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僕たちは異世界と未完成の上で踊る。  作者: 紺野 定
第一章 コアと異世界の本質
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第一章 2『緑の中の黒』

祖母の墓を離れ、少し歩いたところに小高い丘がある。そこには申し訳程度に設置された望遠鏡が一台とその周りには休憩用であろう酷くペンキの剥がれた、お世辞にも綺麗とは言えないベンチが2つ置かれていた。


毎年ここを訪れているといっても、やはり空白の一年間は長く、普段から目にしていれば気づかないであろう小さな変化にも目が止まる。


「なんだ……あれ」


望遠鏡のすぐ横から下の林を見下ろした際に、遠目だが小さく光っている木のようなものが見えた。

大きさは周りの木から比べると明らかに小さく、去年までは確かにそこに存在していなかったものだと認識できた。

田舎というのは何歳になっても冒険心をくすぐられる。俺は、迷わずその異質な空気を纏う物体の方に歩を進めた。




「これ、機械か何かか?」

小走りで来た為ものの数分でそこに訪れた俺は、自分の思っていたものと真逆の、ナチュラルさなど一切兼ね備えていない機械的光沢を放つ物体の前で呆然としていた。

そこにあったのは小さいモノリスと表現するべきなのか、黒い長方形の、誰が何のために置いたのかわからない黒い板が、時折自身に浅く刻まれた剥き出しの電子回路と思われるものからにび色の光を放っていた。

見れば見るほど疑問が増えるその物体を見て俺は確信した。これは、人工物じゃないのではないか。


「これは……宇宙人の、なんか危ない兵器とかじゃね……?」


なんて恐ろしいものを発見してしまったのだろうか。たまたま散歩して見つけた謎の物体のせいで、地球上から消されてしまう可能性が浮上してしまった。

とりあえず今のところ害はない様なので、こういう未確認物体的なものに詳しい人物に心当たりがあったので連絡を入れてみることにした。

スマフォの電波は一本しか立っていなかったが、発信ボタンを押したあとに多少の間を空けてなんとかコールが鳴り始めた。




「もしもし、ミキトですけど」

「え、おにいちゃん。どうしたの?」


俺が応援を求めた先は、おそらく今は自宅でPCゲームに熱中しているであろう妹のあさひだった。

こいつは昔からオカルト関係に興味を持っており、霊感なんかも持ち合わせている為、そっち方面では結構役に立つ事があった。


「おにいちゃんな、今ばあちゃんちの方に遊びに来てるんだけどさ」

「うんうん」

「近くの雑木林でモノリス見つけちゃったんだけど、どうすればいいかな?」

「は?」


あからさまに、え、何言ってんのこいつと言わんばかりの威圧が俺に対して向けられていた。

それもそうだ、普通の人なら雑木林でモノリスを発見することなんてまずないからな。俺の説明不足、もとい語彙力のなさを心から嘆こう。


「もう一回説明するぞ」

「いや、大丈夫。たぶんよくわかんないから」

「なんかすごく光ってる黒い板だ」

「うん、やっぱりわかんない」


どうしたものか、この衝撃をうまく妹に伝える術が見つからない。

もしこの物体が人体に害のある物質を常に放出しているものだったとすれば、俺もここに長居をするのは相当危険だ。とりあえず一旦ここから離れたほうがいいかも知れない。

すると、しばらく無言だった電話から一つ提案が出される。


「おにいちゃん。とりあえずそのモノリスとか言うやつの写真を送ってみてくれない?」

「お前天才か」


確かに一番手っ取り早いのは、謎の物体そのものを本人に見てもらうことだ。

少し恥ずかしい話なのだが、俺はどうにもスマートフォンというものを標準レベルにすら使いこなせていないようで、用途はガラケーとほぼ変わらずメールと電話くらいのものだった為、写真を添付して送信するという発送が真っ先に出てくることはなかった。


どうやら通話をしながらカメラを使用することができないようだったので、一通りの流れを旭に習い、とりあえず写真だけ送ってみるということで話は終わった。



「えっと、カメラカメラ……これだな」

画面右下に小さく表示されている、カメラのマークを軽く押し、起動する。

すると、小さい音を立てて画面にスマフォ越しの景色が映し出される。

雑木林に佇む黒い板、その美しい造形とは裏腹にレンズ越しからでも感じられる不気味な雰囲気はやはりこの場所には異質だった。



画面下中央に表示される白い大きめの丸を押し、その光景を保存する。

カシャリ――。

夏を飾り付ける蝉の合唱や、木々の葉擦れの音の隙間に無機質な機械音が響く。

一瞬の不快音など気にもならないくらいに流れ続ける夏の音楽は、休憩することも忘れたように未だ鳴り響いていた。

その音すべてが種の保存の為に作られた生命の音色だということすらも忘れてしまえるくらいに。



「写真を撮れたはいいけど、どうやって元の画面に戻るんだこれ」


最近の科学の進歩は目覚しいが、忘れないで欲しい。この世界には機械音痴も存在している。

特にちゃんとした説明も受けられないまま、時代の流れに必死で追いつこうとしている人間だっているんだぞ。と、日頃から言いたい文句をもう一度心の中で呟いた。



「てきとうに押せば、戻れるだろう。変な機能とかないだろうし」



そう思い、画面に表示されている色々なマークを片っ端から押しまくる。

一個目のボタンは画面の色がおかしくなり、二個目のボタンはライトが点灯した。そして三つ目のボタンを押した時に、俺の顔が画面に映った。



「へえ、こんな機能もあるのな。これで自撮りってやつができるのか」


なんとなく最近の若者らしいことができた悦びに浸る。

そのまま記念に一枚撮ろうと、手をまっすぐ伸ばしたたま画面を凝視し、緑の映えるベストポジションを探す。

しばらくぐるぐると回転して、少しばかり違和感を覚える。

何かがおかしい。あったはずのものが消えている。


「――モノリスが……無い?」



スマフォを下げ、モノリスがあったはずの場所を直視する。

――無い。


暑さとは違う嫌な汗が全身から吹き出し、体から体温を急激に奪っていく。

どこだ、どこに消えた。


鼓動と脈拍が焦り始める。



必死に周りを見渡すが、ただただ緑に囲まれているだけだった。

幻覚?いや違うだろう。確かにそれはそこに存在していた。物体としてそこにあった。


「そうだ、写真は?」


自分の頭がおかしくなったわけではない、ということを真っ先に確認しておきたかった。

手汗でベトベトになったままのスマートフォンを落としそうになりながらも顔の近くに持ってくる。


画面は先程から変わっていなかった。自撮りモードのままだった。


しかし、それすらも何かおかしい。

だが、これだけは何がどうなっているのか刹那に判断することができた。

世界一難しい間違い探しの攻略を強いられているかのように、血走った目を見開きながらその映像が虚像であることを願う。


なぜかってそれは――。




俺の後ろに黒い人が立っていたから。





訳もわからないまま硬直する。

気分が悪い。

これは人なのか。

しかしそんな疑問すべてを遮るように、直後に鈍い音が響き、全身の張り詰めた筋肉が緩まるのを感じたところで俺の視界はフェードアウトした。



二話まで読んでいただいた方。本当にありがとうございます。自分の小説を読み直して思ったんですが、とてつもなく展開が遅いですね……。小説を書いているときは、展開重視を考えて書いているのですが途中からなぜか細かい表現を徹底して書いてしまっているんですよね……。二話まで投稿して完全な本編は入れてないってこれ以上ですよ!(たぶん)。ここからスピーディーに話を進められればなと思いますのでよろしければ、これからも温かい目で見守っていただければなと思います。

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