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外伝2  氷海の艦隊

山口多聞さん主催の架空繊維創作大会参加作品です。


ロシア帝国の末裔、ロシア公国海軍艦艇のお話

 21世紀にはいると北極海の氷が解け始めた。ソ連は改革開放の名のもとにその体制を一新していまだ健在である。

 そして、北極海の氷が解け始めたのを良いことに、ベーリング海峡までうろつく様になっていた。


 当然だが、東シベリアはロシア公国の領土であり、そこの資源もロシアのモノであることは間違いない。しかし、目の前をソ連の赤い旗をなびかせた砕氷艦がうろつくのでは具合が悪い。


 もちろん、ロシアも手をこまねいていた訳ではない。北太平洋航路の重要拠点としてペトロパブロフスク・カムチャツを整備して、沿岸警備隊の大型巡視船や砕氷船と共に、太平洋艦隊も配備していた。


 ロシア公国海軍の艦隊は、ナホトカに中央艦隊、ターリエンスキー(大連)に渤海艦隊、マガダンにオホーツク艦隊、そして、ペトロパブロフスク・カムチャツに太平洋艦隊を置く。


 そう聞くと大艦隊のように思われるが、渤海、オホーツク海の両艦隊は小艦艇しか配備されていない。太平洋艦隊も、本来は日本海軍を補完する程度の艦隊でしかなく、港の機能はともかく、重要性としてはお世辞にも大洋艦隊とは言えなかったのだが、21世紀に入り、俄然、注目されることとなった。


 日本や上海からベーリング海峡周りで北欧へ向かうことが出来れば、それは最短ルートだと言って良い。しかも、ソ連とロシアの関係性も昔とは違い安定していた。というより、ソ連という国が共産国でありながら、世襲しない帝政国家という状況になっているので、昔のように打倒ロマノフを掲げていない。彼らにとってもロシア公国は既に一隣国だった。


 現に、今やバイカル湖を挟んでチタとイルクーツクの貿易は盛んだ。北方はタイムィール半島東方を流れるヘタ川支流コトゥイ川を国境にしており、かなりロシア公国有利な状況にある。


 露ソ攻防戦となった第二次世界大戦のシベリア戦線の攻防の結果、スターリンの権勢が弱体化し、軍事力も大幅に低下していた1950年代に優勢な状態で獲得した結果だった。以後、ロシア公国は日本との関係の中で、優秀な兵器群を保有し、常に質的優位のうちに東シベリアを維持していた。


 が、氷に閉ざされた北極海に水上艦を展開させるようなことはこれまでなかった。いや、そもそも出来なかった。


 常からセヴェロモルスクに砕氷艦を置くソ連の方が動きが早かった。


 しかし、ロシアも数年の遅れをもって、ペトロパブロフスク・カムチャツへ砕氷艦を配備し、夏季の北極海へと乗り出していくこととなった。


 通常、砕氷艦は非武装なのだが、ロシア海軍は砕氷艦に武装している。


 ただ、戦闘を主目的にしたというよりも、砕氷目的と言った方が適切かもしれない。


 砕氷艦でありながら、その艦容は古き良き時代の巡洋艦を思わせる。


 主砲として採用されたのは、1940年代に日本から供与された巡洋艦の主砲だった。


 夕張型巡洋艦の後継として開発されたもののうち、8インチ単装砲を備えた青葉型巡洋艦のモノを転用している。


 今では当然ながら巡洋艦は現役に無いが、砲は保管されており、遼東半島が米国より返還されたときには要塞砲として設置されていたものである。

 それでもさすがに1980年代になると、北中華と言えどもソ連の衛星国であり、ミサイル戦力が充実し、旧来の大口径砲など役に立たなくなっていた。


 そのため、撤去されたのだが、何かあればと保管されていた。


 今更そんなものを引っ張り出したのは、ソ連の砕氷艦と戦うためではない。流氷と戦うためだった。


 非常にロシアらしく、「氷がそこにあるなら、大砲でぶち割ればいい」という大胆な発想から、オリガ級砕氷艦には8インチ砲が装備されることとなった。


 オリガ級はその名の通り、ニコライ一家の4姉妹の名が付けられている。オリガ、タチアナ、マリア、アナスタシア。


 アナスタシアは北極海航路の啓開において、日本の砕氷艦と行動を共にする機会が多い。ただ、よく些細な事故や故障が起きることで、乗組員からはお転婆のあだ名で呼ばれ親しまれている。

特に多いのは、航路啓開に際して8インチ砲で流氷破砕を行おうとした時だ。初弾は正常に装填できるのだが、2発目の揚弾が途中で停止してしまう事が頻発している。ただ、調べてみてもどこも悪くなく、点検後には常に正常に動き出すという。船員の間では「アーシャのいたずら」としてほとんど常識となっている。



「わたし、そんないたずらしないから」


 雑誌を読んでいた俺に梓がそう言ってくる。


「いや、イパチェフ館でベットの隙間で寝てた奴が言っても説得力がない」


 全くどこの伝記や資料、物語にも書かれていない救出劇の真相を問い詰めても、彼女は平然としていた。


「それとこれとは違うでしょ?仕事中にそんなサボりはしない」


 たしかに、サボってはいないが、同じようないたずらをやって喜んでる姿を見かける気がするのは気のせいだろうか?


 

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