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第四十二話  新型戦艦の計画

 A140計画艦、前世であれば大和型戦艦の計画名である。

 大和型は46糎三連装だったが、この世界でのA140は13.5吋(34.3糎)ないしは14吋(35.6糎)を予定している、15吋(38.1糎)案もないではなかったが・・・


 この計画案というのは土佐型戦艦四隻のロシアへの売却話が出てきたことで浮上した計画だった。

 売却話がなくともそろそろ後継艦の話は出てきそうなものだが、日本には直接対峙する仮想敵国がなかったことであまり積極的な開発は行われていなかった。

 そもそも、俺自身は飛行機の発展で使えなくなる戦艦には消極的だ。昭和十二(1933)年には早くも陸上機の艦上運用の実験が米英で始まっている。日本では密かに着艦フックやカタパルトの試作を始めてもいる。

 そんな中で新たに戦艦を開発、建造するというのはどうにも無駄に思えてならない。


「殿下の言いたいことは分かりますが、今も海軍の主力艦は戦艦です。ロシアへ売却して戦艦八隻の海軍となれば、諸外国は日本をどう見るでしょうか?」


 海軍側からそう言われてしまえば確かに・・・


「殿下はこれからは飛行機の時代で無線技術は飛行爆弾なるものまで生み出すと仰いますが、未だにそのような事にはなっておりません。十年もすれば形が見えてくることもあるでしょう。しかし・・・」


 言いたいことは分かる、現に大和にしろアイオワにしろ、前世もこの1930年代に計画や設計が始まった戦艦というのはそういう未来を抱えていた。

 それに、ミリヲタとして太平洋戦争中の空母群が21世紀のそれのような索敵能力はなく、サマール沖海戦のような状況がいつ起きるかわからない代物であったことも知っている。

 一般に言われているほど戦艦が無用の長物と言える状況ではない。特に航空機の実用化が遅かったこの世界なら尚更である。


「話は分かりました。確かに私も急ぎすぎた面はあります」


 そうして提示したのが、ようやく形になりだしたレーダーの搭載を前提として開発することだった。レーダー搭載には電力供給が絶対で、大和のように余剰電力が少ないと発展性がない。そして、レーダーマストを考慮せずに艦橋を設計しては後々晩年のアイオワよろしく違法建築状態で不格好になりかねない。

 そうならないために初めからレーダー搭載を前提に作ってしまおうというのである。


 さて、戦艦それ自体の必要性という点では合意した。次の問題は主砲口径・・・


「なぜ、15吋ではだめなのでしょうか?」


 海軍としては世界情勢から、不況を脱した世界は15吋に向かうと見ていた。俺もそれに異論はない。しかしだ。


「15吋として、搭載門数をいかほどと考えているのですか?」


「まずは連装とし、4基8門、ないしは5基10門です」


「三連装4基12門が絶対条件です」


 これだけは譲れない。なぜか?

 この世界でも前世でも、日本海軍の射撃教範というものはどれだけ正確に狙うかという事を追求していた。

 おかげで出雲型は不良品扱いである。三連装は砲の間隔が狭く、発砲時にお互いに影響を受けて砲弾が散らばる傾向にある。それに対して連装ならば間隔に余裕があり、悪影響が緩和され集弾性が高くなる。結果、狭い範囲に砲弾を集めようとすれば連装の方が有利であった。もちろん、すでに解決策として発砲タイミングをずらすことで三連装でも集弾性の向上が図れることは実証されているのだが。


「三連装4基ともなれば五万トンを超える巨艦となります。要求速力である30ノット超は蒸気、ガス、いずれの機関を採用しても達成できません」


 そりゃそうだろ。三連装4基なんて、15吋超の砲で完成させた艦はない。16吋三連装4基で計画されたモンタナ級は六万トンの巨艦だった。


「でしょうね。だから、四万トンに収まって30ノットを出せる艦にしてください」


 新戦艦の建造は東京湾工業地帯での建造が決まっている。長崎や瀬戸内は民間需要が優先していて軍事利用は避けたい。呉に工廠があるが、今や民需支援をやっている始末である。その代わりとして、東京湾には軍事関連の施設を集めて工業化を行っている。

 神奈川や千葉の工業地帯はこの世界ではすべて軍需関連で、関東工廠と総称されている。管理が陸海軍ではなく統合参謀付となっているからなのだが。

 名古屋近辺は穀倉地帯だよ。関東も沿岸部以外はね。


 でだ、俺が12門に拘るのは集弾性を重視する日本型の射撃ではなく、英米型の射撃を前提にしているからでもある。

 出雲型は大戦の教訓から防火対策とともに持続射撃能力もさらに強化されている。前世、日本の戦艦というのは長時間射撃を続けるとどうしても給弾が追い付かず次第に発射速度が低下していった。


 早期に国産化せずに英国に発注した理由の一つがこの持続射撃能力の獲得だった。


 おかげで集弾は悪いが持続射撃では前時代の土佐型や金剛型をはるかに引き離した性能が出雲型には備わっている。

 できればそれをそのまま使いたい。


 という事で、ユトランド海戦における持続射撃の必要性を説いて、とにかく必要なのは数という事を納得してもらった。


「しかし、殿下、14吋では将来の列強戦艦にはるかに劣ってしまうことになりますが?」


「だからこそ、フランスから入手できた最新の冶金技術を使って、高初速重量弾の砲を開発してほしい」


 これ、ダンケルク級やリシュリー級の主砲コンセプト。この世界でもポケット戦艦に対抗してフランスはダンケルク級の建造に着手している。きっとコンセプトは同じだろう。


 昭和九(1930)年の計画開始からわずか三年で計画をまとめ、すでに予算成立待ちである。

 やっぱり名前は大和になるのかな?





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