外伝3 二度目の転生、俺の生い立ち
こちらで記憶を取り戻したのは10歳の時だった。それから今の学校に入るまで、前世持ちだと誰にも話したことは無い。
梓はどうだったか?
どうやら梓も周りに前世について話していないらしい。梓の場合、俺ほどの混乱はないとは思うのだが、やはり、そう簡単ではないのだろう。
ちなみに、俺はどこで生まれたかというと、皇室農園のすぐ近くだ。目と鼻の先にある岩崎農機という会社の社長が親だ。
岩崎と聞いてもよく分からなかったが、会社の歴史を聞いて判明した。
昭和天皇が農場に来た時、そう、あの時に陛下に機械の説明をした兵だった。あれ以来、陛下が農場に来れば彼が担当だったらしい。そういう関係が10年くらい続いた様で、兵役を終えた後も農場に残り機械管理部でそれなりの地位を得たらしい。
そして、農場の周りの区画整理に伴って、農場を退職し、農場周辺で農機の販売と機体作業を行う会社を立ち上げたらしい。もちろん、そこには陛下からの依頼でもあったという。
「農場の周りは未だ機械を持つ農家も少ない、区画整理で農地が集約化し、小作の離農も多く出ているだろう。岩崎、君の知識と手腕でこの辺りの田畑をこれからもきれいに維持する手助けをして見てはどうか?」
通うたびに見る周辺の状況をつぶさに観察していた陛下の後押しもあって、周辺地域でも顔の広かった彼は起業し、見事に成功した。
皇室農場には常に最新の機械、農業技術が導入され、農業試験場としての役割も担っているが、岩崎農機は農園の機械や施設の整備を請け負う事で、その技術や情報をいち早く仕入れることが出来る。そして、元の世界では農協が中心的にやっていた農産物の集荷をこの世界では個々の企業がやっている。機械の販売や運用を岩崎農機がやり、収穫した農産物は近隣の農産会社が加工、販売を行っている。
農業機械も農地が大規模化すれば大型化するのだが、その様な機械の採算性は非常に悪い。そのため、大規模に展開する必要があるのだが、そのためには土地と人が必要になる。
そういうものを同じ家族や企業で全て担うのはかなりの負担になるが、分業すればそうでもない。
そこで、大規模な機械作業と作物の管理や加工、販売の分業が行われ、岩崎農機ではほぼ一つの町の耕地の耕起から収穫までの機械作業の多くを請け負っている。果樹や一部機械化の難しい野菜は例外だが。
そうしたところには、機械のリースや販売が行われる。
そんなわけで、トラクターやコンバインなどの機械が会社にはたくさん並び、それなりの従業員も居る。作業や整備が主な仕事で、少数の営業マンも居る。
俺が記憶を取り戻したときにはそこは本当に天国だと思ったね。それ以前から祖父に付いて回って機械に触れていたから、乗りたいと言い出しても違和感を持たれなかったし、小型エンジンのキャブをバラシても誰も驚いてすらいなかった。
「とうとう御曹司も興味もったらしい」
くらいに思われていた。昭和二十年代には実現できなかった機械だって目の前にあるし、農産会社への野菜工場設備の納品なんかにも付いて行った。
そんなだから当然のように家の近所の農業専門学校を受験した。それがいま通ってる学校だが、ここは皇室農園が隣接しているだけでなく、研究施設とも関連している。各担当は農園研究室の研究員だったりする。しかも、この学校、大学へはエスカレーターだ。科によっては飛び級もある。
そうは言っても、一年、二年は全ての学科が共通で一般教養を履修するから、その時は大学施設をそのまま利用してものすごく広い教室での授業となる。
ちなみに俺は機械科、梓は経営科だ。
「再会した以上は、私が岩崎農機の経営を見るので、デンカは思う存分トラクターを乗り回してください」
ニッコリそう言われている。何を言ってるかは分かるな?完全にアーシャに捕まったのさ。尻に敷かれる未来しか見えていない。
それでも俺は良いと思う。それがアーシャの望みというのなら、喜んで。