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2度目の人生、ハードモード〜これが1度目の補填って嘘でしょ?〜  作者: 蒼を刻む朱雀
第2章 初めての街
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7話 一手

この先、流血、死亡表現あり。流血表現や残虐な死に方、残酷な表現が苦手な人はブラウザバック推奨。

>全然問題ない。ばっちこ~い!(どうぞ先にお進みください)

>ちょっと怖いな…(ブラウザバック推奨)

「何故だ!なぜだ?!ナゼダァァアアア!」


 振り返っては袋から金貨を取り出し、後方に向かって投げつけながらショグマは絶叫する。

 前衛に立っていた2人はあっという間…時間にして10秒もしないうちにその身を悲惨な死体と言う真っ赤な華に変えた。

 ジョグマは抜け道の石造りの通路を走る。しかし後から追ってくる足音が異様なのだ。

 カツン…カツン…と歩くようなゆっくりした足音なのにその足音は徐々に距離を詰めていくかのごとく近付いてくる。


『ヨンマは風魔法によって斬り揉み回転させられ過ぎて絞った後のような雑巾のようなオブジェみたいな死体に変えられた上で地面にその頭を埋められた。』


 恰幅のよかった体がクミンとそう対して変わらない体の幅になっていたのを思い出す。


『クミンはなんの魔法かわからないが空中に浮かび上がらされ、生きたまま火の玉を口に突っ込まれ体内から爆破された…』


 破裂の直前ヨンマ以上に膨らまされ、爆ぜたクミンを思い出し、えずく。


『…白金貨はもう尽きた…そもそも貨幣魔法最上位たる白金貨砲(プラチナカノン)を直列圧縮強化した俺の固有魔法《直列白金貨砲(プラチナコアカノン)》すら防ぐってどういう仕組みだ!』


 本来白金貨砲は白金貨1枚で30枚以上の白金貨を魔力で縫い合わせ、それを巨大な白金貨として圧縮、解放する。この魔法を使えば繋ぐ量にも寄るが1師団程度なら軽く凪ぎ払える威力はあった。

しかし…


『防がれた!曲がり角で不意討ちを狙ったのにも関わらず!即席の障壁で!これが…』


 石造りの通路の先が光で溢れている。


『出口だ!あとは逃走経路を偽装して…ここを潰せば…』


 ショグマは通路を勢いよく出ようとした。しかし目の前のものにぶつかり、尻餅をついたショグマは怒声を上げる


「どこ見て突っ立っ…て…」


 ジョグマは言葉を失った。

 なぜなら目の前に立っているのは冷たい殺意を帯びた眼で見下ろすユネ(恐怖の対象)だったのだから…


「…さっきまで後ろから追っていたのにどうやって…」


 石造りの通路は1本道だった。地上から瞬間移動してこれないように特殊な石を床、壁、天井に配備した。地上から瞬間移動してこれないと言うことは地下からも瞬間移動して出ることも出来ないと言う事である。

