1話 2人の従者
今回は『主』たる主人公が転生するまでの間でのお話です。
――惑星アルベーン歴89億750万2683年
―――ウィートルノーデ歴317年山鳥の月7日
――ウィデロア南方共和国
…の大平原。
「ねぇ我が妹よ…」
銀髪の長い髪を地面に放射状に放ちながら寝そべる少女は反対側で寝そべっているであろう黒髪の少女に声をかける。
「なにか?」
黒髪の少女が応じると銀髪の少女は星を見ながら言った。
「私達、『従者』…なんだよね?」
「肯定」
銀髪少女の頭頂部から生える三角耳がピコピコ動きながら尋ねると黒髪の少女もそれに合わせるようにして動かし短く答えた。
「私の記憶だと未だご主人様と主従契約を結んだことは愚か、ご主人様に会ったことがないんだけど…」
「私も姉さんと同じ」
黒髪の少女は星の輝きに目を細めながら言う。
「かれこれ1000年は経ってるはずなんだけど気の所為?」
「正確には姉さんと旅に出ることになって2620年…姉さんはそれ以上の可能性」
栄華を極め、そして滅び、空白の時代と呼ばれた時代を生き抜き、立て直し、活気が戻った時代を歩き、魔王が復活し、滅びかけ、異世界から呼ばれた勇者とともに冒険し、魔王と邪神を討伐し、その代償に世界が滅びの一途を辿ったため、暗黒時代と呼ばれた時代を彷徨った二人は名前も何もないただの『従者』だった。
その時代その時代で様々な名前で呼ばれたが最初の時代でもらったステータスプレートの名前の欄にはなにもなかった。
…『従者』
それは『主』に仕えるべき者たちの総称。生まれながらにして持つ者もいれば自分から進んでなる物も居る。多少の差異はあれどどんなヒトであれ、『主』の資格を持つ者に主従契約を結ばされるもの…。ときには蔑み、忌み嫌われたりした時代も有った。
彼女たちは生まれながらにして『従者』の称号を持っていたのだが『主』の資格を持つ勇者や魔王、そういった者たちからの主従契約を受けようとしても『すでに主が決まってる』かのように主従契約を弾いてしまっていた。
故に彼女たちはまだ見ぬ仕えるべき自分の主を探す旅をしているのだ
「私達のご主人様はどこに居るんだろうねぇ~」
「いつもそればかり…」
銀髪少女は空に手のひらを掲げ、手を透かしてみるかのように満点の夜空を見る。
「いつまでたっても仮名…じゃどうしようもないでしょ?我が妹よ…」
「肯定」
ゆく宛もなく、命令もなく、目的もない…。
二人は大の字になった状態でそのまま目をつむり、眠りに落ちた。
◇◆◇
私は気がつけば姉さんとともに真っ白な世界に立っていた。こんな場所ありえないから多分夢なんでしょう…。
「ここどこぉ~」
姉さんはキョロキョロしながら状況が冷静に判断が下せないみたいです。それにしても夢にしてはよく出来たふざけ具合の姉さんです…。
「あ、我が妹よ~まさか夢でも出てくるなんてびっくり~」
「ここどこ」など宣っておきながら夢と認識してる姉さんはバカなのでしょうか?多分そうなんでしょうね…。
「何か失礼なこと言われた気がする」
「気のせい」
こういうときだけ勘が鋭いとこまで再現しなくてもいいと思う…。
「主なき定められし『従者』たちよ」
声のした方に振り向くといつの間に背後を取られたのかハーピィ族ににた羽を生やした女性が立っていた。
「ハーピィ族ではないです」
私の心を見透かされたような眼光で今考えてることが向こうに伝わっているみたいですね。ここは冷静に、冷静に…。
「間もなくあなた達の『主』が転生れます」
「「どこに生まれるんですか?!」」
冷静になってなどいられなかった…。でもまだ見ぬ主様のことを思うととてもとても愛しくも感じる…。
「それがですね…とても言いづらいんですが…」
何をもったいぶってるんでしょうか?この陰険ハーピィもどき。
「もったいぶらないでよ鳥頭!」
「誰が鳥頭ですか!」
馬鹿な頭の姉さんらしいネーミングセンス…でも目の前のこれは自称;陰険ハーピィもどきですよ。
「…あなたも私が思考を読めることをいいことに悪口言うのやめてください」
陰険ハーピィもどきは涙目になって訴えかけてくるが知ったこっちゃない。それどころではないのだから。
「その呼び方定着させるんですね…」
ため息混じりに陰険ハーピィもどきは仕切り直す。
「こんなことで時間を費やしてるほど時間も経緯を話していられるほどの時間もないので端的にいいます。あなた方の『主』様は北の廃坑となってる最深部で間もなく転生れます」
「「んな!!」」
北の廃坑は今はLvが非常に高い魔物たちの巣窟になってるから熟練のハンターたちの腕試し場と化しつつある場所…。100層到達しても未だに最下層にたどり着けていないとも言われた『大陸内最長』の迷宮と呼ばれるほど…。まぁ私たちはそれの最下層まで行ったことはあるんですが、そこに姉さんがゲートを設置してくれてれば問題ないんですが…
姉さんを見る限り、真っ青になって冷や汗タラタラ流してますけど、作ってますよね?
