秋来にけらし
妹「ふぇっくしゅ!」
すたすた
慧「大丈夫か、妹紅?」
妹「うぅ、なんか最近寒くなってきたなぁ」
すたすた
慧「そろそろ秋だからな」
妹「もう秋か。早いなぁ」
すたすた
妹「永く生きてると一年は、あっという間だよ」
慧「私でも短く感じるくらいだからな。妹紅にしてみれば一瞬なんだろうな」
妹「うん、本当にそう」
すたすた
慧「そういえば、この辺りも少しずつ秋らしくなってきたな」
妹「確かに…あれ?」
たったったっ
慧「突然走りだして、どうした?」
妹「ちょっと来てみて!」
慧「何だ?」
妹「これ」
慧「これは…梅の木か?」
妹「こんな所に梅なんかあったっけ?」
慧「うーん…今までは気づかなかったが…」
妹「梅か…」
慧「さすがにこの季節だと、梅も寂しいものだな」
妹「………」
慧「どうした?」
妹「…ううん、別になんでもない」
慧「そうか?」
妹「枝、落ちてないかな」
慧「折ってもいいんじゃないか」
妹「そうだよね」
ぺき
妹「よし」
慧「花も咲いてないのに、どうするんだ?」
妹「ちょっとさ、手紙でもくれてやろうかな、って」
慧「手紙?」
妹「うん、手紙」
………
輝「ぶぇっきし!」
永「………」
輝「どうかした?」
永「…もう少しかわいくできないんですか?」
輝「くしゃみを?」
永「ええ、おっさんみたいでしたよ」
輝「失礼ね。お姫様よ」
永「じゃあ、お姫様らしくしてください」
輝「ちゃんとお姫様らしく屋敷にこもってるわよ」
永「働いてください」
輝「…どっち? それ難題?」
たったったっ
鈴「師匠ー、こんな物がー」
たったったっ
永「あら、きしめん」
鈴「…せめて、うどんって呼んでください」
輝「いいじゃない。私は獣耳好きよ?」
鈴「きしめんから離れてください」
永「それより、何か用事があったんじゃないの?」
鈴「あ、そうでした。こんな物が届いています」
永「封筒?」
輝「誰宛て? 私宛て?」
永「ええ、そのようです」
輝「手紙もらうのなんか久しぶりね」
鈴「そうなんですか?」
輝「昔は凄かったんだけど、最近は無いわね」
永「…怠惰な生活を送ってるからだと思いますけど」
輝「男さえいれば、みんな私に言い寄るはずよ」
鈴「…本当ですか?」
輝「本当よ。過去に実際あったんだから」
永「まあ、その自慢話は聞き飽きてますけどね」
鈴「なんだか今では信じられませんね」
輝「…どういう意味よ」
鈴「い、いえ、別に…」
輝「………」
鈴「あ、そういえば、手紙と一緒に木の枝が届いてますよ」
輝「ん、それは梅かしら」
永「そうですね」
輝「夏に梅とか、どういうセンスしてるんだか」
鈴「…実はもう秋ですけどね」
輝「え…世間は秋なの?」
鈴「………」
永「………」
輝「まあ、いいわ」
鈴「…いいんですか?」
永「箱入り娘だからいいのよ、たぶん」
輝「誰からかしら?」
永「書かれてないんですか?」
輝「あ…妹紅からだわ!」
鈴「どうします? 燃やしますか? 茹でますか?」
永「…茹ではしないでしょ」
輝「あの鼻タレ妹紅から手紙なんて…何かあるに違いないわ」
鈴「じゃあ私はこれで」
だっ!
がしっ!
永「こらこら、逃げるんじゃないの」
鈴「えー…だって爆発しますよ、きっと」
永「大丈夫よ。ちゃんと控えてなさい」
鈴「…師匠がそう言うなら…」
永「そう。それでいいの。じゃ、私はこれで」
だっ!
がしっ!
