3.
療養に帰ってから早一週間、じいちゃんたちは俺にとてもよくしてくれている。やっとあの視線が消えたせいか、体調もすぐに良くなった。
だが、ある夜のことだ。俺の運命を一気に変える出来事が起こった。
今夜は、流星群。そんなことをばあちゃんから聞き、少し早い時間から庭に出ていた。人生初の流星群。テンションが上がってしまう俺だった。
ついに、その瞬間がやってきた。一瞬星が瞬いたかと思うと、流れ星が空を、一つ、またひとつと横切った。そしていつしか、空は光にあふれて―――
思わず目をつぶってしまった俺は、辺りがそんなにまぶしくなくなったことを感じた。もう流星群は終わったのか?そう思って目を開けた俺は、驚愕することになる。
なぜならそこは、あまり手入れのされていないなじみの庭ではなく、神殿のような、なんというか…厳かな雰囲気の場所であったからだ。
しばらく呆けていたが、いつのまにか目の前で跪いていた神官と思わしき服を着ている男性…いや、青年か?に話しかけられて、我に返った。
「我々の呼びかけに応えていただき、ありがたく存じます、#勇者様__・・・__#」
…この人、頭おかしくなっちゃったんですか?
ふと周りを見渡すと、青年と同じような格好をした人たちに同じように跪かれている。え、何この状態。カオスすぎるぜ。
「えっと…とりあえず、ここはどこ…ですか?」
「≪セレスティア≫という世界の、<聖王国>です」
「セ…?」
「異世界からいらっしゃったので、混乱するのも無理ありませんね。突然召喚してしまい、申し訳ございませんでした、勇者様」
「いやまてまてまてまて」
「?どうなさいましたか、勇者様?」
「理解できない。あとその#勇者様__・・・__#って何ですかコラ」
おれがほんのちょびっとだけ怒っていたのに気づいたのか、それはそれは丁寧に教えてくれましたとさ。
要するに。
・異世界の、偉い国
・あと数年で魔王が復活する予定なので、その対抗策
・↑のため、学園に行って力をつけてもらう
・‘呼びかけ’とは、あの流星群の強い光
宇宙との交信かと思ったわ。帰れるかと聞いたら、困った顔で『魔王を倒したら門が開くとしか…』と言われた。仕方ないからやってやろう、てなわけにはいかない。
なんせ、死ぬかもしれないんだからな、これは。
迷う節を見せると、神官――クレイさん――は、準備期間をくれた。クレさん(勝手にいってみた)…苦労性じゃないのかな。俺に部屋も与えてくれた。ありがたい。…これで勇者やんないとか言ったらどうなるんだろ…。
そういえば、じいちゃんたちはどうしているんだろう。っていうか、時差はどのくらいなんだろう。帰ったころには何百年たってましたーとか、どこの浦島太郎だよ。…なに”魔王を倒す”前提で考えてるんだよ、俺…。
まあ、勇者ごっこに興味がない、わけでもない。誰でも俺TUEEEはしてみたいだろうし(この世界に来て身体能力やらその他もろもろがかなり強化された)、サーガに夢を抱くだろう。
…っと。誰かが天井裏にいる気がする。普通に考えてそんなことがあるはずないのだが、そんな気がしてならなかった。
じっと気配の方を見ていると、いきなり声が聞こえた。
『あーあ、気付かれちゃいましたか。さっすが勇者サマ』
「…誰だ」
『あぁ、そんないきり立たないでくださいよ。ただの休暇を取ったモブSさんですから』
なんの休暇だ。そして不法侵入だ。というかこの神殿には厳重な警備があるはず。それをどうやって抜けてきた。
『えー、そんなの気合に決まってるじゃないですか~』
「どうやって気合で来れるんだよ!?」
と言って、はっとした。
「俺、声出してない…?」
『読心術は私の得意技ですよ~?』
「うわっ!?」
かなりビビった。今度は俺の真下から声が聞こえてきたからだ。この神殿、穴あり過ぎ…?
『ここの警備は世界二位~!ですよ~』
「そのネタは…!?」
『あ、世界一位は魔導学校ですかね~』
そんなことは聞いてない。
一体何者なんだ、こいつは…?
『こいつとは失礼ですね~。ただの休暇をとったモブSさんっていったじゃないですか~』
「…うん、いいあうと不毛な争いを起こすだけだ。耐えろ、俺…!」
『それはともかく勇者サマ、魔王倒しましょ~よ~』
「うお!?」
なんでお前が言うんだよっ!?