第二章 8『信頼と真偽』
俺たちの数百倍はある背の高い扉を潜り、俺たちはヒイラギに続き、マゾの中へと足を踏み入れる。
外から見た施設のイメージとは違い、中はいかにも研究施設というような装飾が施されており、自分たちが歩いている通路の表面には、セキサイ国の風車や鉄塔から取り入れられたと思われる電気エネルギーが電子回路の中を定期的に流動していた。
「あ、ヒイラギ……さん?ちょっと聞きたいことがあるんですが」
「……」
「おい、止めとけキサラギ。粉々にされるぞ」
「でもオウセンさん、彼女がさっき言ったXってどういう意味なんでしょうか」
「あれは前話したお前と同色のコアを持った奴の通り名だ。本当の名前も顔も誰も知らないからそう呼ばれてるだけ」
ふと気になったことを質問しようとしただけだったのに、突然質問をした俺とそれに答えてくれたオウセンもその直後にヒイラギから、うるさいぞと喝を食らってしまった。この研究施設の中では相当なまでに、彼女によって自由が制限されているのだなと身を持って知ることになった。
只管にただ長いだけの通路を歩き続け、この施設の端まで到達したのではないかと思うところにきた所でヒイラギが足を止める。
彼女が壁の前に設置された小さなパネルに手にした会員証の様なものを翳すと、突如目の前の壁が一枚のドアとなって右へスライドして消えていく。慣れた様子でその隠し扉の中へ入っていくヒイラギの後に続いて俺たちも秘密の部屋の中に足を踏み入れると、そこには以前テレビで見たことのある宇宙センターのような近未来感溢れる環境が広がっていた。
数百は有りそうなモニターの前に一人ずつ研究員が腰を下ろし、延々とキーボードで文字の羅列を画面に刻む音を奏で続けている。
そしてその両サイドの壁に掛けられた巨大な二つのモニターにはセキサイ国を含む五国の地図の様な物がホログラムで映し出され、その上を横切るようにミサイルの形をしたマークが画面の隅の方へと消えていった。
俺は見てはいけないものを見てしまったと思い、その壁から視線を逸らし前に意識を向けると、自慢げな表情でこちらを振り返ったヒイラギと目が合ってしまった。
「どうだ、如月幹斗。ここがこれからお前が属性検査を受ける事になる属性研究課だ」
「なんと言うか……想像以上です。凄い。夢でも見ているみたいだ」
俺がそう言うとヒイラギはどこか嬉しそうな表情でクスクスと笑いを零していた。
次に彼女は俺たちに、少し待っていて欲しいと告げ俺たちを高そうなテーブルにつかせると、他の研究員たちに何か指示を促すためにどこかへ姿を消した。
止まることなくカルチャーショックな情景が次々に視界に飛び込んでくるこの施設に少し疲れながらも、やっと訪れた休憩時間に心を落ち着かせる。
「よかったなキサラギ。ヒイラギが心開いてくれたみたいだぞ」
「え、それ本当ですか?」
「ああ、あいつは施設について純粋に驚いてくれる奴が大好きなんだよ。アカネはそうでもなかったみたいだが……」
「えーっと……私はちょっと機械についてあまり詳しくなくて……」
アカネはやってしまったという風にがっくりと顔を俯けながら反応した。
しかしオウセンが言ったことが本当なら少しだけ嬉しい。警戒されたままこのような特殊な施設で検査を受けることになっても緊張や不安でそれどころじゃなくなりそうだったから。
俺たちがそのままテーブルで大人しく待機していると、ここの研究員と思える一人の女性が全員分の飲み物と茶菓子を持ってきてくれた。
「もう少しで属性検査の準備が整いますので、それまでゆっくりしていってくださいね」
そう言ってにこやかに挨拶を済ませた彼女は、その後すぐに自分のデスクへと戻って行ってしまった。客人に対して尊敬できるレベルの対応は全研究員が身につけているんだろうなと思うと同時に、これだけの施設だとやはり、個々が与えられる仕事の難易度も相当高いのだろうなと感心していた。
彼女に与えられた茶菓子と飲み物に手を付け、のんびりと与えられた時間を過ごしていると、突如後ろに設置されていた螺旋階段から声を掛けられる。
「キサラギ。属性検査の準備が整った。ここまで上がって来い」
「あ、はい分かりました」
その声に鞭を打たれた様に急いで螺旋階段に向かう俺をオウセンたちは見送るようにして目で追っていた。心を開かれたと告げられても少しでも逆らえば何をされるかわからない状況で焦りながら階段を上った為、多少躓きそうになりながらも何とかヒイラギのもとにたどり着いた。
呼吸を整える暇もなく、息の荒い俺を引っ張りながら僅かに不気味な空気が立ち込める場所へと連れて行かれる。やがて施設の証明が途中から赤色へと変わり、俺の不安を掻き立てるような鈍い機械音が周囲に響く扉の前に来た所でヒイラギが足を止めた。そして彼女はこちらに視線を向けると、いきなり耳元まで顔を近づけ、呼吸が首筋を掠めるような距離になった所で小さく呟いた。
「あんたがXじゃないのは知ってるけど、死なないでね」
「―――え?」
俺は、その言葉と同時に開いたヒイラギの背後の扉の中へ無理矢理投げ込まれると、その一室に幽閉された。突然の事態に動揺していると、その室内の全方向からアルコール臭を含んだ白いモヤが一気に噴出され、やがてそれが部屋の中に隙間を作ることなく蔓延したところで、俺は一度意識を失ってしまった。