鈴「どうして逃げるんですか」
永「………」
鈴「師匠とはいえ、逃がしませんよ」
永「くっ…」
輝「…漫才は終わった?」
永「ええ、まあ」
輝「とにかく、この手紙を開けようと思うの」
鈴「大丈夫なんですか?」
輝「大丈夫よ」
永「…本当に大丈夫なんですか?」
輝「うん。永琳、よろしく」
永「…自分では開けないんですね」
輝「べ、別に怖いわけじゃないんだからね!」
鈴「誰ですかそのキャラ」
永「それで、本当に開けていいんですね?」
輝「ええ、一発かましなさい」
永「かましたくないんですけどね」
鈴「師匠、師匠のことは忘れませんから」
永「いや、変なフラグ立てるのやめて」
輝「じゃあ、永琳、いざ、オープンよ!」
永「…いきますよ」
鈴「…ごくり…」
輝「…ごくり…」
永「せぇいっ!」
鈴「………」
輝「………」
永「………」
鈴「…大丈夫…みたいですね…」
輝「ふぅ、緊張したわ」
永「それじゃあ、中を確認しますね」
輝「ええ、気をつけるのよ」
鈴「何が入ってるか、わからないですもんね」
永「………」
輝「どう?」
永「いえ、普通に手紙だけですね」
輝「なんだ、拍子抜けしたわ」
鈴「そうですね。師匠の悲鳴が聞けると思ったのに」
永「…あなた、意外とサドっ気があるのね」
輝「で、手紙には何て書いてあるの?」
永「ええとですね…」
「輝夜へ
お元気ですか。
私は元気です。
もう秋ですね。
妹紅より」
永「だそうです」
輝「何それ?」
鈴「意外と穏健ですね」
輝「いや、何か裏があるはずよ」
永「あ、もう一枚ありました」
輝「ほら、みなさい」
永「なにやら、良い香りのする紙が」
輝「もしかして、歌かしら?」
永「ええ、その通りのようです」
輝「腐っても貴族なのね」
鈴「あの人も腐女子だったんですか?」
輝「…そういう腐ってるじゃないわよ」
永「というか、あの人『も』って、他に誰がいるのよ」
輝「まあ、いいわ。とりあえず読み上げてちょうだい」
永「私がですか?」
輝「ええ」
永「では、失礼して。こほん…」
輝「………」
永「春のみぞ…」
輝「あははは! 春だって! 何を言ってるのかしらね! 今は秋だっていうのに!」
鈴「…自分だって、さっきまで夏って言ってたくせに…」
永「とりあえず最後まで聞いてください」
輝「そうね。どんなバカ丸出しの歌なんだか楽しみだわ」
永「では。こほん…」
春のみぞ盛りに匂ふ梅の花あき来たりては誰が香をかぐや
輝「………」
永「………」
鈴「………」
輝「もぉーこぉーうぅー!!」
鈴「お…怒った!?」
輝「今日という今日は許さないわ!!」
鈴「『かぐや』が入ってたのはわかりますけど、どういう意味ですか?」
永「梅は春にしか香りがしないから、秋にその香りを楽しむ人はいないって意味よ」
鈴「それで、どうして怒るんですか?」
永「梅に喩えられてるからよ」
鈴「といいますと?」
永「『秋』に『飽き』が掛かっていてね」
鈴「飽き?」
永「昔は男も寄ってきたのに、今はもう…うぷぷぷw。ってこと」
鈴「へぇ、そうなんですか」
輝「今回ばかりはやっつけてやるわ!」
永「…それ、今までに100回は聞きましたよ」
輝「ほっぺたをつねって、タテタテヨコヨコマルかいてチョンしてやるわ!」
永「…まぁ、いいですけど」
鈴「歌は返さないんですか?」
輝「なるほど。その手があったわね!」
永「教養の見せ所ですね」
輝「ふっふっふ。私を怒らせたことを後悔させてやるわ!」
永「頑張ってくださいね」
鈴「ホントに歌なんか詠めるんですか?」
輝「私を誰だと思っているの?」
鈴「死なない人」
輝「…いや、もっとあるでしょ」
鈴「すそ長い人」
輝「………」
永「まぁまぁ、実力を見せてあげたらいいじゃないですか」
輝「そうね。見てなさい、きしめん!」
鈴「私、きしめんじゃありません」
輝「永琳、書くものを」
