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病弱少年

2作目です。

病弱男子の初恋、見守ってあげてください。


「ゲホゲホッ ゴホッ」



 真っ白な病室で独り、小説を読んでいると。

 作者の作りだす架空の世界に浸る僕を邪魔するかのように、胸が苦しくなって、込み上げるような咳と吐き気が襲って来た。


 …あぁ、またいつものだ。

 慣れたことで、僕はナースコールを押した。



「どうしました?」



 看護師さんの声が聞こえるけど、咳が続いて苦しくて、言葉をしゃべることもままならない。

 何も言えないで、咳を続けていると、さすが看護師さん、わかったみたいで。



「すぐに向かいますね」


「お…ゲホッ願い…します…ゲホゲホッ」



 意識が飛びそうになるのを必死にこらえ、僕は大きな“何か”で今にも塞がれてしまいそうな喉を押さえ、止まらない苦しみに耐えた。

 すぐに担当医が姿を見せ、僕はそこで、意識を飛ばした。



☆☆☆



 物心ついた時から僕は、普通の人よりも体が弱かった。


 入退院を何度も繰り返し、学校へ行ったことも片方の指で足りるほど少なかった。

 少し院内を歩いただけで苦しくなってうずくまり、何週間も意識を失うことも多くあり、スポーツと言うスポーツは経験がなく、見慣れた人たちと空間の中で、日々を過ごしてきた。


 僕が独りで使う病室からは、車や人が行き交う大通りが見える。

 そこは通学路らしく、ランドセルを背負った小学生から、制服姿の中学生か高校生まで、多くの人が通って行く。

 僕も健康だったなら、ああやって友達と笑い合いながら、元気に走りまわれたんだろうな。

 そう考えるだけで、僕は自分自身が何故こんな病弱に生まれて来てしまったのか、泣きたくなって来てしまう。


 でも、僕を産んで育ててくれた両親には、何の罪もない。

 僕の両親は職場で出会い結婚したものの、数年は子どもが出来なかった。

 子ども好きの両親にとって、ようやく新しい命が宿った時、身内を大勢家に呼んでパーティーをしたというほど、僕は望まれた存在だった。


 だけど僕が産まれてすぐ、心臓や呼吸器系に異変が見つかって。

 それから今まで、僕はずっと病院で過ごしてきた。


 仕事が忙しいはずなのに、両親は土日には欠かさず会いに来てくれる。

 本当は僕の入院費や何度も行う手術費を稼ぐのに必死になって働いているはずなのに、両親は疲れを見せないで、僕に笑いかけてくれる。

 病室に来る度に「何が欲しい?」と聞いてくれ、僕が欲しいと言う度、次来る時にはちゃんと欲しいと頼んだものを持ってきてくれる。

 優しい両親は、僕にとって大事な存在だった。



☆☆☆



 ある時、僕の病室に、看護師さんがやってきた。

 その時僕は発作も起きず、この間両親が買ってきてくれた漫画を読んでいた所だった。



「カイくん。

今度、この病室に新しい人が来るのよ」



 看護師さんが、ベッドの準備をしながら教えてくれた。



「何かの病気なんですか?」


「違うわよ。

事故で、足を骨折してしまったの」


「そうですか……」



 怪我なら、いつか退院できる。

 退院なんて、僕には程遠い。

 生きて、また生活に戻れるまだ知らない人が、羨ましくなって、僕は俯いた。



「カイくん、具合悪い?」


「え?

いや、大丈夫です」


「そう?

何かあったら、ナースコールで呼ぶのよ。

もうすぐで同室になる子、来るからね。仲良くしてあげて」


「わかりました」




 看護師さんが出て行き、僕は首を傾げた。

 事故に合い、足を骨折してしまった子。

 それだけしか聞かされていないけど、一体どんな人なのだろうか?

 僕と同い年なのだろうか?男なのだろうか?女なのだろうか?

 そんなことを考えていると、病室が3回ほどノックされた。



「ハルナちゃん。ここが病室よ」



 先ほどの看護師さんに押される車椅子に乗っているのは、肩までの綺麗な黒髪が印象的な、パジャマ姿の女の子だった。



「……初めまして」



 彼女は僕の姿を見て、ぎこちなく笑うと、会釈をしてくれた。



「……は、初めまして」



 滅多に人と、特に女の子となんて話さない僕は、かゆくもないのに頭を掻きながら、頭を下げた。



今村魁(いまむらかい)くんよ」



 それ以上話さない僕に、看護師さんが代わりに僕の代わりに名前を言ってくれた。



「カイくん。

この子は、辻村(つじむら)晴菜(はるな)ちゃん。

カイくんもハルナちゃんも高校生だから、話合うかもしれないわね」



 同い年、なのか。

 僕らは何も言わず、再び会釈をした。



「ハルナちゃん。

カイくんは、心臓の病気で、呼吸器系も少し弱いの。

発作が起きていたら、すぐにナースコールで教えてほしいの」


「わかりました」



 彼女はお姫様抱っこされて看護師さんにベッドに乗せてもらうと、元気よく頷いた。

 …彼女は怪我で、発作なんて起こさないから、僕と同じ病室になったのかもしれないな。

 僕に何かあった時、すぐに看護師さんを呼べるように。



「じゃあふたり共、仲良くするのよ」



 看護師さんが出て行き、彼女は手招きで僕を呼んだ。



「さっきも言ったけど、あたしは辻村晴菜。

ハルナって気軽に呼んでね」


「い、今村魁です…。

よ、呼び方は…何でも、良いです」


「じゃあ、カイくんね。

カイくん、敬語なんて使わなくて良いよ。

カイくんも高校生だって聞いたけど、何年生?」


「…僕、高校には、行ってないです……」



 敬語を使わないで良いと言われたので、慣れていないタメ口を使う。



「え?

だってさっき、看護師さんが…」


「それは多分、僕が16歳だから…」


「16歳?

あたしと同い年だね」



 彼女―――ハルナさんは、太陽みたいな眩しい笑顔を見せてくれた。

 普段人が僕に見せてくる笑顔は、作ったような笑顔が多い。

 そんな中、彼女のような眩しい笑顔を見るのは、久しぶりだった。



「カイくん、心臓の病気なの?」


「そう……」


「入院生活は、長いの?」


「うん。

物心ついた頃には、ずっと病院だよ」


「そうだったんだ。

じゃあ、あたしの病院での先輩だね」


「先輩?

…と言われても僕、滅多に病室から出ないから、わからないよ」


「でも先輩だよ」




 ハルナさんは、にっこり笑った。

 僕の中で、何かが温かく緩やかに燃えた。





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