 気を失ったトキを抱え直し、ユネは口を開く。


「いつから私が通路から追い掛けて来ていると錯覚していた?」

「なにを…言っている?」


 石造りの通路からカツーン…カツーンと靴の鳴り響く音が近づいてくる。


「じゃああの靴音は誰だと言うんだ!」

「いつから靴音だと思っていたわけ?」


 靴音が石造りの通路の出口まで出てきたにも関わらず肝心の人の姿が見えない。


「なん…だと?」

「雷魔法の《着雷(クラップ)》と風魔法に《反響(エコー)》の複合なんだけどまぁなかなか使い道がなかったのよねぇこれ…」


 そう言うとユネのとなりで靴音が響く


「今まで無害な複合魔法に怯えてたのか…」

「あなた魔術師…しかも砲台型なら《魔力感知》くらいしなさいよ…こんな手にかかるのは3流以下よ?」


 呆れたと言うかのような表情で言うと地面から幾つもの剣が生え、宙を舞い始める。


「もっとも…次は無いんだけど」

「助け──「ザザザザザザシュ」」


 ジョグマの体は全方位からの無数の剣に貫かれて絶命した。


「瞬間移動してこれないように不転位石をちりばめたんなら地上の追っ手に気付かれないようにするために隠密石も散りばめとくべきだったわね…にしても遊びすぎたかしら」


 ふと空を見上げるとユネは両太ももの煩わしかった激しい痛みが引いていく。


「あっちも終わったみたいね…」


◇◆◇

 その影は裏路地をジグザグに曲がる。時にゴミ箱を蹴飛ばし、時に裏通りの住人を押し退け、駆けていた。

 セラは建物の上からその影を見つけると着地地点を進行方向少し先に定め、大きく跳躍する。


――ット


 影は目の前に重力を感じさせないように降り立ったセラを見て、意を決したかのように腰の剣と手に持っていた剣を抜く。


「アラバニスタ帝国流帝剣術ティガルス…」


 セラはその鎧の構え方を見て流派を看破する。


「驚いたな…構えだけで旧帝国流と見破られるとは…さすがは…いや何も言うまい」


 鎧は言葉尻を濁すとセラは軽く答えた。


「だてに3000年は生きてないから…」

『それにしてもこの道のりを鎧を着込んで走ったのに関わらず息が乱れていない…』


 セラは簡単に思考を巡らせおもむろにブロードソードを抜こうとした。しかし鎧はそれより前に動き、右手でセラの剣を抜こうとしていた右手に突きを入れる。

 セラは剣を抜くのを中断し、突き入れられた剣を掴みにかかる。鎧の男は右手の剣を引く。そのためセラの右手はむなしくも空を切る。


「ッシ!」


 しかし鎧の攻撃は止まらない。右手を引いた所で左手の黄金色に輝く剣が袈裟に煌めく。セラはその剣筋を見切り、指で挟もうと試みる。しかし指先に挟まる直前刃は慣性の法則を無視した軌道に入る。振り下ろされるはずの刃は真後ろに回転し、順手が逆手に持ち変えられる。そして腕は逆再生されるかのように跳ね上がる。