永「こちらにありますよ」
輝「オッケー。妹紅の悔し泣きする姿が目に浮かぶわ!」
………
妹「うぷぷぷw」
慧「うぷぷぷw」
妹「今頃どんな顔してるんだか」
慧「きっと悔しがっているさ」
妹「いやー、今日は気分がいいな」
慧「してやったもんな。赤飯でも炊こうか」
妹「そうだね」
慧「めでたいめでたい」
妹「ちゃんと返事は寄こすかな?」
慧「ぐうの音もでないかもしれないぞ」
妹「だよねー。あははははは」
慧「あははははは」
ぴゅー
チ「そこのあんた、止まりなさい!」
妹「………」
チ「あんた、妹紅ね」
妹「…うん、まぁ…」
チ「はい、手紙よ」
妹「…ああ、ありがとう…」
チ「じゃあ、はい、いいものちょうだい」
妹「…は?」
チ「手紙届けたらいいものくれるって言われたのよ」
妹「…輝夜だな」
チ「はやく」
妹「ほら、魔法の石だ」
チ「何これ、ただの石じゃない」
妹「三日持ち続けないと魔力が宿らないんだ」
チ「ふうん、なるほどね。いいものもらったわ。じゃあね!」
ぴゅー
慧「ただの石だよな?」
妹「うん。三日もすれば忘れるだろうから」
慧「そうだな」
妹「それより、この手紙だよ」
慧「何でチルノに持たせたんだろうな?」
妹「もしかしたら、返歌と関係があるのかも」
慧「早速見てみるか」
妹「そうだね」
ぴらり
もみぢ葉の頃はさらなりうぐひすは春だに鳴かずかくや言ふらむ
妹「かぁ~ぐぅ~やぁ~!!」
慧「お…怒った!?」
妹「今日という今日は許さない!!」
慧「うぐいすは春さえ鳴かないで、こんなことを言っているのか。ということか?」
妹「うん、ホント生意気な奴め! 私の春を知らないくせに!」
慧「妹紅にも春があったのか…」
妹「何か言った!?」
慧「い、いや、何も…」
妹「しかも折り句になってるのよ!」
慧「え? ああ、本当だ…ってかバカって幼稚だな…」
妹「今回ばかりはやっつけてやるわ!」
慧「そうか。私も手伝うか?」
妹「いや、私一人で十分!」
慧「わかった、頑張ってくるんだぞ!」
妹「じゃあ行ってくる!」
慧「晩ご飯までに帰ってくるんだぞー」
妹「わかってるー!」
………
どごーん
妹「おんどりゃー輝夜ワレー!」
鈴「うわわわわ…なんか広島弁風の人が来ましたよ!」
輝「あら、来たわね妹紅!」
妹「てめえ、あんなこと書きやがって!」
輝「先に言い出したのはあんたでしょ!」
妹「ほっぺた出せコラ!」
輝「上等よ!」
がっ!
妹「いぎぎぎぎ!」
輝「うぐぐぐぐ!」
妹「わらひのじぇんしぇーきはしゅごかったのよ!」
輝「は、ろうせ、ぶしゃいくなおとこばっかりれひょ!」
妹「しょれはあんたれひょ!」
輝「わらひはイケメンばっかりよ!」
妹「は、しょの顔で?」
輝「あんらがひっはるかられひょ!」
妹「ぶーしゅ、ぶーしゅ!」
輝「あんららって変な顔よ!」
妹「これがかあいい顔らの!」
輝「は、自分れ言うとか!」
妹「らによ!」
輝「ほっちこそ、らによ!」
妹「いぎぎぎぎ!」
輝「うぐぐぐぐ!」
妹「いぎぎぎぎ!」
輝「うぐぐぐぐ!」
鈴「…仲がいいんだか、悪いんだか…」
永「ほっときましょ。疲れるだけだから」
鈴「それで師匠」
永「なあに?」
鈴「オチはどうしましょう?」
永「別にいいんじゃない?」
鈴「投げっぱなしですか?」
永「自然にオチるわよ。秋だもの」
鈴「え? それってどういう…」
永「ほら、早く戻って実験の続きよ」
すたすた
鈴「あ、待って下さいよ!」
たったったっ
鈴「あ! もしかして!」
たったったっ
鈴「秋(fall)!!」
て「そんな甘ったれたオチがある?」
鈴「…へ?」
ぱかっ
鈴「…あ、床が開いた…」
ぴゅーーーー……
鈴「てぇえええええええええゐ! 覚えてなさーーーー……」
て「はい、オチた。ぷひゃひゃひゃひゃ!」
歌に問題点を見つけた方は、そっとご指摘くださると助かります。




