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第四十三話  たーびにあ

 昭和五(1926)年にガスタービンは完成した。

 そう、完成した。しかし、ものが完成してそれでめでたしめでたしとはいかないのが現実世界である。


 ガスタービンは艦船用動力として開発されており、当然ながら、船に搭載することが目的である。が、タービン機関というのはレシプロ機関に比べてはるかに高速で回転している。そのままスクリューを回しても泡を作るばかりで推進力へ変換される力は大きく損なわれてしまう。そのため、タービン機関には減速装置が必須となる。


「機関の連続運転には成功しています。ただ、従来の減速機では回転が落としきれませんので、新たに作り直す必要があります」


 その時点ではそのように報告を受けていた。この調子なら二、三年で実物が出来上がるだろうと。


「出力からすると、巡洋艦を一隻、実験艦として造る必要がありそうですね」


 この時代、6万馬力ともなると巡洋艦の出力だ。もう少しすれば駆逐艦もアリなのだが。俺は意気揚々と実験艦の設計も依頼した。

 しかし、事はうまく運ばなかった。

 昭和七(1928)年になってもガスタービンは単体としての信頼性向上ばかりが達成されていた。減速機が壊れるばかりで実用域に達しない。


「ガスタービンの回転数が従来の蒸気タービンに対して高すぎます。単に出力に対してだけならともかく、回転数への耐久度がどうしても達成できません。せっかく缶室を省くことが出来ても、二段、三段と減速機を噛ましていたのでは効率も悪く、当然ながら缶室を省いた利点が失われます」


 そうは言われても俺には解決策など思い浮かばなかった。技術者ではなくただ単に前世知識を披露しているだけなのである。これが小説に出てくるチートであったならば、頭の中に何らかの知識が沸いて出てくるのだろうが・・・

 俺も皆と頭を抱える事しかできない。


「ガスタービン自体はそろそろ船に載せても何の問題もないところまで出来上がってるんだがなぁ~、ギヤの耐久性?軸の耐久性?う~ん・・・」


 その時、一人の技術者が手を挙げた。


「私に一つ試してみたいことがあるんですがよろしいでしょうか」


 アイデアがあるならぜひやってほしい。俺はそう言って彼の説明を聞いた。それによると、現在は駆動軸をそのまま延長して減速機に連結しているのだが、タービン軸とは別に、専用の出力軸を設けるというのである。


「あれ?それ、どっかで見たことあるな・・・」


 一人ごちりながら前世の記憶を探る。


「あ!」


 俺が叫ぶと何事かと全員が俺を見た。


「それだ!それだよ。エンジン自体の出力を上げても出力軸が独立していれば回転や取り出す出力をある程度任意に弄れる。それだ!」


 俺は前世の記憶にソレがあるのを思い出した。なんとも恥ずかしい話だ。ヘリコプター用のターボシャフトエンジンやターボプロップの一部に採用されている。ミリヲタにはおなじみの話だ。ガスタービン機関というのはジェットエンジンだけでなく、その排気から動力を取り出す機関が艦船、プロペラ機、ヘリ、戦車に使われている。ターボプロップエンジンには、タービン軸でプロペラを駆動して、排気推力も使うタイプと出力タービンを分離して推力利用をほとんど行わないタイプがある。後者のエンジンからギアボックスを取り除いたものがターボシャフトと、まあ、強引に言えばそういうことになる。

驚く技術者たちに詫びを入れて、先ほどの技術者へと向き直る。


「ぜひその方法を試してみてくれ、それがうまくいけば今までよりもガスタービン機関使用の幅が広がる」


 技術者の説明を半ば遮ってはいたが、喜んでいるので結果オーライ。


 こうして開発はさらに二年を要することになった。だが、無駄ではなかった。出力軸を設けて多少出力は落ちたものの、減速機を壊すことなく連続運転が可能な域に達した。

 そう、もう昭和十(1931)年が来ようとしていた。前世ではロンドン条約で四苦八苦していたが、この世界にはそれもない。

 そもそも、日本は前世のような建艦競争もしていないのだから、誰かが止めに入るという事もない。ただ、その代わりに、重巡という艦種が何の基準もなく巡洋艦には4吋程度の艦から8吋を超える艦まで存在している。

 例えば、ドイツが装甲艦と並んで開発した重巡洋艦はドイツの砲口径である21センチになっている。ロンドン条約があればこの艦は造られていないだろう。

 閑話休題


 さて、日本は夕張型軽巡洋艦を大量配備している関係で巡洋艦には余裕がある。すでに建造から十年を超える艦は改装してもよいくらいだ。現に5.5吋長砲身型、6吋、6.1吋という三種類の砲が次期巡洋艦、戦艦副砲用に試作されている。5.5吋長砲身型ならば、夕張型の改装にも使えるのだが・・・


 そして、昭和十二(1933)年度計画として念願のガスタービン実験艦が作られることになった。選ばれたのは夕張型三番艦仁淀。完成は昭和十五(1936)年の予定である。タイプシップの夕張と二番艦石狩についても改装が行われることになっているが、ガスタービンはあくまで仁淀だけ。ガスタービンは燃費が悪いことがわかっているので、正式採用されれば八千トン程度、前世の改阿賀野型と同規模の軽巡として建造される事になっている。


 そう言えば、航空機用ガスタービンの話を出したときにターボプロップ開発がスタートしたのはどうやらこのガスタービン開発が影響しているらしい。なんせ、同じ手法で作ればよいのだから・・・


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