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3話 生活改革

 まず私は環境を少しいじることにした。

 冒険者達から竹1節分くらいの大きさで外側は固い殻に覆われ、中が空洞(本来は水か入っているらしい)で冒険者たちが使い捨ての水筒代わりに準備する『ツツの実』を30個ほど譲り受けた。冒険者さん達いわく「旅や依頼を終えたら燃やして灰にして捨てる」らしい。初めて知った時、なるほどさすがは異世界…。こんな珍しい形の木の実が存在する上に燃やして灰にすることで、森の肥やしになってるのだと思わず感心した。

 これらを全て縄の両端に繋ぎ15本のツツの実付きの縄を作る。これを宿裏手にある物干場用の拓けたところから見える範囲の手頃な木の枝に、引っ掛けて高さを調節した上で実1つ1つに水をいれて穴に栓をする。

 次に粒子の細かい砂を名前も知らない冒険者さんから譲ってもらった。なんでも「宝箱に大量に入っていたから何かに使えると思って袋に積めてギルドに査定してもらっても二束三文で買い叩かれた物」らしい。またユネたちに鑑定してもらうと『時の砂』という名前らしく、吸水性皆無、泥状に固まるわけでもなく、いくら熱しても、冷やしても、常温のままを維持する上に魔力による干渉を一切受けないのだという。

 私はこれをひょうたん状に作ったガラスの容器に3分かけて入れる。そう砂時計である。この世界に秒や分と言った単位がなく、時間は常に何処からともなく聞こえる鐘の音を基準にしてるらしい。


「出来た」

「何ですか?」


 不思議そうに作業を見ていたユネとセラは頭に「?」を浮かべ尋ねた。


「セラはこのツツの実を持ってね。ユネはこれを持ってて。私の合図と共にセラは持ってるツツの実を離して、ユネは手に持ったそれを逆さにして。」

「「はい」」


 私は真剣に大量のツツの実がぶら下がる木の下に立つ


「ユネ、その上の容器の中の砂が無くなったら教えて。セラは手を離したらすぐ下がってね。」

「「はい」」

「それじゃあ…今!」


 合図と共にユネは砂時計を回し、セラはツツの実を手放した。

 ツツの実は重力に逆らわずそのまま他のツツの実とぶつかり合い、四方八方から私に向かってくる。

 私はその1つ1つが把握(・・)できてる。

 右から迫る実を半歩下がることで回避。

 胴を薙ぐような動きで迫る実は体を少し捻ることで回避。

 左から肉薄し左後頭部を狙う実は少しうつむく事でギリギリ回避。

 ぶつかり合うことで徐々に動きが複雑化するツツの実を確実に、正確に、把握し、ギリギリで回避する。

 学生時代に読んだスポーツ漫画の主人公もこんな感じだったのだろうか…などと考えながら3方向から迫るツツの実を巧みに避ける


◇◆◇3分後◇◆◇


「砂、なくなりました!」

「分かった」


 トキは横っ飛びでツツの実の嵐から飛び出てユネ達を見る。

 2人は血の気が失せ、真っ白な顔でトキを見ていた。


「どうしたの?」

「「『どうしたの?』っじゃないです」」

「ふぇ?」


 トキは急に顔を真っ赤にして怒り出した2人に思わず変な声が出てしまった。


「寿命が3年縮みました」


 と慎ましい胸に手を置いて言うセラ。


「私は肝を冷やしましたよ!」


 真剣な眼差しでトキに訴えるユネ。

 肝心のトキは首を振った。


「こんな練習法でなくても良いじゃないですか。もっと楽な、もっと安全な訓練をしてください。もし怪我でもしたらどうするつもりですか」


 ユネが屈んでトキの両肩を掴み、言い聞かせるように言った。しかしトキは首を振っていった。


「怪我は承知の上で私は練習してる」

「でも!私は…いえ私達は御主人様に怪我はしてほしくないんです」


 ユネの悲痛とも言える叫びにセラは頷く。


「冒険者ギルドの時もそうだったけど、ユネ、セラ、2人とも私をどのように扱いたいの?キラキラ輝く宝石のように、綺麗なお人形さんのように丁寧に丁寧にしまっておきたいの?」

「そんなこと!「…出来ることならそんな風大切に扱いたい…」セラ!?」


 ユネが反論しようとした直後、遮るように呟いたセラの言葉にユネは失言だと叱ろうとする。


「…でも私はそんな風に扱うことができない…それがどんなに辛いか知っているから…」


 セラは家の言い付けで尖塔に閉じ込められていた過去がある。閉じ込めた側の人の想いは違えど、「閉じ込める」という行為がどういったものかということを知っているセラだからこその言い分だ。ユネはその事を理解し、唇を噛み締める。


「私は2人と共に歩きたい…ただ守ってもらうんじゃなく、一緒に…。それに怪我をしたら治癒魔法で治してくれるんでしょ?」

「…そう…ですが…」


 ユネが言い澱む。


「もうあんな思いをしたくない…私が弱かったばかりに…2人に痛い思いをさせたくない…」

「「…」」


 今にも泣きそうな雰囲気のトキの顔を見てセラはギュッと堪えるが


「ご主人さm「姉さん、ここは自重するべき」プゲラァ!」


 ユネは感極まって抱きつこうとするも容赦ないセラの高速の裏拳を顔面にめり込み、ゴロゴロと後方に転がっていく。


「主様…それは私達とて同じです。主様が危ない目に遭うのは私達としても辛い…否嫌なのです…。それだけは覚えていてください。」

「うん…わかってるつもりではいるよ。」


 トキの返事に満足そうに頷く。


「慣れてきたらこの容器の中身の砂、増やしていくからね?」

「「え゛」」


 トキの言葉に2人はギョッとする。


「当然でしょ?いつだって戦闘がこんな短い訳がないでしょ?最低でも鐘1つ分は持続しないと…」

「さっきのを鐘1つ分…ご主人様、さすがに危険です。危険なことはしないって…」

「それはそれ、これはこれ。訓練に怪我は付き物だって」


 トキの言葉に2人はがっかりと諦めたように肩を落とした。


読了感謝です

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