ハルナの存在
それからも、僕たちは毎日、色々な話をした。
最も僕は話題など皆無に等しいので、ハルナさんの話を聞くだけ。
ハルナさんは色々な経験が豊富で、僕が体験したことのないアレコレを長時間にわたって説明してくれた。
面白おかしく話してくれるハルナさんの話は、何時間聞いても全く飽きなかった。
「最近カイくん、明るくなったな」
「そうですか?」
毎日行われる、診察室での担当医の検査中。
笑いながら、担当医に言われた。
「明るくなったよ、凄く。
前はあんまり笑わなかったでしょ?
ハルナちゃんが来てから、元気になったよね。
検査結果も、悪くないよ。むしろ良い」
「本当ですか?」
「このまま良くなったら、一時退院も可能かもね」
初めて担当医の口から出た、一時退院。
その言葉に、僕は飛び上がるほど嬉しかった。
本当に飛び上がったら、発作を起こしかねないけど。
「まぁまだ安心は出来ないけどね。
ハルナちゃんのお蔭かな?」
確かに最近、興味がなかった色々なことに、興味を持てるようになって来た。
ハルナさんが話してくれることに、僕は全部挑戦してみたかった。
「ハルナさんが、色々な話をしてくれるんです。
それで、あれもしたい、これもしたいって思えるようになって来て」
「それは良い心掛けだね。
物事に興味を持つってことは良いことだよ。
生きたいって思えるからね。
これからも、もっと色々なことに興味を持ってね」
「はいっ!」
僕は診察室を出て、病室へ向かう。
以前病室までの道のりで苦しくなって、意識を失ったことがある。
だけど今日はその時と違い、歩いても全然苦しくならない。
羽が生えているんじゃないかと錯覚するぐらい、足取りが軽かった。
「ただいま」
「お帰り、カイくん」
家に帰ってきたみたいな挨拶をすると、ハルナさんは僕が貸した小説に栞を挟みながら笑顔を見せてくれた。
「どうだった?」
「良くなって来ているって言われた。
まだ、安心は出来ないけどね」
「良かった!」
ハルナさんは、自分のことのように喜んでくれた。
それだけで僕は、凄く嬉しくなる。
ハルナさんの笑顔が、きっと僕は好きなんだと思う。
「ハルナさんは、どう?」
「あたしは元気だよ。
元々病気じゃないからね。
もうすぐで、手術するみたい」
「そうなんだ……」
僕はベッドに座った。
手術ってことは、終わって数日後ぐらいに、ハルナさんは退院してしまうのだろうか?
病気じゃなくて怪我で入院しているから当たり前のことなんだろうけど、それだけで僕は少し寂しさを覚えた。
ずっとこの広い病室で、独りきりだった僕は。
いつの間にか、隣で太陽みたいに笑っているハルナさんに、惹かれているみたいだった。
ハルナさんが隣で笑っていることが、僕にとって当たり前になって来ているみたいだ。
退院、してほしくないな。
それか、僕が退院できるようになりたいな…。
叶わない願いだってわかっているけど、僕はそう願ってしまう。
「ハルナさん。
僕、少し寝るね」
「あ、わかった!」
「その小説、続きが見たかったら、勝手にそこの収納棚から取って良いからね」
「ありがと!」
現実を知ってしまった僕は、何故か泣きたくなった。
そして、どうして自分はこんななりなのだろうと、悔しくなってくる。
僕は現実から逃げるように、眠りに落ちた。