表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/111

第二十八話  嫁の名は・・・

 大正七(1918)年六月、俺達はイパチェフ館の見える場所まで潜入していた。


「ニンジャに探らせましたところ、夜には隙が出来る模様です」


 ニンジャとは、常々必要性を説いていた特殊潜入部隊の事だ。


 大戦勃発直前にようやく発足した部隊だ。


 元々は旅順港が確認出来なかった教訓として説いていた。

 もっと早く作っていれば、ガリポリ作戦の犠牲も減らせたかもしれんな。


 名前は後々、部隊を公表する際に外国からのウケを狙った。他意はない。


 夜まで待って館へ潜入する。

 作戦に従い館内で騒がれないように慎重に事を運ぶ。

 監視は既にニンジャや陸海からの選りすぐりに「無力化」されている。


「人数が足りなくないですか?」


 予定よりも一人少い。


「あ、アナスタシアとジェミーが・・・」


 三姉妹が口を揃えてそう言うと、明石さんが俺を呼ぶ。

 アナスタシアの捜索隊を任せるそうだ。


 捜索を始めてすぐに探し出すことが出来た。

 犬は起きていたが、アナスタシアと思われる少女は寝ていた。つか、どこで寝てんだよ。


 一人と一匹は閉ざされた扉の前に居た。


「大公女殿下」


 声をかけても、揺すっても起きないので抱っこして連れていく。


 皆の元に戻るが、起きないので俺が連れていく事になった。背中は背嚢あるから抱っこして行くしかない。


 さて、シベリア鉄道に乗って東へ向かっている。


「アメリカもド派手にやったようですよ」


 そう聞かされた。


 アメリカはミハイル大公の保護が任務だった。そして、彼の説得も・・・


 そんな事を話していると視線を感じた。見回しても誰もいない。


 知らない振りをしながら歩き、自然に角を曲がった様に隠れる。


 すると、少し離れてついて来ていた少女が一人。


「どうなさいました、殿下?」


 驚かすように声をかけると、何故か悔しそうな顔をしている。


「デンカこそ、なぜその様な隙間で隠れておいでなのでしょう?おかしな人ですね」


 マジでデース(金髪)がそこに居た。英語ではなく、ロシア語だが。


 救出以後、列車の旅の間じゅうこれである。何をやってるんだろうか・・・


 バイカルから東は日米が確保した安全地帯である。


 アメリカはハルビンを経由してハバロフスクまで進撃し、権益保全を主張した。


 日本はそれに呼応して、日露戦争で、構想された、アムール遡上作戦を実行し、ハバロフスクでアメリカ軍と握手した。

 そこから更にバイカル湖付近まで共同して進軍し、安全地帯を宣言する、


 大正七(1918)年九月に入ってとうとう、ミハイル大公を元首とする極東ロシア公国の建国が宣言される。


 その領土はバイカル湖以東とされ、そこに朝鮮や満州の大半が含まれていた。満州の大半と言うのは、アメリカとの密約により、アメリカが勃海沿岸部を取得するとされていたからである。

 さて、ニコライ二世がゲー、つまりは明石さんに約束した満州と朝鮮だが、俺が断った。全てを。そう。全てをだ。


「デンカ、どうかしましたか?」


 ああ、どうかしたよ。まさかだよ、まさか。


 極東ロシア公国の建国には続きがある。


 建国に際して、前ロシア帝国皇帝であるニコライ二世とその一家はどうなるのかが問題となった。

 問題としたのは、アメリカ政府や日本政府だったが、ニコライ二世は妻と難病の息子と共にアメリカへの亡命を希望した為に事態は簡単に片付いた。

 一家のうち、四姉妹の長女は極東ロシア公国に残ることを選ぶ。


 極東にロシア帝国の後継国家が出来たことで、ある英国貴族が三女の元に駆けつけている。次女も欧州王家に嫁いでいった。

 さて、以上がニコライ二世一家の姉妹の話だ。



 あれはニコライ二世が極東を離れてアメリカへ向かう直前だった。


「まさか、日本の皇族自ら余を助けに来るとはな。それとも、明石との約束が目当てだったか」


 接見した俺にそんな事を言った。


 明石との約束とは、朝鮮や満州だけでなく、成功の暁には日本の皇室に娘を嫁がせるというモノだったが、大正七(1918)年一月には皇太子、後の昭和天皇の妃は内定していた。


 そのまま約束は無かったことでも良かったのだが、俺に白羽の矢が立つ。


 いや、そんな綺麗な話ではない。


 救出以後、俺はデース(金髪)にことある毎につけ回された。

 そして、約定として東京に彼女はやって来た。東京では俺の邸が宛がわれている、何故かは知らん。

周囲の目?何の話ですか?


 そして、今日である。


「単に明石さんに連れていかれただけです」


 素っ気なく答える俺。


「アナスタシアからも聞いているが、不思議な事に、未知の知識に通じているとか」


 目を細めて問うてくる。


「通じてはいませんよ」


「己の死期が見えたりはせんか?」


 その言葉に動揺した。


「やはりか、なるほどな」


 ニコライ二世は一人で納得した。


「もしや・・・」


 確信のような顔を浮かべてニコライ二世が頷いた。


「何故、死期が見えるようになったのですか?」


「日本での事件だよ、そなたはまだ、いや、生まれた年だったか。その後、自らの死を見るようになった。最近は見なくなったがな。どうやら悪夢は回避できたという事だろう」


 こいつは驚きだ。まさか、ロシアの転生者探しをしていたら、自分の死を知る力を皇帝自らが持っていたとは。しかも、自らが日露戦争の改変を行った自覚も持ち合わせていない・・・

 これは考え方を変えた方が良いかもしれないな・・・


「私は、日本がアメリカと戦争し、日本が焼け野原になる未来が見えるのですよ。十歳の頃からです」


 話を合わせておく、その方が混乱しないからな。


「なるほどな、アメリカが日本を攻めるか。余はアメリカに行く、出来ることはやってやろう。その様な戦乱に娘を巻き込むのは避けたいからな」


 多少勘違いしているが、大筋はそれでよい。日本だけでなく、アメリカが中から少しでも変われば更に助かるしな。


「是非、お願いします」


 俺は頭を下げる。ん?まて、なにかすごく重大な話を聞き流して受け入れてしまったような・・・


「そうか、では、アナスタシアを頼むぞ」


 やっぱりか・・・




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