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第二十九話  内燃機関の発達

 内燃機関が販売されてまだ数年にしかならない大正六(1917)年には既に戦場を行き交う運搬車の姿があった。

 この頃使われていたのは前世の農業用運搬車に毛が生えた程度の代物で、積載量こそ軽トラ以上だが、時速二十キロがやっとだった。


 その動力は横置き単気筒ガソリンエンジンが大半で、翌年にはボンネットトラックが登場している。

 ここまでのガソリンエンジンの発達はかなりのスピードである。たった一、二年で単気筒から縦型四気筒が生まれている。

 戦争の影響もあり、極めて発達が早い。


 そんな中で日本はというと、欧州の開発スピードに圧倒されている状況だった。

 英国では自国で足りない発動機を日本に生産依頼してきているが、それは工作機械の導入とのセットが前提だった。

 そんななかば綱渡りの中で日本で開発されたのが、ヤンマーエンジンだった。


 ドイツの発明家から基礎技術を買い取り開発をはじめて六年にしてようやく完成させることが出来た。


 ヤンマーエンジンには大別して二種類ある。基本的には圧縮された気筒内に軽油を噴射するのだが、圧縮圧が高いこともあり、噴射には強力なポンプを必要とする。しかし、日本には限られた数の拠点でしかその噴射ポンプの製造は難しい。

 その為、多少難易度を下げる予燃焼室式をヤンマーに教えて、その実用化は大正七(1918)年の事だった。

 ヤンマーではまず、運搬車用の石油発動機と同寸のエンジンを作り、そこから数年かけて多気筒型の開発が行われている。

 ヤンマーエンジンのライセンスを得た極東ロシア公国の企業が舶用エンジンの開発に乗り出したのが大正十(1921)年だった。


 前世よりも二十年は遅い内燃機関の発展に対して、当然ながら、歴史も遅れている。

 例えば、ライト兄弟が動力飛行に成功したのは、前世よりも十五年遅い、大正七(1918)年の事だった。ただ、この時は戦争真っ只中であり、飛行機に関心が寄せられるのは戦後の話になる。


 そして、大戦後は厭戦機運も高く、飛行機が発展するには更なる時間が必要となる。


 前世ではわずか十年そこらで戦争に使用するほどの発展を見せたが、軍への採用が見込めず、後には不況も重なるのだから、その影響は大きい。

 例えば、前世では戦間期に大洋横断飛行やレースが盛んに行われたが、この世界ではそこまでたどり着いていない。


 もうひとつは潜水艦だが、こちらも大戦には殆ど寄与していない事から速やかなヤンマーエンジンの搭載には至っていない。

 こちらの世界では、潜水艦と言えば小型で沿岸部を防衛する艦艇とされていたので、基地から100キロも遠出出来れば充分だった。

 航続力が求められないかわりに、活動域内で艦隊捕捉や攻撃を容易にするだけの水中速力が求められていた。前世では、第二次大戦後半からなのだが、こちらでは水中高速化が三十年近く早まっている。

 これがこの世界の潜水艦の特徴ではあったが、その話はまたの機会にしたいと思う。



 さて、レシプロエンジンはその様な状態だが、タービン機関は少し違った。

 なんせ、シリンダーに燃料を吹き込むわけではないから開発に制約はない。


 ただ、その重要性に気付くものは居なかったらしく、ガソリンエンジンやヤンマーエンジンの出現で大多数の関心はそちらに移る。

 そんな中で、まずはレシプロエンジン用の過給器を提案し、耐熱合金開発を促すことにした。その影で、海軍の機関開発部には燃焼タービン、つまりガスタービン開発を指示する事にした。

 大正五(1916)年の話である。早ければ十年、遅くとも二十年あれば完成するだろう機密研究だった。もちろん、出力軸を持つ機関であり、ジェットエンジンではないが、基本は同じだ。


 ガスタービン開発を促すことで、最悪の場合も優位を得る。この保険がどう役に立つかは未だ未知数だった。

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