 セラは後ろに下がりつつ左手で剣を抜きにかかる。しかし抜かせまいとするように間合いを詰め、その手に傷をつけにいく。


「…ッフ!」


 セラは短く息を吐き右足による蹴りを繰り出す。


「?!」


――ガイーン


 蹴りを繰り出されるとは思ってなかったらしく、男は胴体に直撃を受け、弾き飛ばされる。

 セラは蹴りの手応えに首をかしげる。


「あなた…その鎧の中身は空っぽ?」

「さぁな…自分で確かめてみれば良いだろう?もっとも…」


 男は剣を構える。


「私に勝てればの話だがな!」


 そういって間合いを詰めて剣を突き入れる。たいしてセラは瞳を瞑った。


「私に剣を抜かせない程度で…」


 右の突き入れを寸差でかわし、


「調子に…」


 左の袈裟を踏み込みによってそれを回避する。


「乗るな!」


 そしてカウンターの要領で鎧の胴体に手のひらを当て、掌底を叩き込む。


「ぐぁあああああ!」


 男はは突き当たりまで吹き飛び、壁に大きな音をたててめり込む。


「馬鹿…な…目を瞑ったまま避けるなど…ありえ…ぬ」


 男は首をうなだれるとそのまま兜が落ちる。セラが指摘した通り鎧の中は空だった。


「鎧の形状からして旧帝国…宮廷近衛騎士…戦い方からかなり実力を持っていた騎士…」


 セラは今までのことから推察する


「打ち込んで確信したけど、あなた、ティガルス本人の鎧ね…」

「グゥ…」


 兜の無い空の鎧はうめき声を上げる。


「ティガルスの生きた鎧(リビングアーマー)たるあなたががなぜこんなことをした?」

「私とてぬしらの『あるじ』に手を出そうとは思っていなかった…我があるじの恩人の『あるじ』に手を出したと知れば我があるじは憤慨するだろう…」


 セラは質問を続ける。


「ならなぜ私に刃を向けた?」

「知りたかったのだ…私のあるじの戦い方がぬしらにどれだけ通じるのか…」


 ティガルスの生きた鎧は壁から手足を引き抜き、ドカッとあぐらをかいて言った。

「例えそれがあるじの意思に背く形になろうとも…な…」

「…」


 セラはこれまでの鎧の言動を省みる。


『主犯格の男が貨幣魔法を放った時、この鎧は主犯格の男に問い詰めていた』


 部屋に飛び込む直前、窓の外から見た状況を思い出す。


『幾つもの角を曲がって人気の無い場所を通っていたのは逃げるためではなく私と戦うための場所を探していたとしたら…』


 後ろの開けた空き地を流し目で見る。


『そもそも逃げるのなら人目につく大通りを通ればいい…』

『そして何より…生きた鎧は主の強さを問う、現象に近い生き物…』


 セラが生きた鎧の一連の言動から結果付けた。生きた鎧はあぐらをかいたままじっとしていた


「私の敗けださっさと殺すがよい」


 その声は威風堂々としており満足と言う感じだった。セラは気に食わなかった…


「剣を取りなさい…体術に負けたなど主が知ればどういうか…」

「…いいのか?」


 発せられた言葉は重く鈍い音だった。


「あなたの戦い方は一切の進歩がなかったティガルスの戦い方…」

「今一度問う…良いんだな?」

「くどい…」


 鎧の問いにうんざりしたセラは殺気を放つ。


「…場所を変えよう…ここでは狭すぎる」


 鎧はそう言って隣に転がる兜をとって頭に乗せ、地面に転がる剣を取る。


 広場で向かい合う2つの異形は既に剣を抜いていた。

 片方は無尽蔵の筋力を持つ現象や精霊に近いとされる生き物…生きた鎧は自身の喪った主の強さを確かめるためにその身で本来なら両手で扱うために作られた大剣2振りを片手で構える。

 一方は小さく華奢な見た目から想像するすることができないほどの筋力を内包する黒髪の猫族…生きた伝説とされる彼女としてはこの下手人の片棒をついだこの男(?)を真正面から打ちのめしたかった。


『慢心はしない…でも強化魔法1つでも使ってやるものか…こんな格下程度に使ってやるものではない。ただ、身体のポテンシャルは最大まで引き出してやる…』


 空き地の空気が張り詰めていく。

 一迅の風が空き地の雑草を撫でる。


…そして風が止んだ。


 既に2人の立ち位置が入れ替わっている。またお互いの剣の刃の部分がなくなっていた。


「…大分腕をあげたね?フォンベルガー」


 猫族の少女は柄から下だけになったブロードソードを投げ捨てて、精一杯の称賛を送る


「…結局、師には一刀も当てられなかった…これが結果か…」


 生きた鎧は両手に握り込まれた柄から下だけになった2つの大剣だったものを手放し、地面にへたれ込む。


「向こうにいってフォンベルガーに会ったら伝えなさい『勝てなかった(・・・・・・)』と…」


 少女の意図を悟った鎧はうつむき加減で言った。


「《限界突破》はおろか…強化魔法ですら引き出すことも叶わす、1秒も耐えきれなかったのにその報告はいかがなものかと思うがね…」

「3000年弱愛用していた私の愛剣を持っていった…そう考えれば妥当でしょう…それともその辺の棒切れで相手してほしかった?」

「師は意地悪ですな…」


 少女の言葉を聞き、鎧は天を仰ぐ。


「あぁ…勝ちたかったなぁ…」


 鎧はそう言い残して塵と化した。


「欲張りすぎ…」


 そう言って踵を返す。


――ピッ


 少女の頬に浅い切り傷が生まれる。

 浅い切り傷はすぐさま《自動再生》によって治癒される。


「届いてたじゃない…」


 少女は寂しそうな笑みを浮かべ歩を進めた。

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