口径火砲を必要としたためどうしても車格が大型化してしまう。それを避けるには一定程度の威力で我慢するしかない。防御力を上げるには装甲を厚くする必要があるが、そうなると重量が増す。それを避けるためにどこかで我慢するしかない。エンジン出力は排気量に依存しているので、車格に対して出力も決まってしまう。そのため、防御力や火力を取れば速度を犠牲にするしかない。速度を求めれば、火力や防御力を犠牲にするしかない。
例えば、30tのT34と15tのBT7が同じエンジンだった。それは何故だろうか?T34は55㎞、BT7は80㎞の速度というデータがある。同じ系統のエンジンを改良して出力を上げた重戦車IS2は45㎞だった。
第二次大戦においては技術の限界から、この辺りが頭打ちだった。
そこから抜け出すには何をするか?確かにエンジン出力を上げるのも良い、だが、車体を軽くすればもっと良くなる。
そして、大戦終盤にソ連が作り上げたのが戦後戦車のベースとなったT44だった。
エンジンや火砲はT34と変わらないが、防御力を飛躍的に向上させていた。しかし、重量はほぼ同じ。避弾経始を取り入れた傾斜装甲を徹底し、変速機やエンジン配置を改良、工夫して車体を小型化した事でそれが実現している。
さて、つらつらと前世の話を述べてきたが、何が言いたいかって?こっちじゃどうも前世と戦車の発展が異なってるってことだ。
履帯式装甲車両が出来るより早く装輪式装甲車が発達した。そして、その運用を履帯式にも求めた結果、歩兵戦車に当たる車種が装輪車ないしは、分類なしに履帯式が担っている。第二次大戦後の運用形態に近いものが早々に出来上がってしまっている。
どうしてそうなった?
いや、分かってる。原因は俺だよ。装輪式に重機関銃積んで歩兵も乗せる。最初っから戦後の装甲車のソレを作ってしまった。そうすると以後の発展は前世の装甲車、歩兵戦闘車の方向へと流れるわな。
そう、まず、歩兵と火力支援車が相乗りするという、前世では60年代にソ連が生み出した発想を初っ端からやってしまった。
その結果、歩兵支援には歩兵が随伴した装甲車が担うという戦術ができ、装甲車を駆逐する車両の登場という流れになってしまった。
つまり、戦車の役割は敵戦車や装甲車の駆逐が第一とされ、前世でいう騎兵戦車しか存在しねぇ。
やってしまった。ガスタービンに次ぐ大失態だよ。未来技術を知っているから自分が、自国が何でもかんでも一番になれるとか思っていたけど、さすがにそこまで甘くはなかった。
違うな。明らかに不注意だ。常識や定説が俺の中には前世知識として出来てしまっているので、戦車誕生の経緯や発展ツリーを無視してしまっていた。21世紀の装甲車両の形態が昔からあったという固定観念があった。
昭和十五(1936)年、装甲車には装輪式は12.7ミリ、履帯式には14.5ミリ機銃が装備され、戦車は2斤砲が装備されている。あ、口径が少々おかしいのは、ロシアと機銃を共通化したためだ。次世代装甲車には2斤クラスの榴弾砲を、戦車には6斤あるいは75ミリという話をしていた。
戦車についてはロシアに優秀な技師が居るとかで、現用の36式戦車も彼の設計だが、どう見てもBTなんだよな。いや、正面装甲がまっとうに厚いからT32か?
そして、次世代戦車の要求書に対して出された仕様書には、どエライ事が書かれていた。
「これ、ロシアから送られてきたの?」
「そうですが」
それはどう見ても前世から来たとしか思えなかった。だって、そこにあったのはT34を飛び越えて、T44のソレと思うようなお話やイラストがたくさんあった。ただ、あまりに目標が高いので使えるエンジンが存在しない。
たしかに、要求書に満足な仕様で応えようと思えば30tになりますが、戦車用ヤンマーの最高出力は300馬力程度、確かにガソリンエンジンならば要求を満たせるだろうが・・・
「ガソリンで大丈夫?ここだけはどうしても採用したくないなぁ」
「しかし、500馬力などというエンジンとなると、日本にはありません。ヤンマーが作れない以上、どこにもないと思ってください」
う~ん・・・、困った。そういえば、自衛隊の74式って2ストだったよね?あれって魚雷艇のエンジンが起源じゃなかったろうか?
「それ、もし舶用エンジンを小型化したりしたら達成できたりしない?」
「しかし、舶用エンジンは2ストです。単位当たり出力は出せるでしょうが、いかんせん燃費の面では陸用エンジンに劣ってしまうかと」
「だったら、車体の後ろにドラム缶を取り付ければいいじゃないか」
ソ連戦車=ドラム缶でFA。
そう、副官や日本側技術者たちからも「あのど素人、とうとうイカレた?」とか陰口叩かれたが、ロシアの技師さんは狂喜乱舞して早速、新潟の舶用エンジンメーカーにコンタクトしてきた。
こいつ、やっぱりあれじゃね?前世で転生者のうわさがあった彼なんじゃね?なんか名前が違うんだけどね。カルツェフって誰?




