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ハルナの決意




 あたしの願いは、届いたのかわからない。




「ハルナちゃん、退院おめでとう」


「ありがとうございます…」



 担当医に、玄関前で見送られる。

 ぎこちない返事を返したあたしに、担当医は理由にすぐ気が付いたみたい。

 たった数か月の関係だったけど、人の想いに気づける所って、お医者様なんだなってわかる。



「やっぱり寂しいか?

最後にカイくんに会えなくて」


「……はい…」



 あの日、カイくんが病室を出てから今日、あたしが退院するまで、カイくんが病室に元気な姿で戻ってくることはなかった。

 どうやら予想よりもカイくんの病気は何故か悪化していて、ICUから出て来れない状況のようだ。

 意識も取り戻していないみたいで、今も中で酸素マスクに繋げられて眠っている。

 最後に松葉杖をつきながら見に行ったけど、眠っているカイくんは不謹慎だけど、死んでいるみたいだった。


 ICUで眠るカイくんを思い出し、あたしは泣きだした。

 泣いた理由を知っているかわからないけど、担当医が優しく肩を叩いてくれた。



「カイくん、俺も知っていたけどな。

病室で独り、今までずっといたんだぞ?

笑顔も全然なくて、ずっと病室の窓から見える大通りを歩く学生を見て、辛そうにしていたんだ」



 あたしに会う前のカイくんの姿なんて知らなかったから。

 あたしは黙って泣きながら、担当医の話を聞いた。



「だけどハルナちゃんに会って、カイくんに笑顔が戻ったって、医者や看護師の中で話題になったんだぞ?

ハルナちゃんが、閉ざされていたカイくんの心の鍵を開いたんだよ」



 どこの青春小説のワンフレーズですか、先生。

 そう思ったけど、あたしは何も言わないで、ただひたすら泣いた。

 涙が、止まってくれない。



「ハルナちゃん、安心しろ?

カイくんは、絶対に治るから」


「…うっ…グスッ……」


「ハルナちゃん。

これからは、事故に合わないよう、気を付けてな?」


「うんっ……」




 カイくんは、体が弱いけど、必死に毎日生きていた。

 あたしにとっては当たり前のことを、カイくんは知らなかった。


 あたし、カイくんに胸張れるよう、精一杯生きたい。

 次会った時、カイくんにドヤ顔出来るほど。



「ありがとうございました!」


「ハルナちゃん、気を付けてね」


「はいっ!」



 涙を拭ったあたしは、元気よく松葉杖をつきだした。



 どんな立ち回りでも良い。

 生きてさえ、いれば。





「ハルナちゃん!」




 病院の敷地を出て、すぐ。

 後ろから呼ばれた名前に、あたしは振り返った。

 あたしの名前を呼んだのは、カイくんの担当医だった。




「ハルナちゃん。

良かった、間に合って」


「どうしたんですか?」


「これ、カイくんからハルナちゃんへ向けた手紙」


「え?」


「さっきハルナちゃんが病室を出た後、病室へ行った時、見つけたんだ」




<ハルナさんへ>




 真っ白な封筒に書かれた、初めて見るカイくんの字。

 さっき止まったはずの涙が、溢れてきた。




 あたしは病院近くの公園のベンチ座って、手紙を開いた。






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