エピローグ
長い坂を登るなんて言う過酷な通学ではない。そういえば、そんな高校があったな、などと思いながら今日もいつもの通い慣れた道を通学する。
小説では転生した人物はチートがもらえて大活躍する。そんな話がたくさんある。
異世界へ行って魔法チートで無双するのは当たり前、過去へ行って知識チートで大活躍する話もたくさん存在している。
でも、過去へ行った転生者が何をやったかは、歴史から判断するのは難しい。だってそうだろう?
大発明家や革新的な政治指導者なんてのが実は転生者だった何て話をして誰がまともに信じるだろうか。
普通はそこに至る流れがあって、そこからヒントを得た人が、あるいは理論を完成させた人が偉人と呼ばれている。
ホントかどうかは知らないが、その様に説明されているんだよな。
そんなことを思いながら、席についていつものようにスマホで小説を読む。
戦国時代や江戸時代に転生した話、明治時代に転生した話をいくつかブクマして、それらを読んでいる。明治時代かぁ~
明治時代の小説で多いのは、やはり日露戦争に関するものだろう。
転生者が陸軍を強化してロシア帝国を打ち負かす話が非常に多い。
だが、ロシアを打ち負かしてどうするのかと思ったら、なぜかその後は海洋立国として史実のような発展をするのだからちょっと首を傾げてしまうんだよな。
折角得た満州とか朝鮮に固執せずになぜ、海洋立国になってしまえるのだろうか?
何度かそのような感想を書いてみたこともあるけれど、史実の流れから大きく変わらないのは、転生者の考えらしい。
では、転生者が居なかったら?
しかし、そんな小説の多くも、日本が奈落へと落ちる話はあまり見かけない。やはり、史実という常識が大きく影響しているんだろう。
ただ、どこかで見てきたように、日本が満州に固執して米国と対立する話も海外では見かけることがある。
特に、米国でその様なものが多いようで、史実の米国の代わりに日本が中国で泥沼にはまって、米国が中国救援のために日本を懲らしめるみたいな話がされている。
架空の戦記小説として、時折日本でもその様なものを書店で見かけることがある。米国と違うのは、苦境の日本がそこから如何に盛り返すか、そんなストーリーになっているところだろう。
小説サイトを開いてそんなことを考えていると、背中と頭に何か乗ってきた。
そして、視界に金髪が降りてくる。
「まぁ~た学校でエロ小説?」
頭の上でそんな声がした。
「峯山君、おはよう」
頭の上から振り向いた前の席へとあいさつをする金髪。
「おはよう、山岡。お前らホント、仲いいよな」
前の席からは呆れたような声が返ってくる。
「まあね~」
頭上でもそんな返事を返す金髪。
染めている訳でも脱色している訳でもない、地毛の金髪。
今の日本ではロシア系なんて珍しくもない。皇族にだって金髪が居るんだから。
「で、今日の感想は?」
頭上からそう聞かれた。
「お決まりのパターンだ」
山岡。そう、あの山岡だ。山岡梓はヤンマーグループ創始者一族のご令嬢で、皇族の血を引く高貴なお方だ。
それがこの気安さなのだから人気も高い。
本来、俺みたいな一般人が近寄れる存在ではないのだが、何をどう間違ったのか彼女は俺に興味を持ったらしい。
あれは入学してひと月くらい経った頃だったろうか、皇室農場に隣接したこの高校には時折皇族が訪れるのだが、その日も皇族がやってきたのだ。
皇室農場と言えば上総宮家なのだ。
「あれが敬仁の孫か」
皇族の訪問に慣れた上級生はともかく、ある意味、これ目当てで入学したような一年生が騒ぐのをしり目に、少し離れたところでその姿を眺めていた俺。
ふいに隣にやってきたのが、何を隠そう、山岡梓だった。
「随分と懐かしいものを見る目で上総宮様を見ていたけど?」
彼女はそう言った。
「まさか」
俺はそう笑った。
「やっぱり。その笑い方は、亨仁殿下ですよね?」
俺は驚いた。俺が前世の記憶を取り戻したのは十歳だった。それからこの方、そんなことはおくびに出す事も無く過ごしてきたのだ。誰も知るはずがない。
「私、言いましたよね?まだ恩返しが足りないと。マンチュリスクでも、本当は私が貴方を守るはずだったのに」
最期の記憶が甦ってくる。そう、確かにアナスタシアはそんな事を言っていた。
「え?」
「嘘だと思うなら、二人しか知らない話をしましょうか?」
そう言った彼女の微笑みは、上総宮だった頃の俺に向けられていたアナスタシアのもので間違いなかった。
一度目の人生は平凡だった。
二度目の人生は激動だった。
三度目の人生はどうやらラブコメらしい。
アナスタシアの恩返し。それが今世なのだろうとおもう。
これからどうなるかはわからないが、アナスタシアに振り回されるのだけは確定らしい。
「いや、そんないたずらっぽい言い方をするのは間違いなくアーシャだ」
九か月にわたってありがとうございました。
最初はどうなるかと思いましたが、何とか完結です。
暗殺以後の世界がどうなったかを三周目の彼に語ってもらう外伝をいくつか予定しています。
本編終了後の外伝もお付き合いいただければ幸いです。