表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/11

カイの存在

ハルナside



 あたしは背を向けて眠るカイくんのお言葉に甘えて、小説の続きが知りたくて、カイくんのベッドの隣にある収納棚へ向かった。



「借りるね、カイくん」



 聞こえているわけがないのに、あたしは独り言ち、収納棚から続きを探す。

 多く並んだ小説や漫画の量に、圧倒されていると。



「…ゲホゲホッ」


「……カイくん?」



 くぐもった咳が聞こえ、あたしは読み終えた小説を仕舞って立ちあがった。



「ゲホゲホッ…ゴホゴホッ…ゲホッ」


「カイくん?大丈夫?」



 あたしの問いかけに答えず、苦しそうに咳と荒い呼吸を繰り返すカイくん。



「カイくん!カイくん!!」



 さっき戻ってきたカイくんは、一時退院が出来るかもって喜んでいたのに。

 あのカイくんの喜びを、消してしまわないで。

 あたしは急いで、ナースコールで看護師さんを呼んだ。


 看護師さんとカイくんの担当医さんが病室に集まり、あたしは医療ドラマでしか見たことがない光景を目にした。


 苦しそうに何度も咳を繰り返すカイくん。

 素早く看護師さんに指示する担当医さん。

 担当医さんの指示に従い、点滴や酸素マスクの準備をする看護師さん。

 あたしはただ、見ているだけしか出来なかった。



「ICUの準備は出来ているか?」


「出来てます!」


「じゃあ連れて行くぞ」



 ストレッチャーに乗せられたカイくんは、幾度も繰り返していた咳も荒い呼吸も何もしていなかった。

 どうやら、意識を飛ばしてしまったみたいだった。


 カイくんが運ばれ、病室にはあたし独りだけが残された。

 

 カイくんと同室になって、数週間経つけど。

 カイくんが発作を起こしている所を見たのは、初めてだった。



 いつも、興味深そうに、あたしの話を聞いていた。

 話すのが下手なあたしは、どんどん長くなってしまう。

 それで何度も、あたしは友達に「話が長い」と呆れられ、途中で逃げられてしまっていた。


 そんなあたしは、最近話すのを止めて、聞き手に回っていた。

 その立ち回りはあたしに似合わないみたいで、最近学校へ行くのが憂鬱だった。

 行きたくないな、と思いながら登校している中、あたしは居眠り運転をしていた車に衝突された。

 スピードは出していなかったみたいで、骨折だけで済んだけど。

 生きているって知った時、正直何で死んでないんだろって思えた。


 幼い頃から、話すのが大好きだったあたしは、話せない立ち回りが嫌だった。

 話せないあたしなんて、死んでしまえば良かったのに。



 だけどカイくんは、あたしの下手な喋りに文句1つ言わず、いつもキラキラした好奇心旺盛な瞳で聞いてくれた。

 初めての経験で、話すのが久しぶりで嬉しかったあたしは、調子に乗っていっぱいいっぱい喋った。

 カイくんは文句は言わないで、ただただあたしの話を聞いてくれた。



『ハルナさんは、話題が多くて、聞いていて飽きないよ』



 カイくんのその言葉に、あたしは思わず泣きそうになった。

 「何を言うのよ」ってごまかしたけど。

 頑張って、あたしは涙をこらえた。



 あたしに初めての経験をさせてくれて、キラキラした瞳で熱心に話を聞いてくれたカイくん。

 いつの日か彼は、あたしにとって、大事な人になっていた。

 もっと、この人と一緒にいたい。そう思えた。



 …だから、ねぇ。

 カイくんのこと、殺さないであげて。


 もっともっと、話したいんだよ。

 話し足りないんだよ。

 もっともっと、話題があるんだよ。

 カイくんの話、全然聞いていないんだよ。

 もっともっと、カイくんの話を聞きたいよ。


 

 お願い。

 カイくんを、殺さないで―――。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