7 水道トラブルの巻。
『………』
魔「………」
『………』
魔「早く皿を渡してくれ」
『そんなに高速で洗えません』
魔「私を退屈させるとは残念な男だぜ」
『ってか、もうちょっと綺麗に拭いてね』
魔「こんなの放っときゃ乾くだろ」
『棚にしまうんだから、ちゃんと拭かないと』
魔「はあ、全く神経質なやつだな」
『汚れたお皿でご飯食べたくないでしょ?』
魔「私の皿じゃないから別にいいけどな」
『…いっつもうちで食べてんじゃん』
早「どうですか、二人きりで作業させる私の作戦は」
文「全然いい雰囲気には見えませんが」
村「私思うんだけどさぁ」
早「何ですか?」
村「二人きりでムード良くなるなら、とっくに付き合ってたんじゃない?」
早「………」
文「………」
輪「…たしかに」
早「そ、それではアレです。そう、トラブルです!」
文「はぁ?」
早「ちょっとしたトラブルで距離を縮めましょう。吊り橋効果です」
輪「具体的には何をするの?」
村「不良に絡まれてるところを助けるとか」
輪「…今できないでしょ…」
早「今から私が自然に洗面所に行ってバケツ一杯の水を汲んできます」
文「自然という語に真っ向から対立してますが」
早「それから転んだふりをして、水を魔理沙さんにぶち撒けます」
文「…聞いてないし」
早「するとまあ、魔理沙さんの服が濡れたり透けたり」
文「あの服が透けることは絶対ないと思いますよ」
早「これじゃ風邪引いちゃうんだぜ、俺が温めてやるよ、他の皆が見てるぜ、私たちは静かに見守りますんで…という作戦です」
文「まあ、ツッコミどころがたくさんありましたが、とりあえず無理ですね」
早「それでは早速水を汲んできますね」
文「聞けよ」
村「待った!」
早「どうしたんですか?」
村「ふふふ…」
早「それでは早速水を汲んできますね」
村「待ってってば!」
輪「何この茶番」
早「何ですか?」
村「私の能力をお忘れかい?」
文「太ももがエロい」
村「違う。それは第二の能力」
輪「いや、第二とか無いから」
早「口から水を出す程度の能力?」
村「妖怪か」
輪「幽霊ね」
村「正解は水難事故を起こす程度の能力でした」
早「それでは水を汲んできますね」
村「無視しないで!」
早「それが何の役に立つっていうんですか?」
村「いや、だから水を汲んでこなくても私に任せれば大丈夫って」
早「ああ、なるほど。こういう時のための能力だったんですね」
村「いや、そういうわけじゃ…」
早「エロハプニング用の能力とか、改めて聞くとショボイですね」
文「私は便利だと思いますけどね」
輪「…仕事柄でしょ」
文「仕事柄ですね」
村「とにかくちょっくら事故らせてくるわ」
輪「ほどほどにね」
村「まかせんしゃい」
スタタタタ…
村「今こそ汝の力を解き放たん! 行け、青龍丸ー!」
蛇「うあー」
バキャァ!
バッシャアアアアアァ…!
『ブフッ…!』
魔「ガボッ…!」
『ブーーーーー!』
魔「ゴボッ………」
タッタッタッ…
タッタッタッ…
『じゃ…蛇口が爆発した…』
早「地上ではああいうふうに水難事故を起こすんですか…」
文「強引ですね…」
魔「何故か一瞬で全身びしょ濡れなんだが…」
『ってか、台所がびしょ濡れなんだが…』
村「どーしたのふたりともだいじょぶー?」
『………』
魔「…なあ、こいつ殴っていい?」
『………』
魔「………」
村「………」
『とりあえず雑巾がけしようか』
村「………」
『………』
村「…うん」
………
村「私は何がしたかったんだ?」
輪「こっちが聞きたいわ」
文「床が拭きたかったんじゃないですか」
早「大体、魔理沙さんの服が透けるわけがないじゃないですか」
文「ああ、それは私が言ったやつですね。大昔に」
村「まあ、でも半分成功ってとこでしょ?」
早「どこがですか」
村「お風呂に入ったとことか」
文「まあ、『風邪引くからお風呂入ってきなよ』はアリでしたね」
早「『そういうお前だって』と言わなかった魔理沙さんはチキンですね」
輪「いや、それは夢見すぎ…」
とぼとぼ…
『………』
文「あ、片付けから戻ってきましたよ」
村「おつかれー」
『………』
輪「…いちおう私から謝っておくけど、ごめんなさいね」
『…いえ、いいんです。慣れてますから』
早「へぇ…」
村「ちょっとした遊び心だったのよ、ごめんごめん」
『………』
村「ほんと、この通り」
ばっ…
文「はっ、土下座のつもりなら額を地面にこすりつけてくださいよ」
輪「いや、あなたに謝罪してるんじゃないから…」
村「ほんっとにごめん」
『いや、別に怒ってないからいいよ…』
村「…ほんと?」
『片付けもしてくれたし…』
村「良かった…。追い出されるかと思った」
早「水道爆発させたら普通追い出しますけどね」
輪「ってか、あなたたちタメ口で話す仲だったのね…」
村「あ、ホントだ」
『あ、たしかに』
村「一輪には敬語なのに…」
『で、どうして水道を破裂させたの?』
村「いや、折角だから濡れ透けハプニングをプレゼントしようと」
『………』
村「………」
『一輪さん、船長っていつもこんな感じなんですか?』
輪「今日はちょっと、はしゃいでるんじゃないかしら」
『そうなんですかね』
村「ちょっと、子供扱いしないでよ!」
『まあ、お寺だと肩の凝ることもあるだろうし、今日くらいはっちゃけたらいいよ』
村「べつにそういうのじゃ…」
早「やりましたね! 水道壊し放題ですよ!」
『そういう意味ではない』
………
魔「上がったぜ」
早「きゃっ、な、なんで全裸なんですか!」
魔「おい、おかしな叙述トリックをやめろ。パジャマ着てるだろ」
早「ちょっとしたサービスですよ」
魔「意味がわからん」
『あれ、魔理沙、それどうしたの?』
魔「ん、これか?」
『うん、そのパジャマ』
魔「新調した。特に意味は無いが」
『黒か。魔理沙らしいね』
村「そのプリントはクマ?」
輪「ネコじゃないの?」
早「イタチですよ」
魔「そうなのか?」
『自分も知らないんかい』
魔「…まあ」
早「ひと昔前に流行った、イタチの『板っち』です」
文「イタチってこんなでしたっけ?」
村「顔が長方形なんだけど」
早「仕様です」
輪「顔に木目があるんだけど」
早「仕様です」
文「額に『板』と書いてありますが」
早「仕様です」
『…これって…』
早「これがホントの痛Tです!」




