第二章 6『ミサキの苦労』
「消えたって……」
オウセンは手に持った盃を強く握り直しながら俺の言葉に続いて、再び口を開く。
「この街、いやこの世界から跡形もなく消えたんだよ。そして未だにそいつらは帰ってこない。そしてそんな中そいつと同色のコアを持った人間が現れた」
なるほど、それで俺が疑われているということか。ここまで来て言うのもどうかと思うという彼の発言は属性の検査にわざわざ足を運んできてから直接俺にその話をする事にしたから、という意味だったのだろう。
俺自身今まで何も悪い事はしていないのに色々な人から疑われていたという事に関してはとても腹立たしいが、その事件の内容的に俺に直接確かめるというのも彼らからしたら難しい話だった筈だ。
それでも今回オウセンは俺に対して危険を顧みずにぶつかって来てくれたのだから、多少変な目で見られていたことくらいは水に流そうと思えた。
「俺はそんなことしてませんし、やろうとも思いません。俺はむしろそんな奴と一緒にされて被害者ですよ」
「……そうか、それならいいんだ。すまなかった」
オウセンはそう言って微かに笑うと、張り詰めていた空気を振り払うように、俺のグラスに飲み物を注いできた。彼はきっと俺がそんな事する筈ないと信じてくれていたんだと思う。
突如開かれた尋問会はたったの数分で幕を閉じ、そのままの流れで俺たちは夜遅くまで晩酌を共にしたのだった。
深夜二時くらいまでオウセンと談笑した俺は、幾度となく襲い来る睡魔に意識を預けそうになりながらもなんとか自室へとたどり着き、そのまま床に就いた。
俺は仰向けになりながら、明日の属性検査のことを考えて少し不安になったが、やがて気がつかない内に夢の中へと体ごと飲み込まれていった。
そして次の朝、眠い目を擦りながらなんとか朝食の時間に目を覚ました俺は、急いで皆がいる朝食会場へと足を運んだ。
朝食の献立に俺たちが昨日さんざん美味しいと騒いだ魚がまたも現れ、何となく親戚の家に遊びに来たかのような懐かしい感覚を覚えたが、さすがに昨日食べたばかりのおかずを短時間で何度も出されると飽きが来るのが早く、俺は多少無理をしながらそれらを召し上がった。
朝食の後にオウセンから、八時にはここを出るから準備しろと言われた俺たちは少し急ぎながら自室へと戻り、装備を整える。宿屋では洗濯機が使用不可だった為、俺とアカネはオウセンが持ってきた戦闘服を来て一日過ごす事になった。
「おう、全員集まったな」
「オウセンさん、コノハがいません」
「ああ、あいつはもう外でミサキと待機してるよ」
オウセンの後に続いて外に出ると、夜通し商談相手と論争を繰り広げていたのか疲労困憊といった表情が隠しきれない様子のミサキが荷台で横たわっていた。
「ああ、ごめん……今日はコノハがガウ車引いてくれるから私もここで休ませて」
さすがにここまで衰弱している人物に運転を任せるわけにもいかないし、俺たちは言われた通り横たわるミサキの隣に腰を下ろし、出発の準備を整えた。
やがてガウ車のメンテナンスを終えたコノハが運転席に勢いよく飛び乗り、出発の合図を俺たちに送る。俺たちがそれと同じようにして了解をコノハに伝えると、ガウ車はその重い車体を軋ませながらゆっくりと前進を始めた。
ガウ車が徐々に速さを増していく。
それと同じようにして俺の心拍数も上昇していく。
今日、ついに俺の属性が判明する。俺はオウセンが話した人物とは違う属性であって欲しいと願いながら、ただただ荷台で俯いていることしかできなかった。




