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第十六話  海賊対処と俺

 明治四十二(1909)年、俺は警備艦隊に配属された。


 本来なら常備艦隊の主力艦辺りが妥当なのだろうが、俺自身、あまりそうした大所帯よりも警備艦の様な小さい所が良かったというのもある。それに、常備艦隊は既に平時の訓練だけだが、警備艦隊は海賊との戦いの最中だ。好奇心も強かった。


 俺が配属されたのは、済州島の第一警備艦隊第十四警備隊。


 今年に入って新編されたばかりの部隊だ。


 俺は兵学校に入るにあたり、宮家を新につくるかたちになった。そして、上総宮亨仁王と名乗るようになっていた。

 配属されたとはいえ、いきなり警備艦に乗り組むわけではない。まず、三ヶ月の教育と訓練があった。


「上総宮さま、なぜこの様な場末に来られたので?」


 警備隊学校でまず言われたのがそれだった。

 確かに、警備艦隊に廻されるなんてのは成績下位なのだ、俺は前世の記憶や知識も使えたので下位ではなかった。ではなぜか?


「地位向上です。警備艦隊は単に朝鮮海賊とやりあっていれば良い存在ではなく、漁業保護や海難救助などを担う組織として常備艦隊と並び立つ存在になってもらいたいのです」


 相手は俺の発言が理解できていなさそうだったが仕方がない。警備艦隊に放り込まれたことを左遷とする風潮があるし、兵員に至っては陸軍の縮小で余った人材が送り込まれているのだから、海軍として見たら落ちこぼれや半端者と言われても仕方ない。


 だが、俺は警備艦隊創設にあたって前世の海上保安庁を参考に海の警察とするよう提言している。

その為、警備隊学校では士官だけでなく、兵員にも司法教育が行われている。

 ここでの教育を終えて晴れて艦に乗り込む頃には夏が来ていた。


 俺は自ら志願して乗り込み隊、いわゆる臨検隊に入っている。その為司法学課と共に厳しい戦闘訓練も課せられた。


「何も宮さまがこんな危険な事をしなくても・・・」


 教官にもそう言われたが、自分で志願したんだから引き下がれない。しかも、この体はけっこうそういう事に向いている、前世は運動音痴だったが。


「突入!」


 号令と共に狭い船内へ踏み込む。


「右船倉よし!」


 俺はそう叫ぶ。

 元老や父の側近、他の皇族からは半ばを呆れられながら、訓練に励み、とうとう警備航海に出るのだった。


 この時代にレーダーなどあるわけもない。乗り込み隊の通常任務は見張り。出航したらずっと肉眼と双眼鏡で水平線まで目を皿にして不審船が居ないか探す。かなり大変な任務だ。


 乗り込みについては隊長が少尉の俺だが、実質仕切るのは陸軍からやって来た兵曹長だ。


「左舷に不審船!」


 見張りの一人が叫ぶ。

 俺も双眼鏡でそれらしき船を探すが漁船しか見えない。それとも、あの漁船団がそうなのだろうか?


 不審船の段階では接近してただの漁船か海賊かを確かめる必要があるため艦は徐々に漁船団に接近していく。

 警備航海は二隻一組で行われているので僚艦は砲の射程を保ちながら少し離れた位置から援護体制を整えている。


 どうも船団が賑やかになってきた。


「乗り込み隊準備」


 艦橋から準備の指令が飛ぶ。


「乗り込み隊、銃、槍準備、左舷待機」


 俺がすかさず命令を出す。


 乗り込み隊員が槍を取りに走る。銃班は見張りの間も担いでいるので弾の確認だけですむ。俺も銃を確認する。


 この銃、あれば便利と南部さんにスケッチを渡し簡単な説明をしていた短機関銃である。ただし、現状では機構と耐久性の問題から連射は出来ない。


 外観はドイツの有名な短機関銃をスケッチにしたが、今手にしているのはアメリカのギャングがよく使っていた方に近い。型はギャングのマシンガンだが、銃床は鉄パイプ製の折り畳み式なので印象が違う。

 南部さんは自動小銃も試作して後の近接戦モデルみたいなモノまで造っているそうだが、小型の木造船の中で使うのは拳銃弾で十分だ。威力が強すぎて船倉貫通して味方に命中したんではシャレにならんからな。


 準備をして警戒に就いたが、程なくしてただの漁船団だと判明して離れる事になった。


 どうも石や芋を投げつけてきているらしいが届いていない。


 艦首の一番6斤砲が空砲を撃つと騒ぎは治まったようだ。


「連中、自分からロシアに宣戦布告して攻め込まれた事を日本のせいにしてやがるんですよ」


 唖然とその様を見ていた俺に兵曹長が解説してくれる。


 なるほど、それで海賊に限らず日本に対してあんな態度なのか・・・






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