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遥か遠くの連峰は白く、足もとの湖面もまた白く染まっている。
すっかり凍った湖に下り立つと、いつもの場所に先客が一人いた。背を丸める初老の男は、開けた穴に釣り糸をたらしじっと当たりを待っている。
「どうですか。釣れてますか」
寄って釣果を聞くと、大公望は首を振る。
「昔は良かったなぁ。数はもちろん、質も然り。今じゃセレストロンやミード、ビクセンなんぞ滅多にお目に掛からん」
お、と当たり。星型の穴から双眼鏡が釣りあがる。期待しながらメーカーを確認すると、肩を落とした。
「双眼鏡が釣れただけ、ましじゃがの」
さびしそうに崩れる相好。それでもきょう初めて笑みを見た。びくを覗くと、ちいさな星座早見板が一枚凍っているだけだった。
「光害がひどいんかのう」
ぼやきながら穴に糸をたらす。私も糸をたらすべく、辞した。
さて、始めよう。
凍てついた湖面に星型の穴を開ける。
誰かに見上げてもらえたらいいな、と思いながら。
おしまい
ふらっと、瀨川です。
他サイトのタイトル企画に出展した旧作品です。
当時の選評を覚えるので、ラストを変えてみました。
見上げる夜空の不思議を堪能してください。