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僕たちは異世界と未完成の上で踊る。  作者: 紺野 定
第一章 コアと異世界の本質
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第一章 9『コア』

 

暫く感情を表に出し続けた彼女は、徐々に落ち着きを散り戻し自分の心中を俺に語り始めた。


「私ね、本当は怖かったんだ……もう元の世界に戻れないんじゃないかって。オウセンさんが能騎士について教えてくれた時もそう。本当は自分で解決できるなんて少しも思ってなかった」


彼女はテーブルの下で組んだ手を、握っては解きと繰り返していた。その行動は、当時の自分の愚かな行為を懺悔する自分を俺に受け入れてもらえるか心配している様子だった。勿論あの時の彼女の言動は正気の沙汰ではなかったが、あれが周りを気遣っての行動だということは理解していたため、俺もこれ以上彼女を追い詰めるような事はしたくなかった。


「でも、さっきミキトくんが帰れるって言ってくれたおかげでちょっぴり勇気が出てきたよ」


俺に完全に心を許してくれたのか、前に見た笑顔より一層無邪気さが引き出された表情を彼女は向けていた。

これが本来彼女が持っていた表情なのだろうと納得できるほどに違和感のないその笑顔からは、もうすでに不安や恐怖の様なけがれは一切張り付いていなかった。


「俺は思ったことを口にしただけだよ」


彼女を勇気づけようと言ったことは本当だが、ただ本当は自分に言い聞かせていただけだったのかもしれない。ここから帰れると思い続けていなければ、俺は森から動くこともままならなくなってしまうと思ったからだ。それがたまたま、結果的にお互いを励ます形になっただけの臆病者が放った空虚な言葉だった。

そんなことも知らずに彼女は、見え見えの空元気を出しながらもう一度自分自身に喝を入れるように立ち上がった。


「よし、もう落ち込んでいられないよ! 能騎士をちゃちゃっとやっつけて早く日本に帰ろう!」

「お、おおー」


ただ空回りしていただけに見えた彼女の気合は、不思議となんとかなるような気持ちにさせてくれた。能騎士がアカネを目当てにこの村に来るまで、早くて今晩。それまでになんとかこの世界で戦えるすべを身につけておかないと。

俺たちは湯呑に残ったお茶を一気に飲み干したあと、それぞれの個室へと解散することにした。部屋に入る時に開けたままだったドアは、閉めるのに体力を使うのもいかがなものかという事で話がまとまり、オウセンには悪いが開放したた状態のままその部屋を退出した。




俺が部屋に戻り身支度を整えていたところで、部屋のドアがノックされる。

開けてみるとそこにはまだパジャマ姿のままのワカナが眠そうに目を擦りながら大きなあくびをしているところだった。


「おふぁようございまふ」


俺がまだ寝ていると思って油断していたのだろう、いきなり部屋から顔を覗かせた俺に対して、あくびを右手で必死に抑えながらも挨拶だけはしっかりと行ってきた。


「おはよう……寝不足なのか?」

「うーん……たぶん。いえ……そんなことはないです」


ワカナはきっと朝に弱いタイプなのだろう。普段きっちりとしている彼女の事だし、パジャマで人前に姿を現すことなど想像もしていなかった。それに、昨晩は俺たちに付き合って深夜まで一緒に話し合いに参加してくれていたのでまだ幼さの残る彼女の身には多少なりとも負担をかけてしまったと思う。

アカネは俺が起こしておくから顔を洗って来いとワカナに指示を促し、俺は未だに足元がおぼつかない様子のワカナの背中を見送った。

その小さい背中には、昨晩のような怪力が秘められていることなど想像もできない程華奢なラインが浮き上がり、パジャマの袖から時折顔を出す細い腕に刻まれた古傷は彼女が戦闘に特化した盗賊なのだということをはっきりと物語っていた。


数分後、すべての身支度を終えた俺はアカネの部屋を訪ねることにした。

彼女とは今日の朝に解散したので、きっと起きているだろうと思い小さく二回だけドアをノックする。しかし、中から反応はない。今度は、先程よりも少し強めにノックを試みるもやはり中から返事は帰ってこなかった。


