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パワー その未知なる力

10年目の懺悔

作者: カケフ優馬

 私の連載作品”パワー”の未来の話です。”パワー”の連載が起承転結の起の時点で、これを出すのはどうかなんですが・・・

 「さえ・、さえ・、」その声に、私は目が覚めて隣の貴方を見る。

 「太平君。」そして、いつものように声をかける。

 「ごめんな、おまえを死なせてしまって。ほんとごめんな。」それを聞いて凄いショックを受ける。そう、私には7年前に死んだ親友がいた。彼女の名前は佐伯美野里さえきみのり。貴方と、美野里ちゃんと3人とも高2、高3と同級生だったんだ。美野里ちゃんは高3の1学期、当時私が胃潰瘍で入院していた病院で亡くなった。それを何故今頃?思えば、貴方の寝言の中の「さえ・」という名前に気付いたのは新婚まもなくの、5年前だ。でも、その時私に聞かれて誤魔化す貴方に、深くは追求しなかった。その後も同様の寝言を聞くことがあったけど、せいぜい年に1回か2回くらいで、忘れた頃に聞く「さえ・」に、私は問いただすことが出来ずに今日まで来た。ただ、もう7年も経つはずの今頃になって、貴方は3日も続けてその名前を呼んだ。そして、今夜は酷くうなされて、ついに大きな疑惑を抱かざるを得ないその言葉を口にしたんだ。

 「太平君、太平君。」隣で寝ている貴方を揺り動かすように触った。すると貴方は、ほとんどリアクションがなかった昨日までとは違って、

 「琴美ー。」と私の名前を呼んで、まるで子供が親に抱きつくように私を抱いて来る。初めてだ。こんな貴方は記憶にない。いつも私を守るように抱きしめてくれる貴方が、しがみついてくるなんて。

 「泣いてるの?そんなに怖い夢だったの?」私の頬に温かい雫を感じた。

 「俺、何か云ってたか?」少し怯えるように聞いてくる。それに対して、私はただ貴方の背中を撫でてあげる。それは私が貴方にしてもらって1番安心出来る行為だから。それと、聞くのが怖いっていうのもあるから、そうして誤魔化すことしか思いつかない。私は、自分の不安を押し殺しながら、ひたすら貴方の背中を撫でる。すると、貴方は安心したのか、いつの間にか眠っている。今度は私の布団の中で。

 「昨夜はごめんな。」朝食の準備が完了するところへ、貴方が来てテーブルに座る。

 「急に大きな子供になるからびっくりしちゃった。」既に2人分の食卓が出来たテーブルに向かい合わせに座る。

 「あー、もうこんな時間か。今日仕事休みでよかったよ。でも、よく俺が起きて来る時間が分かったな。琴美は予知能力者か。」

 「それは美野里ちゃんでしょ。私は太平君のこと愛してるから分かるだけ。」その名前に貴方がどう反応するか試す。

 「ああ、あいつは凄い奴だったな。」

 「ねえ、1つ聞いていいかな?」

 「いいけど、それより手伝い行く時間いいのか?」平日だから、貴方は私が毎日通っていた父の開業する耳鼻科のことを気にしてくる。

 「いいの。今日からしばらくお休み。」

 「え、何かあったのか?」

 「別に何もないよ。パパもママも優しいしさ。」

 「じゃあ一体どうして?」

 「それは後で云うよ。その前に私の質問がまだなんだけどな。」

 「俺、もしかして何か寝言云った?」

 「うん、実はね『さえき』って。」

 「『さえき』?俺がそう云ったのか?」

 「だけじゃないよ。『おまえを死なせてしまってごめん。』って。太平君、美野里ちゃんと何かあったの?」すると、貴方の顔色がみるみる変わっていく。

 「実は昨夜だけじゃないよ。新婚の頃から、忘れた頃に何度か聞いたことあるの。」

 「分かった。これだけは琴美には云わないでおこうと思ってたけどな。かえって話がややこしくなりそうだからな。今日、耳鼻科休みなら、ちょっと俺に付き合って欲しい場所があるんだ。」私は、ピンとくる。彼女の御墓に行くんだと。ちょうど御彼岸に入ったところだし。その勘は当たっているようで、貴方が立ち寄った場所は花屋さんだ。御供えものや御線香も持ったし。そして、


 「ねえ、こっちでいいの?」車の助手席で疑問に思う。

 「道なら心配するな。」

 「え、でも美野里ちゃんの御墓は坂下君のところの・・」

 「違うんだ。佐伯じゃないんだ。」

 「え?」その後、貴方は何も云わず、数分走ってとある墓地の駐車場に着く。更に、水汲み場でバケツに汲むと、歩いて少しのところにある墓石の前で立ち止まる。

 『板園家の墓』

 「名前が紗枝さえって云うんだ。俺が中2の時妊娠させて、相談されたのに突き放して、自殺したんだ。」愕然とする私。でも、

 「太平君はずっと十字架背負ってたんだね。そんな重いもの背負いながら、私のこと愛してくれてたんだ。」

 「俺だけの問題だと思っていた。でも、結局琴美を巻き込んでたんだって分かって。結婚して5年もなるのに・・・」その先、貴方が何云いたいか分かるけど、

 「供養だよ。私たちに出来ることは、今それにつきるでしょ。」

 「だな。」私たちは、御墓に水をかけ、御線香をたて、御供えものをして、若くして尊い命を散らせた彼女の冥福を祈った。その時、初めて貴方の涙をまじまじと見る。私は察して、しばらく何も云わずに、祈り、貴方の背中を撫でる。

 「ありがとう。」車に戻って、貴方の背から手を離す時受ける言葉には、強い実感がある。

 「うん。」その時はそう頷くだけ。すぐに車に乗り込んで、そこを後にする。

 「ごめんな、こんな俺の罪に付き合わせて。それも知らず5年も。」

 「ううん、私太平君に甘えるばかりだったから、いいの、これで。」

 「もしな、この罪が許されるなら、子供が欲しいな。」

 「実はね、太平君に報告あるの。」

 「え、まさか。」

 「そう、私のお腹にいるの。」

 「そうか、これからが俺の真価が問われるんだな。」

 「そうだよ。これからもよろしくお願いしますね、パパ。」

 前を向くことが、新しい命を育むことに繋がる、肝に銘じる1日の出来事。

 ちょっとネタばれになってしまいましたか?まあ、吉と出るか否かは、楽しみにしておきます。

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