真珠湾の空~それぞれの戦い②~
ハワイが黒煙に包まれる中、翔と御堂もまた敵機を探しつつ地上の飛行機に銃撃を加えていた。
「こんなもんだな。そろそろ帰還時刻も近いし、いざという時のために弾も残しておきたいところだ」
翔が引き上げるべく上昇していくと、一機の零戦がバンク(翼を振ること。味方だという合図や、連絡手段として使われた。)をしながら近づいて来る。見れば風防から見える顔は御堂であった。
「おお! 御堂飛曹長!」
翔が敬礼をし、御堂も返した。御堂が身振り手振りで今日の戦果などを聞いてくるので、撃墜はできていない旨を伝えると御堂もクサッた顔をして、俺もだということを伝えてくる。
二人が翼を並べて集合地点に向かっていると、周りで爆発が活発に起こり始めた。奇襲の衝撃から立ち直り始めたアメリカ軍の対空砲火であった。
二人は機体を横滑りさせて高射砲、高角砲、対空機銃などの対空砲の砲撃を避けていく。二人が中国戦線で鍛え上げたベテランであることもあって問題はない。しかし、二人の顔は厳しいものになっていた。
――まだ、十分に飛行場などの対空施設を叩けていない。となると第二次攻撃隊は多少の苦戦を強いられるな。
そんな考えが二人の脳裏に浮かんでいた。
第一次攻撃隊のハワイ奇襲から約一時間が経過し、帰還するべく離脱を始めた頃。時間を置いて出撃した『瑞鶴』の嶋崎少佐率いる第二次攻撃隊がハワイに到着しようとしていた。
第一次攻撃隊残存機は全機帰還したが、淵田隊長は引き続き真珠湾上空に残り戦闘を観察する。
午前四時三二分、『赤城』の進藤大尉の零戦隊を先頭に第二次攻撃隊がハワイに突入する。零戦隊は前述の飛行禁止命令を無視して離陸してきた戦闘機を撃墜し、地上銃撃でも多数の敵機を撃破した。
嶋崎少佐の艦爆隊は、陸用爆弾による水平爆撃で飛行場や地上施設を破壊した。
桜井も『蒼龍』の江草少佐指揮の艦爆隊の一員として突入に備えていた。
そして、江草少佐を先頭に艦爆が次々と敵艦に急降下爆撃をすべく降下していく。
出撃前、爆撃隊は戦艦その他の艦船を爆撃し、第一次攻撃隊の戦果を拡大するように命令されていた。
翔と御堂が帰還直前に推察した通り、真珠湾上空には凄まじい対空砲火が撃ちあがっている。真珠湾上空には雲があり目標が視認できなかったが、江草は対空砲が激しい場所の下に敵艦が居ると判断して、操縦桿を前に倒し一気にダイブした。降下していくなかで確認できた戦艦のうち、被害の少ない艦を狙い見事に命中させた。続く艦爆隊も次々に突入していく。
桜井も一隻の戦艦に目標を定め、覚悟を決めた。
「清水! 進入するぞ」
「了解です。しっかり当ててくださいよ」
後席の偵察員であるベテランの清水一飛曹に声をかけると降下に入った。
「五〇〇〇、四〇〇〇・・・」
清水が高度を読み上げる。三〇〇〇を切った辺りから対空砲火が激しくなってきた。桜井が狙った戦艦は損害が少ないようで猛烈に応戦してきている。桜井の目には無数の機銃弾が自分を包み込んでいるかのように見えていた。
――この砲火の嵐の先には戦艦がいる。今までは地上爆撃だったが、ようやく戦艦を爆撃できるんだ。恐れるな。
「二〇〇〇!」
と清水が叫んだ瞬間に、機体にガンガンという音と凄まじい衝撃が走ると同時の機銃弾が命中した。弾は風防や翼に穴を開けたが、燃料タンクも問題なし、二人に怪我もなかった。
「やってくれたな! こっちもお返しに爆弾をプレゼントだ!」
自分の僅か数センチ横を通り抜けた機銃弾をものともせず、むしろ敵愾心を燃やし桜井は突入を続けた。
「一〇〇〇!」
照準機にはすでに戦艦が入っており、それがぐんぐん拡がり、遂に照準機からはみだしてしまった。
「高度五〇〇、用意、打て!」
清水の声を聞いた桜井は、ほとんど悪魔のごとき笑みを浮かべ投下レバーを思いっきり引いた。その瞬間、ふわっと機体が軽くなる。
爆弾を投下した桜井は操縦桿を引き、機首を引き上げ上昇をかける。
「どうだ清水! 命中か!?」
後席の清水に命中確認(艦爆の偵察員は後ろ向きに座っているため命中確認が容易。)をしつつ、なおも激しく撃ってくる対空砲火を避ける桜井は必死の形相だ。
清水が徐々に離れていく戦艦を睨んでいると、艦橋付近に盛大な火柱が噴き上がる。敵乗務員の悲鳴が聞こえるよう。
「やりましたよ少尉! 艦橋に命中確実です!」
清水の言葉に桜井は会心の笑みを浮かべながら振り返った。桜井に続いて部下達も、次々突入していく。辿ったのは桜井と同じ降下線だから必中だった。
桜井が抉った傷口に第二、第三の槍が突き立つ。
爆発が爆発を呼ぶ。これでは艦内は火の海だろう。
空を駆け上がりながら、桜井は雄たけびを上げるのだった。
バレンタインチョコを貰えそうにない今日この頃




