義理3
慧「そうなんだ、すまない。ご想像の通り、三月下旬にもかかわらず、まだバレンタイン回なんだ」
妹「まあ、そんなめでたい行事なら一年中あっても困んないんじゃない?」
慧「バレンタインはめでたくない」
ガチャ
『おお、慧音先生!』
慧「久しぶりだな」
妹「私もいるけど」
『妹紅も久しぶり。どうしたの、急に?』
慧「いやなに、今日はバレンタインデーという日だと聞いたんでな」
『さすが先生。博識でおられる』
慧「む。嫌味な言い方をするんだな。やらないぞ?」
妹「あ、じゃあ私にちょうだい」
『ああごめんなさいごめんなさい。くださいください』
慧「ふふ。冗談だよ」
妹「ちぇ、惜しかったなぁ」
慧「…妹紅は散々食べたじゃないか」
妹「気にしない気にしない」
『でも先生、ちゃんとバレンタインの内容わかってる?』
慧「日頃世話になっている人にチョコレートを贈る行事。概ねそんなところか」
『ああ、誤解を生まない良い表現だ…』
慧「ふっ。敢えて『好きな人に送る』と言わなかったからか?」
妹「つまり慧音はこいつに興味ナシってことか」
『はっきり言うねえ、君は』
慧「まあ、色恋の方面は私の管轄ではないからな。他に期待するといい」
妹「期待できる人いるの?」
『ぐ…』
慧「こらこら、一目瞭然じゃないか。失礼なことを訊くんじゃない」
『先生、それのが失礼…』
慧「あ、いや別に、大方いないだろうとかは思っていないぞ。ほ、本当だからな」
『くぅー…まあ、いないんだけどね…』
妹「あはは。やっぱり」
慧「妹紅、こういう場合は『えー、絶対モテそうですよー』と言うのが流儀なんだ」
『…合コンか』
慧「とまれかくまれ、私からは貰えるんだ。無いよりはましだと思って受け取ってくれ」
『マシどころか、すごく嬉しいよ』
慧「量は少ないが容赦して欲しい。入手には苦労したんだ」
妹「そうそう。感謝してよ」
慧「やっと手に入ったと思ったら…」
『妹紅が目を離した隙に「うめぇ」とか言って食べちゃったんだね?』
慧「ご明察」
妹「てへ」
慧「まったく。バレないように箱に隠しておいたのに」
妹「しかたない、しかたない。甘いんだもん」
慧「チョコレートが、か?」
妹「いや、慧音の詰めが」
『…うめぇ』
慧「はぁ、とんだ笑い話になってしまったな」
妹「へへ。ほんとだね」
慧「…で、妹紅はいつ渡すつもりなんだ」
妹「ああ、うん」
慧「見ろ、あんまり遅いから、そわそわしてるじゃないか」
『…そわそわ…』
妹「いやあ、なんか気恥ずかしくてさあ」
慧「そういうものか?」
妹「少しだけね。まあとにかく、はい、あげる」
『…本当にいいの?』
妹「うん。慧音が半分ずつあげようって言ったから」
慧「こらこら、ばらしたら駄目だろう」
『…まあ、何であれ、うれしいよ。ありがとう』
妹「どういたしまして」
慧「本命は他に期待するといい」
『うん、まあ』
妹「いないけど」
『ぐぬぬ』
慧「こら妹紅…」
妹「えへへ」
慧「さて、そろそろ帰るかな」
『あ、うん。わざわざありがとうね』
慧「いやいや、この間のお礼さ。それでは、お暇するよ」
『じゃ、またねー』
慧「健闘を祈る」
妹「ゼロだったら罰ゲームね」
『えっ』
妹「楽しみにしてるからー」
『え…いや…』
妹「何させよっかなー」
『え…ちょ…駄目だって…』
妹「鼻から蕎麦食べてもらおっかなー」
『ぶっ…』
妹「いや、タバスコ一気にしよう」
『無理…』
妹「楽しみにしてるからー」
『あっ、ちょっ…いやあああああ!』