「それではあなた方の『主』様の無事を祈ってますね」
って待てぇぇぇええええええ!!
真っ白な世界が徐々にぼやけていく。それが私の目が覚めることだというのに気づくのに数秒とかからなかった。
◆◇◆
――ガババッ
大草原に横たわっていた2人の少女は跳ね起きる。
「ハァ…ハァ…ハァ…」
息を整えた2人は同時に向かい合い声をかける。
「「我が妹(姉さん)!!今後の行動方針についてなんだけど!」」
見事にハモった2人は無言で頷く。
「最下層は愚か、北の廃坑へのゲートのセットすらしてないからゲートで中央都市まで転移してそこから長距離転移行って飛ぶしか無いわ」
「…」
妹のジト目を受け、姉は耳を伏せ、肩をすくめる。
「仕方ないじゃない…あの時、『ゲート』なんて魔法取得してなかったんだから…」
そういいながら幾つもの魔法陣を空中に展開していく。本来なら宮廷魔術師10人がかりで10日かけて陣1個生成するのがやっとの物をいともたやすくポンポン作っていく今世の宮廷魔術師たちが見たら卒倒するだろう。
「じゃあ開けるわよ…『ゲート』!開通イスタンベルク!」
姉さんの言葉とともに2人の姿はウィデロア南方共和国の大平原から姿を消した。
◇◆◇
――中央商業都市イスタンベルク
…の教会にある教皇の間
ノックもせずに扉を大きな音を立てて司祭が飛び込む。
「騒々しいな…ノックもなしに入るとは何用かね?」
「教皇様!『名無しの従者』様方がお越しです!」
入ってきた司祭の言葉に教皇はすぐに顔色を変える。
「すぐに通せ!いいか丁重にだぞ…いやわたし自ら迎える案内しなさい!」
「そ、それが…」
司祭が言いよどむのを尻目に教皇は法衣を羽織りすぐさま部屋を出て大聖堂に向かう。
『事前連絡無しに教会に来たということは『ゲート』を使ってきたに違いない…。そしてここに『ゲート』で来るということはよっぽどのこと…気を引きめねば…』
両開きの扉を勢い良く開け放たれ、もとより決めていた言葉を述べた。
「たいへんおまたせいたしました。此度は長い旅路をご苦労様でした。この教皇、『イスカ=トゥオーネⅢ世』が厚くおもてなしを…」
魔力の残滓が色濃く残る大聖堂の中は空だった。
『この魔力…たしかに姉君のほうの魔力…。ここに来たのは間違いないはずだが…』
「教皇様…妹君様からの伝言です『中間地点として立ち寄ったから挨拶はなくていい』とのことです」
「…先に言わんか馬鹿者…。あの方たちを前にするということは世界を相手にするくらいの覚悟が必要なんだぞ…」
思わぬ肩透かしを喰らい、教皇はドッと疲れが出たのか大きなため息をついて司祭を軽く小突く。
「それと妹君様のもう一つの言伝に『『主』様が生まれる。だから今度『名無しの』と呼んだら滅ぼす』とのことです」
司祭の言葉に教皇は顔を真っ青にする。
「そのことを全枢機卿並びに末端のシスターたち、見習い達に至るまで全員に伝えろ。こ、これは徹底せねばなるまい…。王や皇帝には私から伝えておく」
正史にもある…。ある『主』の資格をもつ大国の王がまだ存在していない姉妹の従者たちの主を蔑み、その日のうちに大国が砂地と化した。と言う話を…。それ以来「鎖なき『従者』の愛は世界を滅ぼす」と謳われる。
「それにしても…『鎖なき従者』を御する『主』の誕生…か」
「一体どんな人なんでしょうね…」
司祭の言葉に教皇は首を振る。
「『どんなヒトが主になる』のが問題なのではない…。妹君は主が『生まれる』そういったんであろう?ならば問題は『どんなヒトに育つ』かが問題になろう…」
教皇は上を見上げる。天井には正史を美化したものが壮大に描かれている。
「教会、帝国、王国の3つ巴で千年に渡るであろうと謳われた戦争を2人で鎮圧した『従者』を生まれてくる『主』は御することが出来るか否か…」
教皇の言葉に司祭もようやっと事の重大さをあらためて思い知り、顔を上げ天井を見つめる。そして2人して深い溜め息をついたのであった。
第2話になるのに未だヒロインにも主人公にも名前がない…こんな事ってあって良いんだろうか…。
月の呼び方なんですが
1月=火鼠の月
2月=水牛の月
3月=雷虎の月
4月=空兎の月
5月=金竜の月
6月=城蛇の月
7月=一角獣の月
8月=眠り羊の月
9月=賢猿の月
10月=森鳥の月
11月=銀狼の月
12月=山猪の月
って言う感じになります。
追記 Before Story始めました。タイトル上のリンクから行けるみたいです。扱い方に慣れていなくてすみません…。