少年の決断と姉の涙
戦艦『榛名』の舟魂である榛名に出会って数日後。翔と榛名は暇な時間に会うようになっていた。榛名は他の舟魂が連れてきた人間とは会ったことがあるものの、自分が見える人間が乗り込んできたのは初めてとこのことで、非常に喜んでいた。姉妹艦である金剛・比叡・霧島とも交流も結び。彼女たちとは家族同然の関係となり、翔は彼女たちを姉のように慕うようになっていた。
それから数ヶ月が過ぎた頃、海軍の演習が行われた。翔は主砲分隊のため艦がどのような動きをしているのか知るよしもなかったが、伝令で甲板に出たとき目撃した艦載機の射出に感動し、飛行機乗りへに情熱が再燃し上官に申し出たのだった。
「本気か水守? お前はこのまま経験を積めば優秀な砲主になれる素質があるんだぞ?」
「申し訳ありません。しかし、自分はもともと飛行機乗りになりたくて海軍に志願したのです」
翔は残ってくれるよう何度も説得をする上官に、必死に頭を下げて頼み込んだ。
「分かった」
「ほ、本当ですか!? ありがとうございます!」
舞い上がっている翔を制して、上官は一言付け加えた。
「ただし、条件がある。お前を飛行機乗りにするのは正直惜しい。だから、今年の試験は諦めて来年にしてくれんか?」
翔は一瞬固まったもののすぐに笑顔で承諾した。
「分かりました。今年一年やれば許可をいただけるのですね?」
そう言うと翔は一礼し、その場を辞した。そして、訓練に戻るべく歩いていると曲がり角に人影がある。
「榛名姉さん」
翔は気軽に声をかけたが、榛名の表情は厳しいものだった。
「なあ翔。お前は本気で飛行機の搭乗員試験を受けるのか?」
当然の榛名の問いに、翔は緊張しながらもしっかり答えた。
「本気だよ。僕はそのために海軍に入ったんだから」
翔がそう言うと、榛名は心底悲しそうな表情になり諭すように話し始めた。
「私は、お前のことを弟同然に思ってんだ」
「それは僕も同じだよ。僕も皆のことを家族同然だと思ってる」
その言葉を聞いた榛名の頬を涙が流れる。翔は怒られるとばかり思っていたので、動揺し何もできない。
「私は、いや私だけじゃない。私たち姉妹は、お前が将来立派な軍人に育って。私たちの主砲を撃ってくれる日が来ると信じてたんだ。なのに飛行機の搭乗員になりたいって」
その先は言葉にならなかった。翔は泣き崩れる榛名を慰めることもできず呆然としていた。この常に勝気な姉は滅多なことでは泣かない。だが、その性格の中に脆さがあることも翔は知っている。
彼女の脆さは家族関係のことが原因で現れることが多い。翔にとっては、自分が大切に思われていて嬉しい反面、自分にとっても大切な存在である姉が、本気で悲しんでいるということに胸が締め付けられた。
「榛名姉さん。ごめんね相談の一つもせずに決めちゃって。でも、これは僕の夢であると同時に姉さんたちを護るためでもあるんだ」
翔の言葉に榛名は泣き腫らした顔を上げる。
「確かに、姉さんたちの主砲を敵の戦艦に撃ち込んで沈めるのはロマンだ。でも、これからは大艦巨砲主義の時代は終わって、航空主流の時代が来る」
その言葉を聞いた榛名の顔に怒りの表情が浮かぶ。翔はそれを制して言葉を続けた。
「姉さんたちが認めないのはよくわかってる。でも、あと十年かそこらでその時代は確実にやって来る。僕はその時に姉さんたちを、いや姉さんたちだけじゃない、この日本を護るために飛行機乗りになる」
そう言い放つと翔は歩き去っていき、後には座り込む榛名だけが残された。
翔は上官からの条件どおり、その年の試験を諦め一年間しっかりと訓練を積んだ。しかし、翔は榛名や他の姉妹たちとは距離を置いていた。互いに時折話しかけようとはするのだが、少し話しただけで別れてしまうのがほとんどだった。
そして、昭和九年(西暦一九三四年)一七歳となった翔は試験に無事合格し、霞ヶ浦航空隊で操縦練習生となることが決まった。しつこく引き止めていた上官も結局は合格を祝福してくれ。離艦と時は迫っていたが、未だ榛名たちと溝は埋まっていなかった。結局その溝を埋めることはできず、翔は霞ヶ浦航空隊へ向かった。
その後、約一年半の教育を終了し、翔は戦闘機の搭乗員として卒業。昭和十二年(一九三七年)に日中戦争が勃発。翔も昭和十四年(一九三九年)中国大陸に渡り初陣を飾り、太平洋戦争が開始されるまで前線で戦い続けた。
今回の話は少しシリアス調にしてみたのですがいかがだったでしょうか?
個人的には、シリアスってなんだよ!? 分かんねえよ! 難しいよ!って感じでしたがw
では、また次話で。




