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第四十五話  航洋型潜水艦

 潜水艦。

 前世において潜水艦といえば第一次世界大戦において通商破壊を行い猛威を振るったことがよく知られている。


 しかし、この世界の潜水艦は内燃機関が存在しなかったため沿岸型潜水艦しか発達していなかった。


 そのため、前世とは違う方面に進化している。前世においてはディーゼル機関の搭載による航続力を生かして主に水上航行を主としていた。それが水中航行を主とするようになるのは第二次世界大戦以後の事である。そのきっかけとなったのもまたもやドイツの潜水艦であった。


 そもそも水上航行を行う潜水艦は一般の水上艦同様にレーダーや航空機に容易に発見されていた。水上艦と違い対艦、対空装備は貧弱で潜水して逃げる以外の回避手段がなかった。かといって潜水する関係上、軽微な損傷ですら潜水に支障をきたすことがあり、潜水艦狩りを行う空母部隊であるハンターキラーグループから如何に逃れるかが課題であった。


 その解決策が潜水をメインとすること、そして、それまで申し訳程度であった潜水時の速度を向上させて、回避行動をとりやすくする試みだった。


 そして、さらに進んだアプローチとして、水中での運動性の向上というのがある。素早く潜る、回頭を迅速に行う。そうした事を考え、実行したのは日本だった。航空機の操縦機構を搭載した鮫龍という潜水艇がある。この艇は三次元機動が可能といわれ、胴体中央に水平翼が取り付けられていた。残念なことに戦況のひっ迫から当初構想されていた数百トン級の潜水艦には発展せず、特攻艇に成り下がってしまったが、同じ操縦機構を備えた300トン級の波二〇一型の存在が唯一の救いだろうか。


 こうして日独が考え出した対潜キラー対策は当然ながら連合国側も戦後に採用していくことになる。そうして発展したのが、21世紀の潜水艦だった。


 が、内燃機関のないこちらにおける潜水艦は早々に水中活動に特化した発展を遂げ、昭和十(1931)年にロシアにおいてヤンマーエンジンのテストが行われた潜水艦は前世で見慣れた形に近いものだった。

 水中性能に特化しているのだから形は流線型になる。船の形をした伊号やUボートのような潜水艦ではない。そんな船に内燃機関が載る。それがどういうことかわかるだろうか?

元々が電動のみのため、大きさは波二〇一程度の三百トン規模でしかないが、水中速力は一五ノットにもなる。


 この試験が成功に終わると各国が競うように潜水艦への内燃機関の搭載に乗り出すことになったのは偶然ではない。


 さて、潜水艦というのはどうやって動いているか。知らない人はいないと思う。エンジンで発電し、その電気をバッテリーに蓄めて、モーターを回す。

 これをディーゼル・エレクトリック。こちらでいえばヤンマー・エレクトリックか。と呼ばれ、前世、戦後の主流である。それ以前はエンジンをクラッチでスクリュー軸につないで、水上をエンジン、水中はモーターという形態が普通だった。


 が、こちらの世界でこの方法を採ろうという国が現れることはなかった。これまで水中行動を当然としてきた潜水艦には大砲や機銃の装備はない。もちろん、水中抵抗になるから装備しようなんて国もない。


 結果、いきなり前世の戦後型潜水艦が各国で誕生していくことになる。非常に厄介この上ない。


 日本でも昭和十二(1933)年には試験艦が完成した。


 試験結果は良好だったが、俺はさらなる水中速度の向上と対潜水艦能力の付与という現場から見たら無理難題を吹っ掛けた。

 大型モータの搭載、その出力に合わせた発電量を持つエンジンの搭載、潜水艦を探す聴音器の搭載、それらを実現するには現在の三百トンでは到底不可能で一気に千トン規模にまで大型化することになった。


 試験艦の完成は昭和十四(1935)年になり、実用的な艦の完成は昭和十七(1938)年の事だった。

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