「おかしいな……おーい、まだ寝てるのか?」


呼び掛けてみるが向こうから一向にアクションがないので、流石に不安心を抱き部屋のドアを勢いよく解放する。するとそこには、薄いピンクのパジャマから微かにへそを顕にし、抱き枕のように丸めた柔らかい羽毛の布団に幸せそうな顔で抱きつきながら反発の少ない大きなベッドに僅かに体を沈めている彼女の姿だった。

そう、彼女はただ寝起きが悪いだけだった。とは言えその状態の彼女を俺が起こすと事案になるのではと思い、今度は完全に目が覚めた様子のワカナにそのことを説明し、アカネを起こして貰うように頼んだ。





早朝から色々な場面に出くわしたが、無事に朝食を済ませた俺たちはオウセン誘導の元、オウセン宅の裏庭にある訓練場くんれんじょうと呼ばれる場所に来ていた。そこには、何本か案山子かかしのようなものが立っていたがここが畑ではないことからそれを用いて特訓をするのだと分かった。


「よし、まずお前たちにはコアについて覚えてもらう。コアは俺たちの中に眠る力の核だ。この核を体の表面に湧き出させる事によって、俺たちは特殊な力を授かることができる」


説明を続けるオウセンの横で、ワカナが実践して俺たちに直接確かめさせる。彼女が目を閉じ、胸の前で重ね合わせた両手を、まっすぐに伸ばしたまま意識を集中させると、ジワジワと彼女の輪郭から赤い粒子が湧き始め、やがてオーラの様に彼女の体を包み込んだ。

それを見てオウセンはすぐさま、お前らもやってみろと俺とアカネをワカナの隣に並ばせ、言った。

すぐさま俺たちはワカナを真似て実践してみるが、当然上手くいく訳もなく、しかし異様に消費される体力によって呼吸が乱れ始めていた。


「なんかこれ……すごい疲れない?」


俺以上に体力の消耗が激しいアカネが隣で小言を言い始める。すると、その様子を見ていたオウセンがアカネのもとに近づき、熱血教師のような指導のもとマンツーマンで授業を続行し始めた。


「当然だ、普段俺たちが日常で使っている筋肉よりも更に奥深くに位置する器官から力を引き出すんだからな。普段コアの扱いに慣れてる俺たちと違って、お前たちは恐らく生まれてかたまだ一度もコアを引き出したことがないんだろう?」


先程からコアが出る気配もなく、ただただ疲労が増すだけの作業に俺も溜まっていたもやもやと疑問をオウセンにぶつける。


「そもそも別の世界から来た俺達がコアを使うための器官を持ち合わせているんですか?」

「言ったはずだ、コアは命の核でもあるってな。この世界で形を保っていられるってことは、お前たちもコアを持ち合わせているってことでもある」


その考えは果たして合っているのかと思いながらも再び意識を集中させる。すると今度はワカナからアドバイスを伝えられた。


「最初は疲れてきてもしばらく耐えてください。そして、そのまま集中し続けているとだんだんと手のひらが熱くなり、ピリピリと痺れてきます。その瞬間を狙って、全身の水分を蒸発させるイメージを浮かべるとうまくいくかもしれません」


オウセンの習うより慣れろ精神より、ワカナの論理的な説明を聞いてなんとなくイメージを強く持てるようになり、もう一度めげずに挑戦を試みる。腕全体が痺れてきたが、これはただの運動不足で筋肉が悲鳴を上げ始めただけだろう。余計なことは考えないようにできるだけ無心になりコアの覚醒に集中する。

すると、突然隣にいたアカネが声を上げた。


「わっ! 何?」


驚いて彼女の方へ顔を向けると、彼女の体は白と水色の光に包まれており、体の芯から溢れ出したようなその光はやはり粒子のように時々彼女の体を離れては消える無数の粒で覆われていた。


「おめでとう、アカネ。コアの開栓に成功だ」


嬉しそうにそう告げるオウセンとは裏腹に、アカネの体は溢れ出す青白い光で徐々に埋め尽くされていった。それに伴いパニックになる彼女にワカナが声を荒げる。


「アカネさん!その光をどっかに振り払ってください!」

「振り払うってどうやって!?」

「文字通り。振り払うんです!」

「ええ!?えっとー……それ!」


アカネがバットを振るように力いっぱい腕を前方にスイングすると、彼女の体を包んだ光は巨大な剣山けんざんの様な無数の針となり、音速で目の前の森に放たれた。彼女の光が通った場所にあった木々は数本が薙ぎ倒され、残った物には鋭利な光が刺さったままその場で静止していた。

それを見送ったように彼女は力なくその場に倒れこむ。と、同時に突き刺さったままだった無数の針が空中で蒸気のように四散したのが確認できた。


「はは……私……やったよ……」


もはや立つ力さえも使い果たしてしまった様子の彼女だったが、地面に座り込みながらもこちらにブイサインを送ってきた。

そんな彼女に呆れながらも賞賛を送っていると、今まで驚いた様子で立ち尽くしていたオウセンが彼女に話しかけた。


「いや、悪かった。コアを開放したあとの説明をしなかったせいで怖い思いさせちまったな」

「あ……いえ、大丈夫です」

「そんなことよりお前すげえよ……普通コアは一人一つの力しか備わっていないんだが、今見た限りアカネのコアは水色と白の二色を含んでいた。普通はお目にかかれない人種だぜ」


その一言を聞いて、俺にももしかしたら特殊な能力が備わっているかも知れないと淡い希望を抱いていた。実際、俺とアカネは特殊な存在であることは確かだった。

オウセンは一旦全員をアカネの周りに集合させると、省かれていた追加事項を語り始めた。


「さっき説明しなかったんだが、コアは色によって能力が区別されている。俺の緑は自然に関与する能力で、具体的に風を操ることができたりする。で、ワカナの赤は火薬等に関連付けられる能力。そして、さっきアカネが出した水色と白の二色は主に癒し効果を含んだ色となる」

「具体的に水色は戦闘にも用いられる力で、白色の方は絶対的な癒し、つまり傷等の治癒を中心とした力です」


再びオウセンの言葉にワカナが足らない言葉を付け足す形が取られる。だが、なんとなく俺もコアの本質についてわかってきたような気がする。それは、漫画やゲームで登場する技のようなものと感覚が似ていた。

アカネはそれを聞いて魔法みたいですねと言っていたが、体力の消費が付いてくるのを考えるとそっちの表現のほうが正しいような気がする。つまり、体力がPPでコアがコマンドのようなものだろう。


「戦闘中の相手に白いコアで技を放っちまうと相手を癒しちまうから、二色の使い分けをしなくちゃいけない分大変なことだけどな」

「なんとか頑張ってみます、またアドバイスをいただけますか」


コアの使い分けにまで真摯に取り組もうとする彼女の姿に俺は若干の劣等感を覚えながらも必死でコアの開栓に力を注ぐ。ヒナワ家の裏庭から響く大きな物音で集まってきた他の住人たちからもエールを送られながら俺たちは一日中特訓を続けた。

やがて黄昏時を迎え、橙色に周囲が包まれたのを確認したオウセンの口から、今日の特訓の終了が告げられた。この時点でアカネは大体のコア取り扱いの基礎を習得していた。彼女が最初に放った針を飛ばす技は、この村では『春吹雪はるふぶき』と呼ばれる上位能力者のみが扱えるものだということが後々判明した。




当の俺はというと、今日という日を丸一日消費したにも関わらず、コアの開栓すらもまともに行えていなかった。



九話まで読んでいただきありがとうございます。本当に。ここまで毎日投稿を心がけてきましたがもう本編に足を踏み入れてから次で十話になるんですね、驚きです。しかし最近不満がありまして、毎度のことながら自分の作品を読み直してみるとおんなじ表現が無限にループするように書かれているんですよ。これはやっぱり語彙力の問題なんでしょうけど皆さんはどのようにして文の管理をなさっているんでしょうか。

時々言葉の言い換え方とかを検索して工夫して書いているのでしょうか、それとも元々頭の中に広辞苑が埋め込まれている方が大半なのでしょうか。

自分ももっと表現力があればするするっと好きなように情景を表せるのにな……と毎日悶絶しております。

しかし日々精進できたらそれでいいのかなと、思いますけどね。

長くなりましたが皆様これからも応援よろしければお願いしますね。

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